101話 護衛、大型居住船
俺は竜人船トライバスターを駆り、魔獣の群れと戦っている。一人だけの搭乗。サクラさんは、甲板で別の魔獣と交戦中だ。
「雷槍の雨!」
疾走している大型居住船の周囲に、雷の槍が降り注ぐ。飛空船に当てないよう、十分に気を付けて発動している。かなり集中する必要があるから大変だ。
「ヤマト殿、また前方から来ているぞ!」
「了解!」
牛、馬、羊、鳥と種類に富んでいる。牛が空を飛ぶのは、なんというかシュールだと思う。馬なら、まだ分かる。さらに地上にも魔獣の群れ。いくらなんでも脈絡が無さすぎる。おそらく地域一帯を仕切る、ボスが存在するはずだ。
「ピヌティさん! 主らしき魔獣は見掛けましたか!?」
「残念だが見ていない!」
彼女でも見付けられないのか。魔力を感知しようにも、戦闘の余波で魔力が乱れに乱れて難しい。
「三体、斬り伏せました! 次、お願いします!」
「左側面から四体、気を付けてくださいね!」
結界の一部を緩め、四体の魔獣を甲板に入れた。そこではサクラさんと、戦闘が可能な島民たちで対応に当たっている。しばらくして、村長とアカリさんが甲板に姿を見せる。
「あー、あー。ヤマトさん、聞こえていますか?」
「大丈夫ですよ、アカリさん!」
彼女は風魔法での会話に慣れていない。それで確認したのだろう。
「現状で、重傷者はなし。軽傷者の治療は、無事に完了しました。私も戦闘に復帰しましょう」
「すみません、お願いします!」
最初はアカリさんも戦闘に参加していた。けれど負傷者の回復を優先するため、後方に下がってもらったのだ。
「戦いが苦手な者は、特別防衛室に避難させましたぞ! 落ち着いたようなので、私も戦闘に出るつもりです!」
「ありがとうございます、村長!」
移住者の中には、非戦闘員もいる。主に農業や建築業に関わる人たちだ。村長の言った特別防衛室は耐火・耐震・耐魔法であり、避難所として創造したもの。
「雷よ、刃に宿れ! 炎雷斬!」
竜炎牙刀に雷の力を付与し、前方の魔獣を切り裂いた。この周辺には、魔法防御に長けた敵はいない。一太刀で倒すことができたな。
「ヤマト君! 安全地帯まで、どれくらいなの!?」
「今の速度なら、数時間で結界まで辿り着くはずです」
結界の魔力は、遠くからでも分かるほど強大だ。魔力が乱れる戦場からでも感知が可能である。
「それなら、あれ使おうよ! 魔導瞬間加速装置!」
「魔力が持ちますか?」
「供給係の人たちが、がんばってくれてるの! 数時間くらいなら、きっと大丈夫だよ!」
魔導瞬間加速装置――マジックブースターは、魔力によって加速を行う装置だ。魔力凝縮を参考に、新機能を創造したのだ。きっかけは魔力供給係の増員。せっかくだし魔力を使った機能を考案した。
ここはマリアさんの提案に乗ろう。
「分かりました。今から大型居住船を加速します!
