10話 創造、新型飛空船
結局、日付が変わる寸前まで飲み続けた。酒盛りを始めたのは、日が落ちる前。今日の朝は、大変だった。なんとか準備して、地下訓練場に向かう。中に入ると、フェリアが何らかの作業をしている。作業の内容は分からない。
「何してるの?」
少し気になったから、率直に聞いてみた。
「夜中に自動更新していた分の確認よ。現時点では問題なし、と。ここの管轄内が正常化されるのも近いわ。それより、今日は休みの日だよね。ヤマトは、どうして訓練場に?」
そう言えば、通常の予定だと休みだったな。
「新しい飛空船を作りたい。イカダも良いけど、それ以外の船も気になるし」
「なるほど。でも無理はしないでね」
「ああ。あ、その前にステータスカードを確認してみるよ」
羽兎の翼は、昨日の時点で使用している。なにか変化があるかもしれない。俺は意識を集中して、ステータスカードを出現させた。フェリアにも分かるように読み上げる。
「総合八級、機動六級、攻撃七級、防御八級、生活八級、収納八級、娯楽十級」
「へぇ。色々上がっているわね。特に機動と攻撃は、前より二階級も上がっているじゃない。凄いわ」
「以前の結果、覚えているのか。それも凄いな」
確かフェリアがカードを見たのは、一ヶ月ほど前だったはず。
「情報の蓄積は得意分野だから。あたしは約72579の言語を習得しているのよ! 一ヶ月前の記憶を保持しておく程度は簡単だわ! ところで娯楽だけは、上がってないのね」
「うーん。説明表示機能を使ってみよう」
『娯楽能力向上についての説明ね! 楽しむために飛空船を使うこと! 飛空船を使って楽しむとは、少し違うから気を付けましょう!』
「違いが分かりにくいな」
「おそらく目的意識の違いな気がするわ」
「楽しもうとする意思が重要なのかな」
そもそも娯楽が向上すると、どうなるんだろう。説明表示、と。
『飛空船に娯楽用設備を搭載できるわ! 収納能力と合わせると、映画館や公園も設置可能になるの。あ、放映される作品は対価を払って購入してね! 更に能力が向上すれば、大規模遊戯施設を再現することも可能!』
「とりあえず優先順位は低いか。まずは生存できる環境からだな」
「でも偏りがあると、総合能力が成長しにくいと説明があったわよ」
「……忘れてた」
さて、どうするか。そうだ!
「ちょっと思い付いた。飛空船創造!」
創るべく船の形を思い浮かべた。二人乗りの小型舟。トランクスペースに荷物も置ける。パドルも一緒に創造した。更にロッドホルダー付き!
「これは小型のカヤックかな?」
「そう。カヤックフィッシングをしようと思う。湖に魚がいるし」
空魚を捕るのも良いな。考えてたら、楽しみになってきた。しかし問題は金か。道具一式を揃えると、そこそこ掛かるはず。
とりあえず船の乗り心地を確かめるため、少し試運転を行う。
「ところで船の幅が狭すぎない? 戦闘になったら困らないかな」
「それは考えてあるよ、ちょっと見てて。飛空船召喚!」
光と共に、今まで使っていたイカダが現れた。昨日の破損は、すでに修復されている。
「へぇ~、二艘を同時に使えるのね」
「上手くいった。しばらくは戦闘にイカダ、娯楽にカヤックで使い分けるつもり」
さて釣りに必要な道具を準備するか。
「今から売店に行くけど、フェリアはどうする?」
「行きたいけど、仕事が山積みなの。魚が釣れたら、ご馳走してね!」
「期待半分で頼むよ」
俺はフェリアと別れて、売店へと向かった。正直、釣れるか自信がない。釣りの経験なんて、ほとんど無いからな。せめて安く釣り道具が買えるといいけど。
「高い!」
儚い希望だった! 売店に置かれた通販用の機械。その前で、俺は途方に暮れていた。なにしろ高い。予想外に高い。
「……エサと釣り針だけ買おう」
なにも高価な竿を買う必要は無いしな。糸は部屋に手芸用の物があったはずだ。それを使おう。あ、先に図書館へ行くか。たしか島の案内本に、釣りの注意事項も書かれていた気がする。おすすめの釣り場とかもあったな。
