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106話 下調べ、ナミソゾロ帝国

 俺たちは魔獣狩り協会の一室にいる。部屋の隅に、素材の一部が置かれていた。おそらく引き取れなかった素材だろう。目の前にいるのは、執事風の受付係だ。


「それではヤマト様。こちらが受領書となります。ご確認ください」

「ありがとうございます」


 礼を言って、受け取る。説明を聞きながら、内容を確認した。一部の素材は納品できないようだ。予想した通りだな。


「引き取りできない素材は、お持ち帰りになりますか? こちらで処分することも可能です」

「持って帰りますよ」


 飛空船強化の足しにするか。納品した分の金額を受け取って、協会の外に出た。次は魔獣退治組合に向かう。正面にあるから、移動の時間は掛からない。

 組合では、全ての素材が納品できた。少し意外だな。詳しい話を聞くと、特殊な武具製作で多種類の素材を集めているらしい。大口の依頼があったとか。ちょっとした幸運に気を良くして、組合を後にした。




 これでカイス王国の予定は終了だ。手紙の配達は、初日と二日目に時間を見つけて終わらせている。水生成の魔道具は、心当たりを探したけど見つからなかった。性能が低いものはあったけど、必要なのは村を維持するくらいの魔道具である。


「あたしも友達に聞いたけど、みんな知らないって」

「衛兵団の知人に確認したが、分からなかった」


 マリアさんとピヌティさんも、駄目だったか。そう簡単には、見つからないな。ナミソゾロ帝国でも、引き続き探してみよう。


「当初の予定が片付いて、時間もあります。これから図書館に行きましょう」

「帝国について調べるのですね」


 サクラさんの言う通りだ。次に行く国のことを、調べておきたい。航路や文化などを知らないと、危険だからな。

 出発は一ヶ月後だけど、早めの下調べは大切である。


「私は空域内の魔獣が気になるな」

「それなら、あたしは時空魔石についてかな。魔道具も一緒に調べてみる」


 ということで、午後は図書館に行く。その前に腹ごしらえをしようか。図書館の近くにある、手頃な店を探して昼食を取った。量は控えめだったけど、味はいい。また来たいな。


 食事が済んだら、資料探しの時間だ。手分けして、航路・文化・魔獣・時空魔石などを調べる。相談しながら進めるため、作業用の小部屋を借りた。時間に制限があったから、普段より集中できた気がする。


「ヤマト殿。出没する魔獣は、だいたい判明した。これを見てほしい」

「オオカミ各種を筆頭に、三日月角ヤギ・再生アゲハ蝶・サイクロンマグロなどが多くいるみたいですね」


 ピヌティさんの手書きメモを見つつ、対策を考えていく。仮想敵を設定して訓練が可能なら、いいのだけどな。資料だけでは、ちょっと難しいか。せめて映像でもあれば助かるのだが。まあ、ないものねだりは止めよう。調べられる範囲の情報を利用して、対応を考える。


