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110話 連携戦、再生アゲハチョウ

 竜人船トライバスターを発進させてから、数分が経過した。いつでも戦闘可能な状態で待機している。


 戦艦型飛空船から、巨大な人影が出てきた。黒い人型飛空船。竜人船と同じくらいの大きさだ。飾りは極端に少ない。きっと戦闘に特化しているのだろう。武装は剣と魔導銃か。


「遅れた! 黒狼船、合流する!」

「行きましょう。再生アゲハチョウが迫っています」


 やはりクラースさんか。名前は黒狼船らしいな。会話は主に風魔法を利用する。魔導通信機は、相手側との調整が必要だ。


「戦闘方針は?」

「最初に炎雷丸から、砲撃を撃ち込みます。混乱したところを、各個撃破です」


 訓練もしないで、緻密な作戦は難しいだろう。互いが邪魔をせず、各船の能力を活かしていく。連携の始まりは、ここからだ。


「炎雷丸とは、その大型飛空船だったか。ならば戦闘開始の合図は任せる」

「分かりました。射程に入り次第、撃ち放ちます」


 しばらく待っていたら、はっきり魔獣の姿が見えてくる。かなり大きいサイズ。前翅長(ぜんしちょう)は一メートルを超えそうだな。資料で知ってはいたが、目の当たりにしたら驚く。羽の色は、それぞれ異なっている。色とりどりだな。


「鱗粉に気を付けろ、船の動作が止まる。そして猛毒だ。敵に幻覚を見せながら、じわじわと魔力を奪っていく」

「話には聞きましたが、厄介な能力ですね」


 会話をしつつ、魔獣の警戒を怠らない。もうすぐ炎雷砲の射程に入る。このまま近付いてくるなら、数分も掛からないだろう。――そして、遂に捉えた。


「マリアさん! 威力、最大! 炎雷砲、発射!」

「いくよ! 炎雷砲、当たれ!」


 再生アゲハチョウに、雷を纏った炎が襲い掛かる。巻き込まれないよう、距離を取った。魔力制御による識別は、まだ訓練中である。

 炎雷砲は魔獣の群れに衝突し、周囲に炎と雷を巻き散らす。これなら鱗粉ごと、燃やし尽くせるはずだ。


「命中! 各個撃破、始めます! マリアさんは、そのまま待機してください!」

「なんて威力だ! 軍用の飛空船に、匹敵するぞ!」


 二人が同時に、人型飛空船を加速させた。一気に魔獣との距離を詰める。先程の射撃で倒せた再生アゲハチョウは消滅した。だが傷を負っただけの個体は、すでに回復を始めている。


「俺は右に行きます! クラースさん、左を頼みました!」

「いいだろう!」


 相手の再生力からして、中途半端な攻撃は無意味だ。一体ずつ確実に仕留める。


「竜炎牙刀、雷炎斬!」

「黒き狼の牙!」


 黒狼船は剣を振るい、次々と再生アゲハチョウを(ほふ)っていく。


「ヤマト、鱗粉だ! 一度、離れるぞ!」

「大丈夫です! 広範囲浄化魔法、発動!」


 毒があるなら、浄化すればいい。


「鱗粉毒を無効化したか!」

「効果時間は長くありません! 急いで倒しますよ!」


 範囲を広げた分、持続時間は短い。俺たちは可能な限り、迅速に魔獣を討伐していった。毒さえ防げば、単体の戦闘能力は高くないようだ。全滅まで多くの時間は必要としなかった。


「再生アゲハチョウ相手に、ここまで完勝したのは初めてだな」

「それは良かった。素材は山分けで頼みますよ」


 戦闘しながらも、隙を見つけて収納している。ただし、俺が倒した魔獣だけだ。クラースさんとは距離が離れており、回収は難しい。だからといって、素材の独り占めは駄目だ。協力してこその戦果だからな。


「……きっちり異空間倉庫に収納していたのか。余裕があるな」

「飯の種ですからね。必死に訓練しましたよ」


 最初の頃は、なかなか上手くいかなかった覚えがある。だいたいは戦闘終了後に拾うだけだったからな。今では戦闘に影響しないほど迅速に、素材を回収できる。

 大型飛空船を襲うような魔獣は、それだけ魔力が高く素材を落としやすい。放置するのは精神に良くないと、力を入れて訓練した。


「そんなことより戻りましょう」

「そうだな。部隊の仲間が心配だ」


 口調から堅苦しい騎士だと思っていたけど、仲間への情はあるんだな。声音には本当に心配している様子が窺えた。


「先に戻ります。速度なら、竜人船トライバスターの方が上です」

「あ、おい!」


 反論は聞かず、炎雷丸に向けて加速する。仲間を心配しているのは俺も同じだ。わずかに遅れて黒狼船が動き出すが、やはり少しずつ引き離している。




 俺が帰還したとき、捜査班長の方も終わっていた。少し傷を負った飛空船があるようだけど、深刻な様子は見えなかった。最優先で三人の様子を確認する。全員、無事だな。マリアさんの報告では、帝国部隊は一体の魔獣も通さなかったらしい。


