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114話 空漁猟、準備開始

 大通りを外れ、裏路地に入っていく。やがて辿り着いたのは一軒の建物。今にも崩れそうで、少し怖いな。


「ここがオレの家だ。見ての通り、ボロボロだろ。修復する金がないんだ」

「ねえ、パストール君。人型飛空船の維持は大丈夫なの?」


 闘技大会について、詳しく調べるのは明日からだ。だが一回や二回の試合では、終わらないはずである。飛空船は維持するにも金が掛かる。マリアさんの疑問は、俺も気になった。


「大会に使う飛空船は、貸し出しなんだ。企業が搭乗者を募集して、なんとか合格できた。正規ではなく、候補の一人だけど」

「ほう、そんな仕組みがあるのか」


 ピヌティさんが、興味を持ったようだ。


「あくまで候補だからね。訓練の成績が悪ければ、続けることはできない。だけど俺たちみたいな貧民層が上を目指すなら、搭乗者になるか魔獣を狩るかの二択だ」

「それで搭乗者を目指したのですか」

「そういうことだよ、アニキ! 訓練中でも多少の給金は出るから、生活していけるのさ!」


 なるほど。試合の賞金は、企業と分割するらしい。それでも結構な額が獲得できるみたいだ。希望者も多く、狭き門だと聞いた。


「ところで闘技大会について、知っていることを教えてください」

「特に複座式の試合は、どうなるのでしょうか」


 サクラさんの質問を、俺が補足する。彼女が一番、興味を持っていることだ。


「最近まで問題があったらしいけど、開かれることに決まったよ。おかげでオレは選手に繰り上がりだ。主に成績上位者が、複座式に乗るらしい」

「もしかして個人戦と複座式戦は、同時に出場できないのですか?」


 今の話だと、その恐れがあるな。


「いや、できるよ。だけど、最初は駄目だった。その後に出場可能になったけど、繰り上がり選手は変更なし」

「それは良かった。サクラさん、俺たちも出場しますよ」

「はい! 優勝を目指しましょう!」


 そういえば当初の予定だと、優秀すぎない成績で抑えるはずだったな。部外者が目立つと、妨害や嫌がらせがあると聞いた。だけど主導していた元凶は失脚した。優勝を目指しても、いいのだよな。可能かどうかは、おいといて。


「そうですね。せっかく出場するのです。優勝を狙いますか」

「アニキは個人戦も出るんだろう! オレも負けないぞ!」


 話が盛り上がってきたな。まだ登録も済んでいないけど。話をしていると、遠くから一人の女性が歩いてきた。あ、彼女が姉だな。パストールさんより長身だが、顔立ちが似ていた。黒髪を肩まで伸ばしている。こちらに気付いたようだ。足早に近付いてくる。


