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115話 二つの心臓、カジキとマグロ

 空漁猟の準備は、着々と進んだ。合間を縫って、大会の登録や商談などを済ませている。また大浴場にも行った。伝統の良さを残しつつ、斬新な発想を盛り込んだらしい。身体を休めるのに、最適だろう。


 順調に準備は進んだが、同時に空カジキマグロを釣る難しさも分かった。資料を見ると、驚きの特徴が記載されている。


 空カジキマグロは機動力や生命力に優れ、漁獲は非常に難しい。その理由は奴等が持つ二つの心臓にある。一説にはカジキの心臓と、マグロの心臓が共存しているという。これが長時間の高速飛翔を可能とした。ゆえに、空カジキマグロと呼ぶ。真偽はともかくとして、並外れた生命力であることは事実みたいだ。


「ヤマトさん、もう準備は終わりましたよね」

「完了ですよ。この一週間、お疲れ様です」


 俺はサクラさんに、労いの言葉を掛けた。今日の夕刻まで、ずっと忙しく動いていたからな。皆、疲れているだろう。




 そして今は、出発の前夜。クルスさんとパストールさんの二人が、炎雷丸へ泊まりに来ていた。クルスさんは明日の早朝、訓練合宿に向かう。俺たちは、空の旅へ出発だ。空カジキマグロについては、伏せたままである。


 夕食が終わり(くつろ)いでいたら、発着場入り口から来客を告げられる。名前を聞いて驚いた。物質強化のクラース。帝都では有名人だ。ソウルスキルの使い手であり、実力派の騎士と名高い。帝都に来る途中で会った、あの騎士だ。


「夜分遅くに失礼する、ヤマト」

「構いませんよ。それで、どうしたのですか?」


 休憩室の入口まで、来てもらった。気のせいか、姉弟が警戒しているような。


「クルスとパストールに、受け取ってほしい物がある。渡してもらえるか」

「そこに座っていますよ。どうぞ中に入ってください」


 というか明らかに、見えている位置だ。三人とも、気まずそうな顔をしている。何かあったのだろうか。クラースさんが、姉弟の近くまで進んだ。


「壮健にしていたか。二人に魔石を渡したい。首飾りにしたので、身に着けてほしいと思っている」

「ありがとうございます、クラース様。パストール、お礼を」

「……ありがとうございます」


 クルスさんの方は、普通に話しているな。警戒していると思ったのは、気のせいだったか? そしてパストールさんは、分かりやすいくらい隔意がある。ただ悪意とは違うみたいだ。


「邪魔をした。もう俺は戻る。ヤマト、二人のことを頼む」

「最善を尽くしますよ」


 その後、二人がクラースさんについて話してくれた。十年ほど前のことである。姉弟の両親は飛空船での移動中、魔獣に襲われ亡くなった。騎士団が魔獣を逃がした結果らしい。そのときクラースさんは、騎士団で見習いをしていた。二人が訃報を聞いたとき、側に控えていたとのこと。


「別にクラース様が、悪いと思っているわけではない。遺品だって、丁寧に扱ってくれた。それで良かったのに、最近になって顔を見せてきた」

「あの方は私と同い年なので、当時は十歳ほど。騎士団という組織で、責任を負う立場ではありません。だけど急に家を訪ねるように、なったのです」


 騎士団の一人として、あのときの謝罪をしたいと言われたみたいだ。十年後の、今になってか。


「今は明日のことを、考えましょう。クルスさん、お風呂はどうですか。町にある大浴場には及びませんけど。身体の疲れは、取れますよ」

「あら、ありがとうございます」


 クルスさんは風呂へ向かう。他の女性陣も一緒だ。残ったのは、パストールさん

と俺だけ。


「両親が亡くなったとき、オレは五歳だった。当時の記憶なんて、ほとんどない。でも、カジキマグロのことは覚えている。アニキ、どうか力を貸してくれ!」

「もちろんですよ。そのために、準備をしましたから」


 それでも絶対に獲れるとは言えない。空の恵みは、授かりものだ。運が悪いと、どうしようもない。全力を尽くすとしよう。


「さて明日は漁に向かいます。空カジキマグロ、獲りましょう」

「よし、がんばるぞ!」


 これだけ元気なら、きっと目的を果たせるだろう。明日は早いからな。そろそろ

寝る準備をするか。




 当日、出航の時が来た。すでにクルスさんは、訓練合宿に向かっている。俺たちも出発しよう。まずは五人で炎雷丸に乗り、漁場へ行く。


「アニキ、釣れるかな?」

「まずは自信を持ちましょう。作戦は考えました」


 漁場までの行程において、役割を分担した。まず操船担当がマリアさん。資料を基に、漁場への道を示すのがパストールさん。ピヌティさんが、周囲の警戒。また移動中も、空カジキマグロには注意してもらう。サクラさんは魔獣に遭遇した際の対処。俺は全体を見て、臨機応変に動く。


