112話 到達、帝都テノプル
早朝に港を出発した。半日ほど掛けて、帝都テノプルへ辿り着く。港で発行してもらった許可証では、ここまで街道を使用することができる。外部から闘技大会に出場する者のことを考え、条件が緩くなっているのだろう。
飛空船で街道を進むときは、許可が下りない場合も多い。また許可を得るのに、時間が掛かるときもある。
「まずは飛空船発着場に向かいます。格納庫が空いていると、いいのですけど」
「闘技大会で人が集まると言っていましたよね。ヤマトさん、大丈夫でしょうか」
サクラさんに聞かれたが、答えは出ない。行ってみるしかないな。闘技大会まであと一週間と少し。混雑しても、おかしくない。
「今度こそ魔獣狩り協会で、素材を貰わないとね!」
「しかし手続きの時間を考えると、少し待つ場合もあるでしょう」
素材は軍の輸送船で運ぶと聞いた。交代制で飛行を続けるため、俺たちより先に帝都へ着くだろう。だけど運搬の手続きを行う手間が掛かる。時間が読めない。
「そこは実際に行ってみて、確かめればいい。それより通用門が近いぞ」
「マリアさん、減速してください。大型飛空船用の出入口に行きましょう」
「わかったよ!」
無事に手続きを終え、格納庫に炎雷丸を停めた。空いていて、よかったな。外の停留所は、野晒しだから置きたくない。それと飛空船創造スキルも使いにくい。
「それでは俺とサクラさんで、魔獣狩り協会に向かいます」
「私とマリアで、魔獣退治組合だな。港町の行動と一緒か」
こういうとき、チーム登録のありがたみを実感する。各種の報告を、分担できるからな。さっそく町に出るか。手続きの際に、主要な行先の場所は聞いている。
「ヤマトさん、行きましょう!」
「慌てなくても、協会は逃げませんよ」
飛空船発着場の出入口を通り、町の中に行く。美しい建物が並んでいた。最大の特徴は、巨大な闘技場だろう。そして闘技場へ続くように、広い道が続いている。人型飛空船が、余裕で通れる道だな。資料によると、建物の多くにコンクリートが使われているらしい。
他には精巧に作られた水道や、大浴場が有名みたいだ。俺たちは時空魔石の他に水生成魔道具も探している。関係があるかもしれない。調べようと思う。
「あ! 見えてきましたよ、サクラさん」
「わりと近かったですね」
さっそく、中に入ろう。今は昼を少し過ぎたころだな。そんなに人が多くない。待ち時間は短いはず。手近な受付に行き、用件を告げた。すでに素材は届いているらしい。輸送班の皆さん、ありがとうございます。
だが受け取る前に、支部長に会ってほしいと言われた。急ぎの仕事を片付けたら面会できるらしい。十分ほどで終わると聞いたから、協会内で待つことにしよう。その間に、納品依頼を確認していく。二人で掲示板の前に移動した。
「見てください、ヤマトさん。カイス王国とは、生息する魔獣が違いますね」
「聞き覚えのない素材も、多いですよ」
そんな話をしていたら、受付の人に呼ばれた。支部長に会えるとのこと。すぐに向かおう。サクラさんと二人で、案内された部屋に行く。
支部長室の前で、立ち止まる。軽く扉を叩き、入室の許可を貰った。なんとなく初めて王都カイスに来た日を思い出すな。グランザード元支部長と面談した覚えがある。
「失礼します」
「来たな、座るといい」
中にいたのは、細身の女性だ。ダークブラウンの髪を後ろでまとめている。白い肌に茶色の瞳。ずいぶん動きやすい服装をしていた。現役の狩人のように見える。
一礼をしてから、用意された椅子へと腰掛けた。
「素材は倉庫に置いてある。回収するように。そのまま納品しても構わないが」
「飛空船の強化にも使います。一度、持ち帰るつもりです」
「そうか。自由にしてくれ」
これで素材の話は終わったようだ。非常に、あっさりだったな。でも本題の話はこれからだろう。