「パストール、どうしたの? この人たちは、どなた?」

「あ、姉さん! オレは来週、数日間の休みがあるだろ。その間、雑用係で雇ってもらえることになった。家族に挨拶をしたいと言ったから、案内したんだ」


 俺たちは、四人で自己紹介をする。


「私はパストールの姉、クルスです。弟を雇用すると聞きましたが、理由を教えてください」

「パストールさんが、アカリさんの弟子だと伺いました。俺も彼女に指導を受けており、これも何かの縁と思い手伝いを頼んだのですよ」


 ということになっている。空カジキマグロについては、まだ秘密だ。心配を掛けるかもしれないし、失敗する恐れもあるからな。


「アニキは凄い魔導師なのさ! 聖女アカリ様から、直々の手紙を授かったんだ。それを見せたら、回復魔導師労働組合の奴等が頭を下げていたよ!」

「まあ、そうだったの! ヤマトさん。弟のことを、お願いします」


 え? 今ので、信じたのか? もう少し疑った方がいいのでは。


「ところで、パストール。私たちはアカリ様から、多少の手解きをしていただいただけよ。弟子と名乗るのは、言い過ぎじゃないかな」

「でもアニキは、同門だと認めてくれたんだ! 魔力の流れで分かるって!」


 基本は身に付いたようだし、弟子と名乗っても構わないと思う。アカリさんは、気にしないだろうし。それよりも一つ、気になる発言があったな。


「クルスさんも、魔法を習ったのですか?」

「姉さんは凄いよ! 回復陣が使えて、アカリ様も褒めてくださったんだ!」


 結界術と治療魔法に長けていないと、使えないはずだ。優秀なんだな。


「クルス殿に質問がある。優勝の自信は、いかほどか?」

「ええと。最善は尽くしますけど、優勝できるかは分かりません」


 急にピヌティさんが問い掛けた。どうしたんだろう。考えていたらサクラさんが近付いて小声で話し掛けてくる。


「おそらく賭けの勝率を上げようと、情報を引き出したいのですよ」

「……闘技大会だと、関係者も賭けられるのでしたね」


 出場者本人も、自分に賭けるのだけは認められている。そして関係者に制限は、無いらしい。出発前に調べていたな。飛空船競技会とは、かなり規則が違う。


「ピヌティちゃん。せめてヤマト君に賭けようよ。あたしたち、チームじゃない」

「いや、誤解だ! 出場者を知ることで、ヤマト殿の手助けになるだろうと」


 一応、チーム内でルールを決めてある。使う金額は、自分の手持ち分だけ。借金もしない。だから酷いことには、ならないだろう。

 ふと見たら、マリアさんが考え込んでいる。迷っているようだ。


「うーん。あたしも試してみようかな。応援の意味も込めて」

「ほどほどに、してくださいよ」


 まあ無茶な金額でなければ、問題ないだろう。二人と違い、サクラさんは平然としているな。


「サクラさんは、あまり興味を持っていませんね。参加しないのですか」

「私はヤマトさんに賭けますよ。手持ちの全てを」


 一瞬の惑いもなく、言い切られた。迷いが無いから、平然としていたみたいだ。負けられなくなったな。


「あの、ヤマトさん。よろしければ中に入りませんか。狭い家ですが、四人ならばなんとかなりますので」

「あ、いえ。本日は挨拶に伺っただけですので。こちらはカイス王国の土産です。弟さんと召し上がってください」


 中身は日持ちのする菓子だ。定番だろう。この日は炎雷丸に帰り、皆で話し合いをした。内容は当然、依頼の件について。ただ、あまり進展はなかったな。全員、空魚漁(そらうおとり)は素人だ。専門家に話を聞いた方が、いいかもしれない。




 次の日、パストールさんは訓練に行く。俺たちだけで、準備を進めるつもりだ。本人も了承している。俺たちの指示に従うとのこと。


「とりあえず、テノプル空漁業協同組合連合会に行きましょう」

「空魚漁の達人に、話を聞くのだな」


 だいたいの場所は、パストールさんに教えてもらった。飛空船発着場から、遠くない所だ。準備したら、すぐ行こう。――数十分後、連合会本部に到着した。


「大きな倉庫があるね! お魚さん、運ぶのかな!」

「きっと、そうでしょう。あ、飛空船が入っていきますよ」


 町中で飛空船を使うのは、特別な許可が必要だ。空魚漁の関係者だろう。


「見てないで、入らないか」

「そうですね」


 ピヌティさんの言葉で、意識を引き戻す。今は飛空船を見ている場合ではない。中に入ろう。今度、ゆっくり見学できたらいいけど。


「あれ? 初めての、お客様でしょうか」

「そうですけど、よく分かりましたね」


 入ったら、すぐ近くに人がいた。若い男が、作業をしている。邪魔したかな。


「ここは、だいたい顔見知りですよ。港町だと遠征の空魚漁師(くうぎょりょうし)で賑わいますが」

「そうでしたか」


 なら姉弟の父親も知っているか。空カジキマグロについては、伏せておいた方がいいな。噂になって、クルスさんの耳に入るかもしれない。


「おーい、若いの! 対応は俺がするから、お前は仕事を済ませちまえ!」

「わかったっす、主任! お客さん、失礼します」


 男は作業を再開する。そして主任らしき人物が、近付いてきた。四十路くらいの男性。がっしりとした体格。いかにも空魚漁師という感じがする。


「あー、あんた。昨日、パストールと一緒にいたよな。どんな関係なんだ?」

「数日間だけ、雑用係を頼んだのですよ」


 相手が誰か分からない。話す内容は、できるだけ少なくした。悪い印象は受けないけど、判断を下すのは早い。


「そうなのか。ずいぶんと楽しそうに、話していたみたいだな。両親が亡くなってから、笑うことも少なくなった。感謝するよ」

「同門ですからね。ところで、貴方は?」


 知り合いなのは、間違いないだろう。


「パストールの父親に、金を貸していた者だ。その縁で姉弟(きょうだい)も知っている」

「もしかして飛空船を差し押さえました?」


 借金の形に取り上げられたと、言っていた気がする。残ったのは、一本の釣竿だけとも。


「その通りだが、事情があってな。飛空船の維持には、かなり金が掛かる。さらに設備へ投資した分の返済も、完了していない。放っておくと、姉弟が自滅する恐れもあったんだ」

「その飛空船は、どうしたんですか?」

「最低限の維持だけして、俺が預かっている。いつか、返してやりたいのだがな」


 どうやら二人を心配しているみたいだ。それから空漁猟(そらぎょりょう)について、色々と教えてもらった。俺を通じて、姉弟に伝わることを期待しているのだと思う。出発まで、まだ時間がある。しっかりと準備したい。

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