まだ試作段階で、操舵室からは使えない。俺は装置を起動するよう、意識を集中した。
「魔導瞬間加速装置、起動!」
「いっけー!!」
大型居住船の加速。後方の魔獣を振り切った。そして後を追うために、竜人船の速度も上げる。後ろから攻撃をされないよう、適度に魔獣を倒すことも忘れない。追撃の数が多くなったところで、その場に留まった。
しばらく戦闘を続けて、大型居住船が十分に距離を稼いだことを確認する。俺は魔力凝縮による加速で、その場を一気に離脱した。
途中で追い付き、並走して安全地帯を目指す。その後は散発的に戦闘があったけれど、大規模な群れとは遭遇しなかった。ようやく、結界内に入ることができる。俺は声を掛け、飛空船を停めてもらった。
「お疲れ様でした。安全地帯に入りましたよ。少し休憩しましょう」
「ヤマトさんも、ゆっくり休んでくださいね。それはそれとして、私も一緒に搭乗したかったですよ」
サクラさんには、甲板での戦闘に回ってもらう必要があったからな。さきほどの群れだと、個体の能力は高くなかった。別々に動いた方が、より確実に対処が可能と判断したのだ。夢幻島では珍しく、強力な魔獣が見当たらなかったことも理由の一つである。
「また一緒に乗る機会がありますから」
「話は後にして、とりあえず帰還したらどうだ」
ピヌティさんの言葉を聞き、竜人船を大型居住船に寄せる。少し場所を空けてもらい、甲板から格納庫へ移動した。竜人船を停め、黒雲転移で操縦席から降りる。さてと、甲板に行くか。
「ここで今日は停泊するのか?」
「そうするつもりですよ、ピヌティさん。皆、疲れていると思いますので」
長時間、戦闘が継続したのだ。体力だけでなく、精神も疲弊しているだろうな。身体能力を魔力で強化すると、戦いが終わった後に多かれ少なかれ反動がある。
「ヤマト殿、私は避難所の様子を見てきましょう。どうぞ皆様は、お休みになってください」
「ありがとうございます」
村長が率先して、動いてくれた。ご厚意に甘えて、俺たちは休息を取らせてもらおう。そして一日が終わった。朝になって、出発の時間が訪れる。
エンバー・Pの欠片を回収し、結界が拡大した。拠点までは、まだ遠いだろう。
それから二日が経過した。ピヌティさんから報告を受けて、甲板に出る。
「建物、発見した!」
「おー! 懐かしいですね!」
三ヶ月ぶり、だったか。飛空船の旅は、時間感覚が狂いやすい。航空日誌を見ないと、少し自信がない。しばらく進むと、家が増えていることに気付いた。移住者のことを考えて、用意しているものだろう。
もっとも300人が急に来ることは、想定していなかったはずだ。当然、数は足りていない。家が揃うまでは、大型居住船で生活をしてもらう。
「ヤマト君、どこに停めようか?」
「少し離れた場所にしましょう。バイオレット様に話を通してから、設置場所を決めるつもりです」
マリアさんが大型居住船を停止したとき、遠くから人が近付いてきた。紫色の髪が光に反射している、きっとバイオレット様だな。船から降りて、挨拶をしよう。村長とアカリさんを伴い、地上に行く。
「久しぶりですね、ヤマト。そちらは移住の代表者たちでしょうか?」
「ええ、紹介しますね」
挨拶を交わした後、二人のことを話す。そして移住に至るまでの経緯を、簡単に説明した。
「よく分かりました。お二人とも、ようこそ夢幻島へ。歓迎いたします」
「暖かきお言葉、ありがとうございます」
答えたのは村長だ。隣でアカリさんが、軽く頭を下げている。まずは二人に拠点の案内をすることになった。他の移住者には、村長から説明してもらう。拠点内を歩いていると、広い花壇が見えた。以前は無かったはず。バイオレット様が、俺の視線に気付いたようだ。
「ここではスミレという花を育てているのです。まだ咲いていませんけど、いつか心に潤いを与えてくれる場所となるでしょう」
「いい考えだと思います。そうだ、拠点に名前が無いと不便でしょう。スミレ村と呼びませんか?」
カナトビ島の移住者は、多くが最終的に別の場所で村を作る。そのとき名称なしでは、分かりにくい。
「素晴らしい名前です。名前に負けないよう、綺麗な花を咲かせますよ」
「がんばってくださいね」
そして移住者が作るところは、カナトビ村に決まった。とはいえ実際に村が形となるのは、だいぶ先の話だろう。しばらくはスミレ村に留まる予定だ。とりあえず簡単な案内を済ます。今日の夜、主な人員を紹介するつもりである。
夜まで少し時間があるため、大型居住船に戻る。俺はステータスカードを取り出して、飛空船創造スキルを確認した。
総合一級、機動一級、攻撃一級、防御一級、生活一級、収納一級、娯楽五級だ。娯楽を除き、全て一級で揃っている。初段に上がるのは、まだ先かな。そして相も変わらず、娯楽が伸びにくい。飛空船内に娯楽施設でも創造してみようか。スキル強化計画を練っていると、気付いたら夜が迫っていた。そろそろ、皆が戻ってくる時間だな。




