102話 転移陣、作成計画
ここは炎雷丸の食堂。夢幻島の主要人物が、おおむね揃っていた。
バイオレット様、トリアさん、グランザードさん、ソフィアさん、ドマさん、シルドさん、アクスさん。そしてメイド二人、ボーロング三兄弟、ドマさんが率いる船員四名。さらにアカリさんとギントビ島の村長。
最後は俺たちチーム『夢幻の集い』四人となる。合計二十二名だ。そうそうたる顔ぶれだな。そのうち四名がソウルスキルの使い手で、集団の規模を考えると凄いことである。
ようやく一通りの自己紹介が終わった。これから開拓の計画を話し合う。最重要な課題は、カナトビ村のことだろう。移住者の対応を考える必要がある。俺は皆を見回して、話を始めた。
「転移陣を作りましょう!」
「いきなりすぎませんか、ヤマトさん」
サクラさんから指摘を受けた。まったく、その通りだな。ちゃんと説明しよう。
「まずカナトビ村の候補地を、探す必要があります。しかしスミレ村からですと、安全地帯の外を通らなければなりません」
「だから転移陣か。物資の輸送にも、使えそうだな」
「それも目的の一つですよ、ピヌティさん」
今のままでは、物資を運ぶのに一週間以上も掛かる。それだと、あまりにも効率が悪い。
「でも転移陣なんて作れるの?」
「きっと簡単では、ありません。しかし製作を目指すことは、無駄にならないと考えています」
マリアさんの疑問は、俺の疑問でもある。ただ、どこかに作る技術はある。探すだけでも、プラスになるはずだ。
「私はヤマトに賛成です」
「ありがとうございます、バイオレット様」
だいたいの国家で、転移陣の技術は秘匿されている。それでも俺は挑戦しようと思う。そもそも異世界転移を目指しているのだ。島の中くらい転移できなければ、先が思いやられる。
「しかし転移陣の作成には、時空魔石が必要と聞きました。ヤマトさんに、当てはありますか?」
「まったく、ありません」
トリアさんが有益そうな情報を教えてくれた。時空魔石か。入手難度が高そうな素材だ。
「ナミソゾロ帝国なら、買えると思います」
「本当ですか!」
ここでアカリさんが、はっきりと国名を出してくれる。たしかカイス王国から、西へと進んだ場所にあるはず。
「聞いたことがあります。ただ悪用を防ぐために、厳しい条件があるとも」
「バイオレット様も、ご存知でしたか。主な条件は二つ。資格と紹介状です」
当然ながら今の俺たちには、どちらもない。
「紹介状は、私に任せてください。まず回復魔導師労働組合に、手紙を出します。そちらから魔導技術管理局に掛け合ってもらいましょう。配達は頼みましたよ」
「それは構いませんが、大丈夫でしょうか」
アカリさん本人ならともかく、見ず知らずの俺たちに紹介状を発行するか疑問に思う。
「問題ありません。あそこには、大きな貸しが山ほどありますから」
「そ、そうですか」
何があったのだろう。とにかく、一つ方針が決まった。もし駄目なら、他の手を考えよう。
「次は資格ですね。おそらく、危険魔核結晶石取扱者のことでしょう。トリアなら内容を知っていませんか?」
「教本の記載なら、覚えていますよ。ただ資格取得には、実務経験三年が必要だと思いました」
バイオレット様の質問に、トリアさんが答えた。彼女の記憶力だと、教本を全て覚えているかもしれない。
「筆記試験は、ヤマトに頑張ってもらいます。問題は実務ですか」
「ちなみに飛空船の操縦も、実務経験に入ります。つまり後は期間ですね」
うん、足りない。アカリさんの言葉で、俺は飛空船の登録日を思い出した。どう計算しても三年には届かない。俺が異世界に来てから、一年くらいだからな。
「ドマ殿なら実務経験は足りているだろう。代理で購入してもらったらどうだ?」