 半日が過ぎ、やっと港町に到達。手続きをしたら、空魚を探しに結界外へ出る。本番は、ここからだ。魔獣に気を付けながら、慎重に進んでいく。


「ヤマト君、まだ炎雷丸でいいの」

「乗り換え予定地点は、まだ先ですね」


 炎雷丸は大型飛空船。魔獣と違い通常の空魚は、大きな魔力を感じると逃げ出すことが多い。逃げないのは、せいぜい中型飛空船くらいまでだ。


 さらに半日ほど進む。空カジキマグロは見つからない。まあ、これは予想通り。明日が勝負だ。時間の都合上、明日の夜には帝都へ向けて船を出す。


「見えた! 目印の浮島だ!」

「マリアさん。減速、お願いします!」

「了解!」


 目印となったのは通称、三つ子島。一直線に並んでいるから、分かりやすいな。ここから先は、魔の空域と呼ばれているらしい。魔獣と頻繁に遭遇するみたいだ。今日は一泊して、明日の朝から漁猟を開始する。とにかく休もう。




 朝だ。空カジキマグロの漁には、いくつかの方法がある。しかし、許可が必要な漁法も多い。特に魚網を使う場合は、届け出が必須となっている。特別な許可なしで取れる方法は少なく、ほぼ選択の余地はない。


 俺たちは一本釣りで獲物を狙う。そのための道具を用意した。風雷号に設置した大型魔導リールや、魔導電気ショッカー。これらは実際に購入した物をベースに、飛空船創造スキルで強化している。スキルだけで創造するよりも、かなり高性能になるからだ。


 エサは空イカと空トビウオを使用する。この二種類は、状況に応じて付け替えるつもりだ。装備やエサなどの購入費は、チームの活動資金から出している。商談も上手くいったし、問題ないだろう。特に衣料品が思った以上の高値だったな。


「竜人船、発進します。新装備の釣竿も、いい感じですよ」

「人型飛空船が持つ巨大な竿か。アニキ、よく準備できたな」


 これは完全に飛空船創造スキルの賜物(たまもの)だ。姉弟にはソウルスキルのことを話していない。下手に情報を渡すと、迷惑になるかもしれないと思ったのだ。


「パストールさんの方は、大丈夫ですか?」

「もちろんだ! 父さんの釣竿、絶好調だぜ!」


 父親の遺品だが、ぜひ使いたいと言われた。かなり上等な魔導釣竿であり、魔石による強化も可能だ。さらに変換効率も良いときている。生活が苦しくても、これだけは死守したようだ。


 漁場が近い。炎雷丸を停止させ、魔獣の警戒に当たってもらう。奴等が来ると、空魚が逃げ出すからな。同時に囮の役割もある。

 実際に釣るのは竜人船を操作する俺と、風雷号に乗るパストールさんだ。装備の扱い方は、時間を見つけて訓練した。


「後は勝負の時を、待つだけです」

「なあ、アニキ。資料は間違っていないよな」


 直前になって、自信が揺らいだのか。弱気になる気持ちは分かるけど、俺も一緒に沈んでは駄目だな。はっきりと声を出す。


「全員で確認しました。後は信じるだけです」

「うん、わかったよ!」


 資料に記載された時間は夕方だ。黄昏時から日没までの、わずかな時間。そこに空カジキマグロの大群が出現するらしい。十年前の資料に信憑性があるか。誰でも疑問に思うだろう。俺は掛ける価値があると考えている。

 その資料は師匠から弟子に、そして現在は息子に。何十年も更新を続けながら、引き継がれてきたものだから。十年くらいのブランクは誤差だろ、多分。


 そろそろ夜明けだ。よし、作戦を開始しよう。夕方前に釣れるなら、それに越したことはない。

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