100話 閉幕、東方を巡る冒険
目が覚めたら、サクラさんと目が合う。瞬く間に、彼女の顔が赤くなった。
「朝食の準備をしますね!」
慌てて部屋を出ていく。俺も起きるか。二人で食事を取り、後片付けを行った。日常の一コマを満喫する。これからも、こんな日々が続いたら嬉しい。
数日後、スンシュウの町を離れる日がくる。サクラさんの家族には、改めて挨拶に伺った。交際の件も含めてだ。次に東方を訪れるのは、いつか分からない。ここで欠礼したら、次回の訪問時に敷居が高くなりそうだ。
交際を始めたことを伝えたら、ひどく驚いていた。まだ恋人関係では無かったことに。初対面のとき、すでに交際していると思われていたらしい。どうりで一度もサクラさんとの関係を、尋ねられなかったわけだな。飛空船競技会の映像も、その誤解に拍車をかけている。
「いよいよ出発ですね。ヤマトさん」
「ええ。しばらくスンシュウには、来られないと思います。やり残したことは、ありませんか」
「大丈夫ですよ」
東方地方での用事は、全て終了した。あとはカナトビ島からの移住者を連れて、夢幻島へ帰還する。
「心残りは、温泉に入れなくなることだな」
「ホントにね。ヤマト君の飛空船創造スキルで、温泉できない?」
マリアさんからの質問を考えてみる。生活か娯楽に関する能力だよな。不可能とは言わないけど、今すぐには無理そうだ。
「現状では、難しいと思います。スキルの成長に期待ですね」
「そっかー。じゃあ、がんばって強化用の素材を集めよう!」
温泉のために行動するのも、悪くないかもな。
「一つ聞きたいのだが、チーム『無限の集い』は継続するのか?」
「え? そのつもりですけど。急にどうしました?」
唐突な話で、少し困惑してしまう。
「いや、ふと疑問に思ってな。スンシュウから夢幻島の居住船まで、今なら二週間ほどで着くだろう。この町に根を下ろすことも、考えているのでは?」
「なるほど。そんな方法もありますね」
スンシュウの町に住みながら、夢幻島の開拓も可能ではある。かなり大変ではあるけど、不可能ではないだろう。その場合、サクラさんが家族と一緒に生活できるのか。
「俺は夢幻島を拠点にするつもりです。サクラさんは、どうでしょうか?」
「私も賛成します。今はまだ、故郷を離れて見聞を深めたいですから」
それなら決まりだな。
「ということで、今まで通りチームは継続で頼みます」
「了解した。まだ見ぬ景色を、探しにいこうか」
魔導写真機もあるしな。幻想的な風景を見にいくのもいい。
「商売も忘れないでね!」
「それから世界には、まだ知らぬ酒が眠っています。俺たちの旅は始まったばかりです!」
「もう。ヤマトさんは、これさえなければ……」
サクラさんが溜め息を吐いた。
――未開空域を通り、ギントビ島に到着する。出発予定日の二日前だ。少しだけ余裕があるな。停泊所に炎雷丸を停めた。そして別の大型飛空船を創造する。形は炎雷丸と似ているけど、いくつかの機能を削除している。戦闘用の雷撃角や風刃翼などだ。その分、機動性や隠蔽能力を強化した。
一通り作業をしてから、俺一人で村長の家へ向かう。三人には船の確認をしてもらっている。大型居住船として不具合がないか、チェックをお願いした。炎雷丸は送還しておくか。村の様子を眺めつつ、村長宅に到着した。
「おお! ヤマト殿、お待ちしていましたよ! 町での仕事は、無事に済みましたかな?」
「なんとか終わりました」
メインの目的は休暇だけど、商売はきちんと行っている。開拓用の買い物だけでなく、カイス王国で高く売れそうな商品も仕入れた。
「荷物の積み込みは、予定通り二日後から行いますか?」
「明日でも構いませんよ。準備ができた人から、運んでもらいましょう」
一日で全員分の荷物を積み込むより、二日に分けた方がいいだろう。混乱も起きにくいと思うしな。
「分かりました。私は明日、荷物を運んでしまいますね」
「本当に村長も移住されるのですか」
初めて聞いたときは意外に感じた。今でも大丈夫か疑問である。移住者よりも、残る人数の方が多いからな。
「ギントビ島のことなら、副村長に任せれば問題ありませんよ。カナトビ島の復興こそ、第一の目標でしょう」
「……分かりました」
これ以上、俺が口を出す理由も無いか。よし、話を切り替えよう。
「ところでアカリさんは、どちらですか?」
「聖女様なら弟子を集めて、最後の指導をされています。終わり次第、ここに来るはずです。よければ、お待ちください」