「ちょっと待て! アタシに筆記試験は無理だ!」
ピヌティさんの提案に、当のドマさんが本気で拒否している。そして船員の四人が頷いていた。彼女の頭が悪いとは思わないけど、試験が苦手な人はいるよな。
「そもそもドマさんは、回復・浄化魔法を使えますか? 回復魔導師労働組合は、誰にでも紹介状を発行するわけではありません」
「使えない、使えないぞ!」
そうなるとシルドさんも駄目か。結界術や防御魔法に特化した人だからな。
「ということで、ヤマトさん。実務経験免除の方法を実践しましょう」
「どうすれば、いいのですか」
俺は静かに、アカリさんの言葉を待つ。
「人型飛空船の闘技大会に出場してください!」
「あー、聞いたことがあります」
興味はある。しかし帝国の騎士団も関わる大会のはずだ。下手に勝ったら、面倒そうだと思ったな。
「そこで良い成績を修めれば、実務経験は免除ですよ。ただし優秀すぎては、いけません。ほどほどに良い結果を出しましょう」
「上から睨まれないようにですね」
優勝を目指せと言われた方が、分かりやすかったな。まあでも、この条件ならば無理して勝つ必要もない。多少は気が楽か。
もう少し詳しい話を聞く。どうやら流れ者が勝つと、不興を買うみたいだ。主に人型飛空船の戦闘部隊から。厄介なのは、その部隊にエリートが多いこと。手続きの面で不利になりかねない。
「とりわけ上級騎士には、注意しましょう。勝利は厳禁だと思います」
「私は全力で勝ちたいのですけど……」
「すみませんが、諦めてください」
予想通りの反応だな。申し訳ないけど、実利を優先させてもらいます。
「それとサクラさんには、少し残念な情報があります。ほとんどの試合は、搭乗者が一人のみです。複座式の人型飛空船は、まだまだ珍しいですから。今年か来年、新設の闘技会が開かれるとは聞きましたが」
「……分かりました」
複座式の大会も、可能性はあるのだな。サクラさんが参加できることを、祈っておこう。
「ところで闘技大会の開催は、いつなのでしょうか?」
「二ヶ月後だったと思います。ただ移動に一ヶ月は掛かりますから、あまり猶予はありませんね」
それなら一ヶ月は、訓練と納品依頼に集中するか。魔獣狩り協会と魔獣退治組合の納品用に、多めの素材を確保してある。
「では来月、俺たちは出発します。その間にカイス王国へ、行くつもりです。もし用事があれば、お申し付けください」
そして、いくつかの案件を頼まれる。主なところは手紙の配達、水生成魔道具の調達、特産品の購入などだ。魔道具に関しては、駄目で元々だな。高性能な物は、そう簡単に見つからないだろう。性能を求めなければ、何とでもなるけど。
それから不在時の状況を、事細かに確認していく。結界が拡大したことで、多くの発見があったみたいだ。まとめると些少の問題はあれど、おおむね順調である。この日は夜遅くまで会議が続いた。
次の日、移住者がスミレ村に足を踏み入れる。案内の段取りは、昨日の内に済ませた。最初に家や農地を見せる。次に近くの地形を、知ってもらう。そして作業の内容を説明していく。皆、熱心に話を聞いていた。
「ヤマトさん、移住は上手くいくでしょうか?」
「きっと大丈夫ですよ」
心配しているサクラさんに対し、俺は努めて軽く答えた。負の感情は伝播する。まず自分から希望を持とう。
一通りの案内が終わったのは、日が落ち掛けているときだ。昼食は簡単に済ませている。きっと空腹に違いない。ということで夜は宴会だ。移住者たちの歓迎会を開く。場所は屋外。火と網を用意してあるので、肉や野菜を焼きながら食す。また忘れてはいけない般若湯も準備万端。さて、俺も楽しむとするか。