一時間後、準備を終えた俺はマンションを出た。さっそくカヤックを召喚して、乗り込む。イカダでは、立ったままが多かったから、座って乗るのは新鮮に思う。パドルを手に取り、魔力を込める。動かすだけなら、パドルは必要なかった。ただ試運転時に確認したところ、パドルを使うと魔力の消費が少なくなると判明。
「よし、漕ぐか!」
ゆっくりと飛空船を浮かび上がらせ、パドルを持つ手に力を入れる。カヤックは音を立てずに進んでいった。障害もなく、目的の湖に到着。イカダを召喚すると、積んでいた荷物を取り出して準備をする。竿は森に落ちていた枝を拝借。糸と針をつければ、釣竿に見えるだろう。
「良い天気だな」
絶好の釣り日和だ。せっかくだし湖の中央まで行こう。そして釣り糸を垂らす。この湖の生態を本で調べたが、俺の知っている魚はいなかった。少し残念だけど、他の大陸には存在するらしい。いつか釣り場を巡って、旅をするのもいいかもな。
数時間は経っただろうか。釣果は思ったより良かった。バケツの中には十数匹の魚が、所狭しと泳いでいる。釣り素人にしては上出来だな。さて、戻るか。荷物を載せたイカダを送還しようとして、ふと気付いた。
「あ、生物は送還できない!」
伝説級の魔導師は、生物ごと異空間へ送る魔法も使えたらしい。しかしながら、今の俺では不可能だ。魚の入ったバケツを移動させよう。いや、ちょっと待てよ。二艘を同時に動かせばいい。なんとなく、できる気がする。
結果、二艘同時移動は可能だった。だが非常に疲れた。魔力の消費が多すぎる。しばらく常用は難しそうだな。建物の入り口へ辿り着いたときには、全身に疲労が回っていた。
「おかえり~、お疲れ様! て、本当に疲れているわね。どうしたの?」
「飛空船、の、同時、操作を、試してみた」
息も絶え絶えに答える。本気で、疲れた。
「まあ、とりあえず休んで。あ! たくさん釣れてる。凄い!」
フェリアが飛びながらバケツを覗き込んで、驚きの声を上げた。ここまで反応があると、釣りに行って良かったと思う。なにより楽しかった。
「運が良かったよ」
「よければ裏で焼いておこうか?」
「ありがとう、頼む」
裏というのは、入口の反対側に存在する開けた場所のことだろうか。正面からは見えないけど、ある程度の広さがあったはず。火を使っても問題ないみたいだ。
俺は支度をフェリアに任せると、部屋に戻って汗を流した。着替えを済ませて、建物の裏へと回る。
「もうすぐ焼けるよ! 座って待ってて!」
「準備は終わってるのか。助かったよ」
考えてみたら、昼食は軽い物しか食べていない。だいぶ腹が減った。魚を焼いている金網を見ると、野菜も置かれている。肉が無いのは、メインが魚だからか。
「先に飲み始めましょう!」
「そうしようか」
フェリアの用意した魔導保冷箱を開けて、二本の麦酒を取り出す。銘柄は初めて見る物だ。この酒の代金は、どうしよう。後で清算すればいいか。
「あ、そうそう。魚は貰ったから、お酒と野菜の料金は気にしないでね」
「それは助かるな。貯金も考えないと、今後に差し支えそうだ」
釣り道具の出費も、地味に痛いしな。まあ考えるのは明日にして、今は飲もう。保冷箱からグラスを出し、フェリアに渡した。麦酒の缶を開け、グラスに注ぐ。
「ありがと。あ、これ焼けてるよ」
「おー、美味そう」
焼き魚を受け取りつつ、手酌で麦酒を自分のグラスに注いだ。
「それじゃ、乾杯」
「はい、乾杯!」
思った以上に美味い。焼き魚と野菜を十分に堪能した。焼き係を交代しつつ、穏やかな時間が流れる。
「平和だな~」
「この島は平和だけど、島の外は危険よ。準備はしっかりとね」
フェリアの忠告を聞きつつ、食事を続ける。気が付いたら、もう遅い時間だ。
「そろそろ片付けようか」
「ええ、そうしましょう」
二人で手分けして、片付けを始める。
「あ、そうそう。明日からの訓練で余裕があれば、高速思考術を覚えると便利よ。詳しくは図書館の本を読んでね」
片付けの途中、フェリアが唐突に声を掛けた。
「高速思考術か、探してみるよ」
「きっと役に立つはずだわ」
会話をしつつ、片付けを進める。終わると、そのまま部屋に戻り休息を取った。明日からの予定を考えながら、眠りにつく。




