105話 商取引、東方の品物
目が覚めたが、少し疲れが残っている。昨日、夜が遅かったからだな。とにかく起きようか。今日は各商店を回る。ピヌティさんとマリアさんが戻ってくる前に、準備を済ませてしまおう。
朝食を取り、身支度を整える。休憩室でサクラさんと話していたら、魔導通信機から呼び出し音が聞こえた。少し前に、新たに設置したものである。
『こちら炎雷丸です』
『ヤマト殿、ピヌティだ。マリアも一緒にいる』
『今、開けます』
短い遣り取りの後、入口を開放する。商談の時間には、少し時間があるな。それまでは、ゆっくりしてもらうか。
二人が休憩室に来たようだ。
「一日ぶり! 昨日は楽しかったよ! サクちゃんとヤマト君は、どうだった?」
「こちらも楽しめましたよ、マリア」
「俺もです。いい一日でした」
掛け値なしに、そう思う。
「三人もか。私も充実した日になったぞ」
「ピヌティさんは、衛兵団の友人と会っていたのですよね」
「そうだ。久しぶりに模擬戦をしたが、私の腕も上がっていた。未知の魔獣と戦うことで、実力が伸びたのだろう」
戦闘経験は重要だよな。空の旅では、多種多様な魔獣と遭遇する。しかも危険な未開空域にも行った。それから別行動中の話で盛り上がる。だが、そろそろ出発の時間だ。
「もう行きましょう。商談に遅れると、印象が悪いです」
「りょう~か~い!」
四人で炎雷丸の外に出る。最初に行くのは、お爺さんと少年がいた店だ。
今回もマリアさんの先導で、町を進む。なんとなく場所は覚えているが、絶対に迷わないとは言い切れない。
「着いたよ!」
「ここは花が綺麗ですね」
サクラさんの感想に、俺も同意する。以前に来たときは、咲いていなかった花もあるみたいだ。二日の間に咲いたのだろう。心が和んだところで、店内に行くか。
「とりあえず中に入りましょう」
「上手く話が進むことを期待するか」
店内には、少年とお爺さんが座っている。少年だけ店番に残り、他の全員が隣の倉庫に移動した。商売の交渉は、主にマリアさんが行う。俺たちはサポートだ。
店主から見積書を渡された。四人分あるのは、ありがたい。各自が一通り、確認していく。
「思ったよりも、高値が付いているね。もしかして情勢が悪いの?」
「レイシア大陸の封鎖から、月日が経った。東方の品は不足しておる」
東方に行く際に、足止めされた大陸のことか。あそこの封鎖は、継続しているみたいだな。北回りのルートだと、時間が掛かりすぎる。採算が取れないのだろう。南の未開空域を通るのは、まあ論外か。
「生活に必要な物は足りている?」
「元より東方からの生活必需品は皆無だ」
二ヶ月は掛かる距離だからな。東方からの輸入は、嗜好品がメインになる。
「わかったわ。この価格で、お願い! みんな、構わないよね?」
「問題ありません」
この場はマリアさんの判断を重視する。不審な点も見当たらないし、大丈夫だと思う。サクラさんとピヌティさんは、黙って頷いていた。
「ならば取引成立じゃの。お兄さんの口座に、振り込んでおこう」
「よろしくお願いします」
こうして無事に商談は終わり、店の外に出る。ただ他の所にも行く予定がある。この調子で進むといいけど。
順調に商売が続き、最後の予定となった。ここは老夫婦が経営する衣料品店だ。時間通りに来たことを告げると、取引をキャンセルしたいと言われた。
「中止ですか。理由を伺わせてください」
「実は店を畳み、迷宮都市へ引っ越すことにしました。ご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません」
結構、大事だな。たったの一日で、閉店の決断をしたのか。しかも王都カイスを離れるという。
マリアさんが驚いて、固まっている。俺が詳しい話を聞いてみよう。
