111話 新目標、戦艦型飛空船
捜査班長の合図で、班員が小型船を発進させた。間近で見たら、戦艦の巨大さが実感できる。短い旅を終えて、戦艦型飛空船の内部に入った。ここは格納庫だな。多くの飛空船が保管されている。この雰囲気、いいと思う。
「俺は別の案件がある。後は班長の指示で動くように」
「承知しました」
足早に、クラースさんが去っていく。騎士も大変そうだ。さて許可証を受け取りに行かないと。
当然だが、戦艦内では自由に動けない。先導に従って事務室に行き、注意事項の説明を受ける。その後、入国許可証を受け取った。最寄りの港にだけ有効だ。正式なものは改めて発行される。
そして素材の話になった。事務室の隣に倉庫があり、そこで対応を行う。班長に続いて倉庫に入った。
「ヤマト殿、素材を置いてくれるか」
「それでは、どんどん取り出しますよ」
とりあえず端の方から順に、並べていこう。そこまで数が多くないので、すぐに終わった。
「ご苦労、鑑定は我々が受け持とう。後日、魔獣狩り協会へ行ってほしい。素材を渡しておく。構わないか?」
「問題ありません。飛空船の強化が楽しみです」
道すがら欲しい素材の希望は出しておいた。ある程度、考慮してくれるらしい。期待しておこう。
「よし。それでは大型飛空船まで、送り届けよう」
「お願いします」
ボートやイカダを召喚すれば、一人でも戻れる。異空間倉庫を使ったふりして、取り出したように見せればいい。
しかし断るのも失礼な気がして、送ってもらうことにした。他人の飛空船に乗るのは、貴重な機会だからな。距離は短いけど。
「格納庫から発進する船、いいですよね」
「よく分かる」
炎雷丸の格納庫は、前甲板の下部分だ。この戦艦だと、後方に設置されていた。見ていると、戦艦型飛空船が欲しくなるな。新しく創造してみようか。
「到着した。ヤマト殿、手間を掛けたな」
「送迎、ありがとうございます。すぐ許可証を貰えたので、助かりましたよ」
これは本音だ。もっと時間が掛かると、覚悟していた。港に着くまで、まだ距離がある。別の臨検部隊と、遭遇することもあるだろう。そのとき許可証が、大いに役立つはずだ。軽く挨拶を交わし、捜査班長たちが戦艦に戻る。
やっと休憩できそうだな。サクラさんとピヌティさんが、近付いてきた。戦艦の様子を話しておくか。
「――というわけで許可証を頂きました。港へ向かいましょう」
「分かりました。日が暮れる前に、この場を離れるべきですよね」
サクラさんの言葉で、夕方が近いことに気付く。戦艦内にいると、時間の経過が分かりにくいな。
「マリアさん。方角を確認後、港に向かってください」
「わかった! ちょっと待って!」
言われた通り、少し待つ。
「進行方向、確認! 炎雷丸、発進するよ!」
ずいぶん早かったな。待機中に場所を把握していたのだと思う。おかげで速やかに出発できる。
日没までに、できるだけ進んだ。ここで今日は空中泊となる。結界を強化して、全員で休むつもりだ。すでに帝国の空域内。ある程度は安心できる。夕食の後に、少し時間を貰った。
「戦艦型飛空船を、創造したいと思います。少しずつ準備を進めるつもりですが、何か要望はありませんか?」
「警戒の方法を考えてほしい。船が巨大になれば、後方に死角が生まれやすい」
ピヌティさんの意見に、少し考える。警戒の基本は、彼女の視覚に頼っていた。操舵室には魔導遠見筒もあるけど、十分な性能とは言えない。
「優先課題の一つですね。何か思い付いたら、ピヌティさんにも伝えます」
「私も少し、思案してみよう」
警戒なしに、空の旅は不可能だ。解決しない限り、実際の運用は無理だからな。フェリーでは何とか対処している。しかし戦艦は、さらに大型だ。帝都テノプルに着いたら、資料を探したい。
「基本の施設は、どうなるの? 訓練場とか」
