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99:自覚と悪意


「やぁ、流戸。今日から僕が君の父親だ」


 流戸が12歳となった時、流戸を養子として迎え入れに、男がやってきた。


 男に今日から自分が父親だと急に言われても、流戸に戸惑いはなかった。何故なら、流戸は最初から自分が最上級の違法出生児であることを分かっていたし、そろそろ成人判定されなければおかしいだけの能力が、流戸には客観的にあったからだ。


 流戸は何も言わず、男についていった。


 新しい家について早々、流戸は自身のホログラム投影端末を覗き込む。プライベートモードで投影したそれは、流戸にしか見ることはできない。


「もしかして、先生と話してるのかい? 施設外に出た者と連絡を取ることは許可されていないはずだが……やっぱり、流戸があの施設をハッキングして、システムを変えたというのは本当だったんだね。素晴らしい! 流戸、君はそうした行いを、僕の前で隠す必要はないよ。そういった行動原理を、閉じ込める必要はない」


 男は興奮し、笑っていた。流戸が犯罪行為を行っていた事実を知って、満足げにしていた。


「どうして? どうして嬉しそうなの?」


「僕が望んだことだ。君がそうやって、欲望を懐き、そのために社会法則を蹂躙することを期待して、僕は君を造ったんだから」


「犯罪者を造りたかったの?」


「流戸、森戸家の人間はね。昔、ある危険な遺伝子を封印したんだ。遺伝子は維持されているものの、それが発現しないようにした。だから大胆な犯罪行為というのは難しくなった。そうしたら社会は安定したけど、森戸家の力は弱くなったんだ。当たり前だよね、悪意や攻撃性を使って上へ上へと上り詰めた家なのだから。自ら武器を手放したようなもんだ」


「……なら、どうしてあなたは僕を造れた? あなたはその封印された因子を、僕で復活させたって話でしょう?」


「ははは、馬鹿みたいな話だよ。他の家にいたのさ、危険因子を秘密裏に復活させていた者が、そいつは僕と、僕の兄を事故に見せかけて殺そうとした。支配者である森戸を潰し、成り上がるためにね。僕も兄も生き残った、けどその時、僕は運良く脳の一部を失ったんだよ。その結果、犯罪行為が可能となったのさ。兄はまともなままだったけど、僕の計画に協力してくれたよ」


 皮肉にも、森戸の人間を殺そうとした者がいた結果、森戸は邪悪の力を取り戻した。男、森戸渦戸もりど かどは事故の後、意図的に脳の損傷を治療しなかった。


「このままでは森戸は潰されてしまう、家を守るためには力を取り戻すしかないって説得したら、納得してくれた。表向き、流戸は兄の子供ということになっている。本当は僕の子供だけどね。兄は僕の方が家を守るのに適していると、僕の身代わりに、刑務所に入った。流戸、君は特別な子供なんだ。望んで生まれてきた、僕の救世主だ」


「森戸を守るために造った……いや、違う。そんなことを考えている人間が、こんなに醜い姿をしているわけがない」


 流戸の目には見えていた。人の心の形を見る目、その視界には頭を黒い霧で侵食された悪魔のようなナニカがいた。誰かを守ったり、平和を望むようには見えなかった。


「はは、その通りだよ。僕は森戸の家を守るなんて、そんなのはどうでもいい。ただ、見て見たかったんだ。後天的な紛い物ではなく、生まれた時から、邪悪となる運命を決定付けられた子供が、いったいどんな化け物に成長してくれるのか。化け物が世界をどう壊すのか、見て見たかったんだ。だから流戸、自分の欲望を抑える必要なんてない。悪意を成せ」


「なら……ならなんで……なんで僕に……正気の部分を残したんだ。あなたの姿を見て、はっきりと分かった。僕にまともな部分を残していなきゃ、僕は……あんな、人の形をしているわけがない……」