「何か事情が、あるみたいですね。よろしければ、お聞かせいただけますか」
「分かりました」
そして老夫婦は語り出す。
二十年以上前の話だ。息子が一旗揚げようと、迷宮島に行ったらしい。それから何の音沙汰も無かった。しかし昨日、急に帰ってきたとのこと。現在は迷宮都市の仕立屋に務め、夫婦で働いていると聞いた。職場結婚みたいだ。
「親父、お袋! 今、戻った!」
「遅くなって申し訳ありません」
話をしていたら、四十代ほどの男女が店内にきた。察するに、息子夫婦だろう。とりあえず挨拶をしよう。
「こんにちは、ヤマトと申します」
「あなたがヤマト様でしたか! お会いできて光栄です!」
男は猛烈な勢いで、頭を下げる。そして、この夫婦からも話を聞いた。どうやら黄腕党による事件を知り、両親のことが心配になったらしい。ただ勝手に家を出たことから、会いに行く決心が付かない。
煮え切らない夫に痺れを切らした嫁が、会いに行くよう強く勧める。長期休暇を利用して王都まで来たものの、最後の一押しが無かった。
「そんなときでした。あの英雄ヤマト様が、王都に来ていると噂で聞いたのです。第三王女様を助け、国を救った方の伝説を聞いて勇気を頂きました!」
「夫が実家に顔を出せたのも、ヤマト様のおかげです。ありがとうございました」
とりあえず、話に尾ひれが付いているのは理解した。だけど、今は気にしない。家族のわだかまりが解けたなら、良いことだよな。
「ところで引っ越しは、いつなのでしょうか?」
「店の品を処分したら、すぐにでも出発する予定です。お袋と親父には、急がせてしまいますが」
ずいぶんと早いな。店や住居は賃貸であり、更新日が近いとのこと。それまでに退去しないと、かなりの料金が必要となる。また息子夫婦の休暇期間は、もうすぐ終わる。できれば一緒に移動したいようだ。
「あ! それなら商品は、こっちで引き取るよ! ヤマト君、いいかな?」
「そうですね。ここの衣服であれば、ナミソゾロ帝国で売れると思います」
念のためサクラさんとピヌティさんにも、意見を求める。特に異論は無かった。後は価格だな。強く交渉すれば、捨て値で買い取れそう。でも後から良心の呵責に苛まれると思う。
その場で話し合いを続ける。適正価格よりも、かなり安い金額で決定した。別に買い叩いたわけではない。商品だけでなく家具などの不用品も、まとめて引き取ることにしたのだ。買い取る量が増えた分、単価を抑えてくれた。
「皆様、本当にありがとうございました。これからは父や母と力を合わせて、店を開きたいと思います」
「こちらこそ、お礼を言わせてください。良い品を仕入れることが、できました」
迷宮都市に戻ったら、新しく店を出すつもりみたいだ。息子夫婦が品物を作り、両親が経営をする。商売繁盛を祈ろう。
全ての商談が終わったときには、もう夕方になっていた。成果は上々だな。一件だけ東方の品が売れ残ったけど、別の商売に繋がりそうだから問題ない。何よりも家族が幸せに暮らせるなら、素晴らしい結果になったと言えるだろう。
「いい人たちでしたね。ヤマトさんは、何か開きたい店はありますか?」
「酒場でしょうか」
居酒屋やバーとか良さそうだ。
「このチームで開店してみる?」
「それも、いいかもしれません」
マリアさんの提案に、心を躍らせながら答えた。飛空船を改造して、酒場にしてみたら楽しそうだな。冗談を交えつつ、そんな会話を四人で続ける。開店談義は、炎雷丸に戻るまで止まらなかった。
明日は魔獣狩り協会と魔獣退治組合に行く予定である。渡した素材の確認だな。引き取り不可に、ならないといいけど。あまりに使い道の少ない素材は、断られる場合もある。掲示板に依頼があれば確実だが、その他は協会や組合の判断になる。こればかりは、明日にならないと分からない。