「ヤマト殿、戻ってきたか。帝国の人型飛空船も、侮れない力があったぞ」

「それは見たかったですね」


 ピヌティさんが感心したように、話し掛けてきた。専門の部隊だからな。きっと見応えがあっただろうに。


「大丈夫、映像は取ってあるから!」

「ありがたいですよ、マリアさん。よく気が付きましたね」


 偶発的な戦闘だったのに、しっかりしているな。戦いの様子は、闘技大会の参考にさせてもらおう。


「再生アゲハチョウとの戦闘は、どんな感じでしたか?」

「炎雷砲の直撃が当たれば、一発で倒せます。ただ中途半端な傷だと、すぐに再生されました。ある程度の火力は必須でしょう」


 向こうの飛空船では、まだ戦闘後の処理を行っているだろう。しばらく待機しているか。その間に、三人で互いの状況を伝え合った。念のため竜人船には搭乗したままだ。


「あのエリート騎士とやらが、戻ってきたな」

「そうみたいですね」


 黒い人型飛空船が近付いてくる。


「やっと追い付いたか! 戦闘は?」

「俺が来たときには、終わっていました」


 簡単に今の状況を伝える。クラースさんは戦艦に戻っていく。報告に行ったのだろう。それから飛空船の整備か。軍艦ならばメンテナンス要員の仕事かな。きっと専門の整備員がいるだろう。俺も竜人船を格納しておくか。もう大丈夫のはず。


 格納庫では最低限の調整だけをする。いつ帝国部隊が来るか分からないからな。代表が不在だと、印象が良くない。甲板に戻ったら、小型飛空船が、向かってくるのが見えた。そのまま船が降りてくる。乗っていたのは、最初の人員と一緒だ。


「協力を感謝する、ヤマト殿」

「自分たちの身を守るためですから。それに協力は、お互い様でしょう。俺達だけでは、大変でしたよ」


 初見の魔獣に挟撃されるのは、危険すぎるからな。


「班長、先に審査の結果を伝えるべきだ」

「そうだな。クラース殿、通達は任せる」


 結果が出たのか。まだ事情聴取の途中だったはずだけど。二人の表情からだと、良いのか悪いのか判断できない。黙って話を聞こう。


「入国を許可する。簡易の通行証を渡すが、港に着いたら必ず手続きを行うこと」

「ありがとうございます。しかし疑いは、まだ晴れていないですよね?」

「その通りだ。貴様が異空間倉庫魔法を駆使したら、証拠や物品を隠し通すことは可能だろう」


 たしかに本気で隠す気があれば、いくらでも密輸できると思う。異空間倉庫の、隠蔽性能は高い。魔力の探知により見破ることは可能だが、決して簡単なことではない。


「戦闘中に使っていたようだが、言われるまで気が付かなかったからな。手持ちの装備で対応するとなったら、捜査に何十日も掛かるだろう。証拠も無しに、そんな長期間の拘束は不可能だ」

「無罪放免とは、いかないですよね」

「当然だな」


 むしろ泳がせて尻尾を出すのを待っているのか。帝国での行いには注意したい。疑念を助長する言動は慎もう。


「それから回収した素材について、話をしておきたい。双方の戦闘分を、合わせて計算を行う。それから貴様と帝国で折半だ」

「オオカミのいた左側方の分も、頂けるのですか?」


 純粋に喜んでいいのか、分からないな。裏があっても、おかしくない状況だし。また流れ者への対応が厳しいと聞いている。好意だけとは、考えない方が無難だ。俺は向こうの反応を見逃さないよう、集中した。


「その通りだ。……警戒しているな。帝国の評判を知っていれば、無理もないか。旅人を無理矢理に締め付ける、そう聞いたのだろう」

「確かに聞きました」

「あれは一部の派閥が、主導していたこと。連中の大半は、密輸に関わっていた。奴等の失脚を契機として、改善へ動いている。素材の件も、その一環だ」


 ここでも派閥争いが起きているのか。でも良い方に向かっているのなら、少しは安心できるかな。


「そういうことなら、ありがたく頂戴します」

「うむ。また大会の成績優秀者に対する嫌がらせも、徹底して対処をするはずだ。心置きなく優勝を目指すといい。大会で戦うときを、楽しみにしているぞ」


 クラースさんも出場するのか。そして完全に獲物を狙うような目をしていた。


「最後に通行証だが、戦艦の事務室で渡す。案内は班長、頼む」

「了解。ヤマト殿、船に乗ってもらいたい」

「分かりました。お願いします」


 俺は促されるまま、小型船に乗る。他所(よそ)の飛空船に乗るのは新鮮な感覚である。それから戦艦型飛空船も気になるな。こんな状況だが、少し楽しみだ。

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