 流戸が見た自分の心の形は、顔のない少年だった。顔がないだけで、流戸の父親の姿程、人間離れした姿ではなかった。明らかに、流戸は人の要素が残されていた。


「流戸、君に何が見えているのかさっぱりだけど、君にまともな部分があるのは。真の邪悪を体現してもらいたいからだ」


「真の邪悪?」


「悪人というのは、そもそも悪事を悪いことだとは思わない。犯罪というのも、社会のルールで規制されているのだなと理解し、リスクがあるなと思うだけで、悪いだなんて思わない。けどそれは逆に言えば、彼ら悪党が、罪の意識を持っていたなら、犯罪は行わなかったかもしれないということだ。では、罪の意識を持ち、理解できる者が、自分の意志で、自分から罪を犯すのはどうだろうか? それはもう完璧に、どう足掻いても、犯罪を犯すのではないかな? 理性と葛藤という壁を超えた偉大なる巨悪なんだよ。僕は、流戸にそうなって欲しかったから、理性的で賢く、優しい女の遺伝子と僕の遺伝子を掛け合わせて、そこから悪の因子を復活させたんだ」


「……だとしたら、あなたの思惑は失敗してる。僕は、犯罪を犯すことに、それほど罪の意識を感じていないから」


「ふむ、けどそれは……自分の中に正当性があったからじゃないかな? 自分の不満だとか怒りだとか、施設の中じゃ、そういったことを感じそうだものねぇ。ならなんの正当性もないならどうかな? 罪の意識を感じるんじゃない? きっと流戸、君はそれができてしまうよ? やってみたらいい」


 流戸は、自分という存在を試すつもりで、正当性のない、単純な欲望から、その体を動かした。


 全くの無関係である、中級市民の子供を殺した。その子供に苛つく要素もなかったし、魅力的だったわけでもない。ただ、目に入ったから、自分を試すために流戸は子供が一人になった所を攫って、自分の家のごみ処理用の粉砕機に入れて殺した。


「……できてしまった。心が苦しくなっても、感じても、自分を止める理由にならなかった……罪の意識が湧いても、どこかに漏れ出てるみたいだ。僕は、穴が空いてるんだ」


 罪の意識を感じられても、流戸はそれにより欲望を止めることができなかった。悪意と欲望がそれを上回って、罪の意識は押し流されてしまう。


 流戸は、その日から少しずつ心の形を変えていった。犯罪を重ねる度に、その心の形は化け物に近づいた。何者も彼の欲望を抑制する罪の意識にはなりえなかった。それは罪の意識などないに等しかった。ただ、知らず知らずのうちに、流戸自身の心の底を傷つけていただけ。


 それからしばらく経って、流戸は運命の少女、アルカに出会った。流戸にはひと目で分かった。アルカが普通の人間ではないことに。


「天使様だ……綺麗で、冷たいぐらいだ。まるで機械……先生みたいだ」


 流戸の見るもう一つの景色には、アルカが天使に見えた。機械の如く、純潔で、冷たさと慈愛を持ち合わせていた。


 その姿に、流戸は先生への思いを重ねた。ありえないストーリーだが、流戸にはまるで、先生が自分のために人間になってくれたかのような感覚だった。


 流戸はアルカが欲しくなった。今すぐに欲しくなった。その場で連れ去って、そのまま犯してやろう、そんな強い欲求が、流戸の脳を過ぎった。


 けれど、アルカに拒絶された時、殴られた時、流戸は自分の欲求を飲み込んだ。


(我慢……できた? 欲求を抑えられたのか? 悪意を抑制できるのか? この子は、僕を人にできるのか? 僕は、この子のためなら、悪意を抑えつけられるんだ。完璧だ、彼女がいれば、僕は……完璧な人間になれるんだ)


 アルカは、流戸にとって、外付けの理性、抑制装置だった。アルカからすれば、一方的なその感情は迷惑そのもので、運命的な相手でもなんでもない。しかし、流戸にとってはそうではなかった。


 最初から、出会った時から、二人はすれ違っていたし、その心は離れていた。逃げるアルカを流戸が追いかけるだけ。


 アルカは恐怖し、流戸は追いかけることを楽しんだ。


 流戸のアルカへの感情は歪んでいたが、いつしか、流戸の行動の全ては、アルカが中心となっていた。アルカに振り向いてもらうために、自分の精神、魂を改造することを流戸は考えた。


 そうして流戸は、Road Blend Onlineの世界で、精神、魂の研究を始めた。アルカの理想の人の精神、魂をゲーム内から得たデータから計算し、理想の魂の形を特定、理想の精神から逆算する形で、流戸の肉体を改造、遺伝情報を書き換える。


 それが、流戸の野望、夢だった。





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