それなら待たせてもらおうかな。できる範囲で、村長と段取りの打ち合わせをしておく。話をしていると、アカリさんが姿を見せる。
「村長。治療所の引継ぎは、無事に完了しました」
「お疲れ様でした、聖女様」
ここでアカリさんと目が合った。
「お戻りになられたのですね、ヤマトさん」
「少し疲れておりませんか」
よく見ると、目の下に隈がある。睡眠不足かな。
「大丈夫です。いざとなれば回復魔法を使い続けながら、身体を動かしますので」
「無理はしないでくださいよ」
魔法で無理矢理に身体を動かすのは、大丈夫と言わない気がする。
「まだまだ教え切れていないことが、山ほどあるのですよ。少しばかりの無理は、仕方ありません」
「アカリさんが移住された後は大変でしょうね」
彼女はカナトビ島を浄化するために、必須の人材である。夢幻島では治療担当であり、医師の役目もこなす。さらに浄化魔法の指導も、しなければならない。
だけど移住前で、すでに疲労が積もっているな。せめて移動している間だけでも、ゆっくり休めるように気を遣おう。
「きっと問題ありません。私の弟子なら、上手くやりますよ」
「さすがは聖女様! 心強い、お言葉ですな!」
村長のよいしょに、アカリさんは満更でもなさそうだ。話が途切れたところで、彼女の荷物積載日を聞く。村長と同じく、明日すぐに行うそうだ。二人が率先して終わらせ、移住の指揮に専念するつもりだろう。
さらに時が過ぎ、ギントビ島を出発する日が来た。すでに移住者全員が、飛空船に乗っている。この大型居住船の収容人数は、無理をすれば500人を超えるほど。乗船しているのは約300人。かなり余裕があると言える。
「それでは出発します。大型居住船、発進!」
まずは俺が操船だ。夢幻島に入ったら、安全地帯内はマリアさんに任せる。結界を超えたあたりで、また俺が操船を担当する予定だ。もちろん必要に応じて、交代はする。
特に問題なく、カナトビ島に入った。結界の鍵は、エンバー・Pの欠片が代用となる。導きの賽と同質ということだろう。そのまま転移扉を目指す。途中で一泊し、次の日に夢幻島へ到着した。
「ここが夢幻島。初めて来たはずなのに、どこか懐かしい気がします」
「アカリさんもですか」
俺たちも、同じような感想を持った。以前に話し合った覚えがある。さて、今日はここで宿泊だ。俺は船内の様子を見て回り、施設に問題がないか確認する。途中で村長に会った。
「どうでしょうか、実際に泊まった感じは。不便な箇所があれば、修正しますよ」
「正直、快適すぎて怖いくらいです。魔力供給係の増員をしようか、他の者と話し合いました」
魔力供給係は、飛空船の魔力を充填する役目を負う。魔力が無いと、生活が困難になる。船のライフラインを維持するために、極めて重要な係だ。これだけの人数だからな。想定より魔力消費が激しかったのかも。
「もしかして魔力不足になりましたか?」
これは看過できない事態である。魔力が足りなければ、水も使えないし調理もできない。
「いえ! 魔力は足りています! 実は大浴場や訓練施設を気に入って、使用頻度が高いのですよ。そのせいか、魔力の使用量を心配する声が出ています」
「それだけなら、きちんと説明すれば大丈夫だと思うのですが」
不足していないのであれば、よかった。
「もちろん説明していますとも。ただ魔力の供給は、いい鍛錬になるのです。余裕を持たせるためにも、供給係を増やそうかと考えました」
「あ、なるほど」
持続して魔力を放出するからな。生活の役に立って、訓練にもなる。素晴らしい考えだ。とりあえず問題がないと分かった。一通り見て回ったし休憩室に行く。
「ヤマトさん! 視察、お疲れ様でした」
「船内を歩いただけで、大げさですよ」
サクラさんの言葉に苦笑を浮かべる。まあ分類すれば視察になるのか。しばらく二人で会話を続ける。
「東方の旅も終わりですね。サクラさんは、楽しめましたか?」
「ええ、とても!」
彼女は微笑みを浮かべながら頷いた。東方では多くのことを経験している。危険なことや、予期せぬ出来事などもあった。ただ最後に楽しかったと思えたのなら、きっと旅は成功だろう。俺は彼女の笑顔を見ながら、そんなことを考えていた。
今回で100話目の投稿となりました。
全体を見て誤字や読み辛い箇所など、修正していく予定です。
またサブタイトルに、話数を追加していきます。
更新が継続できたのも、ひとえに読んでくださる方のおかげです。
誠にありがとうございます。
この物語を楽しんでもらえたのなら、嬉しいです。