「炎雷丸にある部屋は、戦艦型飛空船にも設置するつもりです」
マリアさんは頻繁に、射撃場を利用している。やはり気になるのだな。訓練場や休憩室などは、グレードアップを目指す予定である。また娯楽室や遊戯施設なども創ろうと考えている。内容は未定だけど。
「格納庫の場所に、変更はありますか?」
「炎雷丸と同じように、前甲板の下にするつもりです」
後方も良さそうだけど、甲板での戦闘も考慮して前方に設置しよう。時空魔法で格納庫を拡げることも忘れない。
「船の武装は? さっきの戦艦には、魔導火砲や魔導機関銃などが見えた」
「まだ考えていません。ピヌティさんは、必要だと思いますか?」
「使いこなせれば、有用ではあるな。不可欠とまでは、言わないが」
とりあえず可能なら創造しておくか。命中精度が低くても、牽制には十分だ。
「ところでヤマトさん。大きさは、どのくらいでしょうか?」
「外観は炎雷丸より、一回り大きくするつもりですよ。それと内部は、時空魔法を最大限に活用します。見掛け以上に、広くなるでしょう」
大型船を超える、巨大船だな。
「それと帝国の戦艦も、格納庫を拡大しているみたいでした。時空魔石を利用しているのだと思います」
「なるほど。だから多数の人型飛空船を、運用できるわけか」
ピヌティさんは、納得したように頷いていた。
「でも、いつ創るの? 帝都に着いたらすぐ?」
「この国では、調べるだけです。探す資料の方向性を、考えたいと思いました」
おそらくカイス王国よりも、戦艦型飛空船の情報が集めやすいはず。機密事項に属することは無理だろうけど、それは王国でも同じだ。
「まだ時間はありますので、気付いたことがあったら教えてください」
さすがに一日や二日で、できることではない。気長に挑戦しようと思う。途中で良いアイデアが浮かぶことを期待したい。
それから一週間ほど後、帝国の港が見えてくる。一週間で二回ほど、臨検部隊に呼び止められた。最初を含め、合計三回の臨検。それだけ警戒しているのだろう。しかし許可証の信頼性が高いな。見せると、短時間で解放された。
「魔獣との交戦よりも、臨検の方が疲れますね」
「ヤマトさんもですか。私も同じように思いました」
変に気疲れする。そして、これから港で手続きだ。毎回、大変なんだよな。早く終わるといいけど。――意外に、早く終わった。そこで新しい許可証を受け取る。帝国の首都テノプルに向かうのは、明日の朝にする予定だ。借りた格納庫に行き、出発までの行動を話し合う。
「まず最初に、魔獣狩り協会へ行きます」
「魔獣退治組合もだな。私だけで報告してこよう」
「あたしも行くよ。納品依頼の掲示板を見たいから」
ピヌティさんの提案は助かるな。マリアさんと一緒に、組合へ行ってもらおう。素材の需要や価格を、チェックするのだと思う。協会でも掲示板を確認しないと。
「それなら、私はヤマトさんと一緒ですね。接近戦なら、任せてください!」
「……お願いします」
きっとトラブルが起きたときの話だろう。
「ところで商品の販売は、どうしましょう?」
「俺は帝都で商売した方が、いいと思います」
「あたしも賛成。高い値で売りたければ、首都に行くのが基本だからね」
それと相場の情報も、集まりやすいはず。いつか本格的に交易をする日が、来るかもしれない。今の内から、しっかり勉強しておこう。
話し合いは終わった。さっそく行動しよう。勢い込んで協会に行ったら、帝都の支部に顔を出してほしいと言われた。素材の受け渡しも、そこで行う。掲示板だけ確認して、外に出る。
格納庫に戻り、組合に行った二人と合流した。納品依頼の内容を聞くと、協会と似たり寄ったりみたいだ。観光するには、中途半端な時間か。長旅で疲れている。もう今日は休むことにした。帝都で用事を済ませてから、ゆっくり町を回ろう。