「君のことは、グランザード殿から教えてもらった。彼が退任する前のことだな。知り合ってから長い時が経つけど、初めて手紙が届いたよ。ずいぶんと君のことを高く評価していた」
「それは初耳です」
わざわざ手紙を書いてくれたのか。それも高評価みたいだ。夢幻島に帰ったら、お礼を言わないとな。気になるのは、知人がいることを黙っていたこと。
俺が探すことで疑いが深まらないよう、気を遣ってくれたのかな。カイス王国の関係者が、人を探し回っていたら疑念を持たれる。
「ところでグランザードさんとは、どこで知り合ったのですか?」
「私は一時期、カイス王国にいたのさ。目立つ人間とは、だいたい顔見知りだよ。そして彼の退任は、私が支部長の就任を決意したきっかけでもある」
グランザードさんは退任する直前に、多くの知人へ手紙を出していたみたいだ。手紙の内容は、主に今まで世話になった人への礼。その一部に俺のことも、書いていたとのこと。
「それより本題に入ろう。これから私の質問に答えてもらう」
そして問答が始まった。大部分は、捜査班長やクラースさんに聞かれたことだ。特に詰まることなく、答えていく。たまに心理テストみたいな質問があるのは新鮮だった。
それから俺の経歴についても話していく。おそらくアクスさんのことも知っているだろうと思い、名前を出したら驚いていたな。一緒に依頼を受けたことも、あるらしい。
「だいたい、分かった。君は危険分子でないと、協会が保証しよう」
「ありがとうございます」
助かるけど、判断が早くないか。今の会話で、どんなことが分かったのだろう。
「それにしても夢幻島か。私も移住したくなった」
「支部長は、ここの責任者ですよね?」
「もう私の役目は終わるよ。旅人を守るために、支部長の役職に就いたのだから。圧力を掛けていた首謀者は檻の中。関係者も軒並み失脚。まず再起は不可能と判断していい」
疲れた様子で、ため息を吐いている。知人もいるようだし、本当に夢幻島へ来るなら歓迎したい。
「さて、時間を取らせたね。もう退室しても構わない」
俺は丁寧に礼を言って、部屋から出た。そしてサクラさんと顔を見合わせる。
「ヤマトさん。協会の保証もありますし、もう大丈夫でしょうか?」
「分かりません。後は状況を見て、判断するしかないですね」
支部長と夢幻島のメンバーに、関わりがあると知った。これが一番の収穫だな。そして倉庫で素材を受け取った。
通路に出たら、受付の方が騒がしい。
「なあ、頼むよ! 金は後で必ず払うから! 姉さんと一緒に、闘技大会へ出る。優勝すれば賞金が入るんだ!」
「すみません。依頼は原則、前払いとなっております」
一人の少年が受付で揉めているようだ。小柄で褐色の肌、黒の短髪。見た感じ、十五歳くらいかな。闘技大会と言っていた。姉と一緒に出場するらしい。ちょっと気になる。
「手持ちだと厳しいんだ! 今ある金は全て渡す、残りも絶対に払う!」
「申し訳ございません。緊急時を除き、分割払いは認められていないのです」
依頼を出したい少年と、金が足りずに拒否している受付か。対応している女性も大変そうだな。困った様子で、少年に規則を説明している。
「どうしましょう、ヤマトさん?」
「事情が分かりませんし、何もできないと思います」
変に部外者が首を突っ込むと、状況が悪くなる恐れも考えられるだろう。
「なら仲間を紹介してくれ! そこで働く代わりに、依頼を受けてもらいたい! オレは解呪や浄化の魔法が使える。役に立つから!」
「そう言われましても……。ところで、本当に浄化魔法が使えるのでしょうか? 嘘を言うと、後で酷い目に合いますよ」
受付の女性が、疑いの目を向けている。特殊な素質が必要だからな。気持ちは、分かる。
「本当だって! 町を訪れた聖女様から、少しだけ教えてもらった! 筋がいいと褒められたんだ! 知っているだろ? 町を救った聖女アカリ様だよ!」
よし、話を聞こう。