「時空魔石については、現地に行かないと分からないみたい。ただ水生成魔道具は発達してそうよ」

「おそらく大浴場の影響でしょう。故郷の温泉を思い出しますね」


 マリアさんとサクラさんの会話を聞き、ちょっと期待が持てる。大規模な風呂を作るのに、多くの水が必要だったのか。二人が用意した資料を見せてもらう。


「飛空船の技術も、高いみたいですね。特に空母型飛空船の開発に、いち早く取り組んでいます。水生成魔道具も活用したのでしょう」


 航空母艦を運用するのには、多くの人数を要する。そして生活のためには、水が必須だ。


「それから人型飛空船も、周辺諸国の追随を許さないのね」

「二人とも、ありがとうございます。ナミソゾロ帝国での行動に、希望が見えましたよ」


 少なくとも、存在するのは確実みたいだからな。無い物を探すより、ずっと気が楽だ。


「ヤマトさんの方は、どうでした?」

「航路は問題ありません。ただ身分証については、ちょっと考えています」


 現状はカイス王家から、身元を保証されている。

 俺が拘束されたら、バイオレット様に影響があるからだろう。また純粋に善意の対応とも考えられる。


「身元保証者を、魔獣狩り協会のみに変更するべきかもな」

「ピヌティさんも、そう思いますか」


 今のまま帝国に入れば、カイス王国の関係者と言っているようなものだ。非表示にすれば、旅の協会員で通せる。

 ステータスカードの強制表示には、令状が必要だ。さらに被召喚者補助員会へ、報告もしなければならない。もし不当だと判断されたら、多額の補助金を失うことになるのだ。


「でも後ろ盾があるのは、大きいと思うよ。今までは、仲が良かったんだし」

「私が聞いた話だと、両国の関係は良くも悪くもないみたいでしたけど」

「あれ? そうなの?」


 マリアさんとサクラさんの話が、微妙に異なっていた。俺は現在の状況を、少し考える。他国の貴族が手を組んで、クーデターを狙っていた。判明したのは計画の極一部かもしれない。両国とも、疑心暗鬼に陥っているはずだ。


「……カイス王家の保証は、表示させたままにします。堂々とした方が、安全だと判断しました」

「それもそうだな。私も賛成しよう」


 これで身分証の件はいいか。それからも帝国での活動に重要そうな話を、四人で相談していく。議論は閉館時間まで続き、慌てて片付けることになる。実際に行くときが楽しみだ。




 外に出ると、すっかり暗くなっていた。半日ほど図書館にいたのだな。おかげで収穫は十分にあった。


「これから、どうします? 戻って夕食の支度も、少し手間ですよね」

「美味しいもの、食べたい!」


 マリアさんの言葉に、反対する者はいなかった。外食に決定だな。そうなると、何を食べるか。一人で考えても仕方ない。希望を聞いてみた。


「ハンバーグがいいな!」

「今はサラダチキンの気分だ」

「焼き空魚は、どうでしょうか」


 見事に統一感がない。まあ、当然だな。多くの料理があるなか、たまたま三人の希望が一致する確率は低いだろう。


「家族向けの飲食店にしましょう。そこなら、だいたい揃っていますから」


 自分の知っている店を案内した。唯一の欠点は、酒の種類が少ないこと。些細な欠点だ。多分。――食事が終わり、格納庫に戻る。有意義な一日だったな。今日は

静かに身体を休めよう。




 次の日、早朝に王都カイスから出発した。頼まれた特産品の中には、消費期限の短い食品がある。早く渡した方がいいだろう。出発時間により、到着が前後する。ほとんど夜間は移動しないから、半日ほどの差が出ることも考えられるのだ。


 そして今回は最短時間での移動を、試してみようと思う。俺とマリアさんが交代で飛空船を操作する。六時間交代を繰り返し、夢幻島を目指す。

 さすがに危険な空域では止めた方が無難だけど、カイス王国の周辺なら可能だ。到着したのは二日後。通常なら三日は掛かる距離だ。丸一日、移動時間を短縮できたことになる。


「やっと到着したよ!」

「お疲れ様でした、マリアさん!」


 もちろん疲労したのは、俺たちだけではない。周囲の警戒をしていたサクラさんとピヌティさんも、疲れが溜まっているだろう。


「二人も大変だったでしょう。夢幻島に着いたら、ゆっくり休んでください」

「まあ、確かに疲れたな」

「夜間の警戒は、難しいですよね」


 炎雷丸を操作して、カイス転移扉を通る。この名称はカナトビ転移扉と区別するためだ。夢幻島内に入ったら拠点――スミレ村を目指す。さほど時間は掛からず、到着した。


「お帰りなさい、ヤマト」

「ただいま戻りました」


 村へ着くと、すぐにバイオレット様が出迎えてくれた。おそらく炎雷丸の魔力に気付いたのだと思う。同時に資料を渡される。


「お仕事が待っていますよ」

「……はい」


 笑顔で告げられた。主に移住者たちの件だろう。とにかく確認しよう。この日のほとんどは、現状の把握に費やされる。聞き流すわけにはいかないし、かなり疲れたな。

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