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96:決戦準備


「まさか、これ程までうまくいくとは……魂溶草への耐性、いや許容量がかなり増えている……もしかするとベイカルで何度も精神体をバラバラにされても再構成を繰り返した経験が活きているのか?」


 あれからエリアちゃんの魂溶草による俺の改造は続いて、俺は最早常人なら即死するレベルの魂溶草の効能に耐えられるようになっていた。耐えるというか、適応というか……死ぬことはない感じ。


 今では俺の精神体の形も自由自在に変えられる。それでいて、元の形にすぐに戻ることができる。魂の形を変形させる修行は、結局の所、己を再構成、自己の強い認識を強める修行にもなった。


「どう? ダクマの形を真似てみたんだけど。エリアちゃんからもそれっぽい感じに見える?」


 自分の力量を測るために精神体の形をダクマの形に変えてみた。


「なっ……そんな細部まで形を再現できるとは……流石に内部構造までは再現できないようだけど、幻影魔法も駆使すれば、個人認識型の封印を解除したりできるかも。しかし、他の魔法と組み合わせれば、シャヒル殿のこの力は色んなことができそう。例えば感覚共有した分体を作り、同時に行動だとかそういったことも可能かもしれない」


「分体を同時に操作って……自分を遠隔操作するみたいな感じか? む、難しそ~……」


「応用法はおいおい考えるとして、少なくとも意識喪失を防ぐという目的は達成できた。シャヒル殿個人で出来る決戦への備えというのはこれでかなり前進した」


「け、けどなぁ……俺、別に戦闘能力が上がったわけじゃないしなぁ。敵は、モラルスはここ数週間のうちに準備を進めていただろうし、もしかしたら……他の望濫法典幹部とは比べ物にならないほど強くなってる可能性だって……」


「シャヒル殿、そう気負うことはない。そもそも一人でどうこうできることではないはず。それに、シャヒル殿の戦闘能力が向上していなくとも、あなたの仲間達は強くなった。特にダクマの成長は目覚ましい。彼女はもうカンストレベルに到達した」


「えっ……!? そうなの!? 俺聞いてないけど……いつものあいつならすぐに俺に自慢しそうなもんだけど……というか、レベルあっさり抜かれちゃったな」


「思うにダクマは今までまともに修行しようという気がなかったのではないかな? それが、シャヒル殿がベイカルで死にかけ、その時動けなかったこと、シャヒル殿に頼られなかったことが悔しくて、本気で強さを求める理由となった。それにしても……ダクマの才能は異常だ。元から強い力を持っているのは分かっていた、けれど、あれは望濫法典の幹部達が変身した状態よりも合計ステータスが高いかと錯覚するレベル……それでいてバトルセンスもあるのだから、彼女と真っ向勝負して勝てる存在は、おそらくこの世界にいないだろう。上位次元ならともかく、肉の世には」


 そんなヤバいのか……でも、自分のことを魔王の落胤、次の魔王となるとか言っていたし、ダクマの力の元となった妹、夜織子もまた世界的にイレギュラーだったなら、別におかしなことではないのかも。


 このロブレ世界に魔王となる素質を認められていたからこそ、魔王の落胤のスキルがあった。普通にやったら普通に魔王になれてしまうんだろう。だからやろうと思ったらカンストだってすぐするし、もしかすれば、あいつならその先だってあるかもしれない。


 実際、この世界のモンスター、ボス達はカンスト上限が人より高いし、ダクマが世界から真に魔王と認められたなら、モンスター、化け物扱いされて、レベル上限を突破するなんてこともありえそうだ。


「真っ向勝負できたら俺たちの勝ちってことか。けど、モラルスは絶対にそんな戦い方はしないだろうな。あの大量のミスリルドラゴン達を活用しないなんてありえないし……戦うなら、早いほうがいいのかもしれない……」


「決戦を自分たち仕掛けると? シャヒル殿、少々焦りすぎでは?」


「ダクマが現時点で世界最強クラスで、俺の意識喪失リスクが消えたなら、戦うべきタイミングは今だと思う。敵は策を巡らすタイプだから、準備期間を与えれば与えるほど、俺たちの勝率は下がる。敵はここから強くなっていく可能性があるけど、俺達にはあまり伸びしろがないし、相手の行動を読んで先手を打つことも難しい。そもそも相手がどう仕掛けてくるかもわかってないからね」


「相手が何をしてくるか分からないというのならそれを調べてからでもいいのでは?」


「俺が敵を過大評価しているだけの可能性もあるけど、俺たちが調べて答えにたどり着く頃には、敵は次の策、勝利ルートを増やしているんじゃないかな。だから、相手の策が万全でないうちに、強制的に戦いを起こす。モラルスを見つけ出し、直接叩く」


「……モラルスの居場所はどうやって特定を?」


「俺たちにはこいつがいるだろ?」


 俺は横で寝そべるブラビーを指差す。


「ブラビーはドルカスだった頃の記憶の殆どを失ってるけど、全てじゃない。前にエリアちゃんの心と繋がってしまった時があっただろ? あれをブラビーで試して、俺がブラビーの欠けた記憶からモラルスの居場所に繋がる情報をサルベージする」


「……」


 エリアちゃんが黙ってしまった。この方法じゃ駄目なんだろうか?


「あれを試す……そ、そうか……なんということだ……シャヒル殿はやろうと思えば、人の心と繋がり、その内を見ることができるということ……恐ろしい力だ」


 恐ろしいと言うエリアちゃんの顔は真っ赤だった。


「まぁでも、あれやると、俺の心もある程度相手に伝わるからなぁ。信用できる相手にしか使えない。ま、試すだけ試してみるよ。無理そうだったら他の方法を考えよう」



◆◆◆



 人どころか魔物すらいない荒野で、ダクマとアルーインは対峙していた。ダクマが拳を振るう、衝撃波が奔り、荒野の大地を裂いていく。それはかつてダクマが使用していた暗黒拳の上位スキルだった。魔王拳──それは命中時に相手の生命力を吸収し、命中する度に、その戦闘でのヒット数が増加するという、馬鹿げたスキルだった。


 ダクマの魔王拳は、彼女の持つ特殊スキル、闘拳の才覚によって、攻撃力依存の防御無視ダメージを与えることができ、その固定ダメージでも、魔王拳の生命力吸収効果は適用される。


 ダクマのステータスは物理面に特化しており、異常な攻撃力を持っている。そのため、攻撃力依存の防御無視固定ダメージとは、固定ダメージだけで並のカンスト者に致命傷を与える。


 そして、武器や防具で攻撃を防ごうとすれば、それらがそのダメージに耐えられなければ、装備を失うことになる。


「──滅茶苦茶な軌道……ッ」


 ダクマの魔王拳は曲がる、ダクマ自身が異常な旋回性能を持つために、通常の攻撃軌道予測は役に立たない。ダクマの性能はその全てがデタラメで、相対した者は二択の反応をする。悪態をつくか、絶望するか。


 当然、アルーインは悪態をつく方で、理不尽な性能にイラつきながらも、当然のように、ダクマの攻撃を捌いた。


 武器で受ければ武器を破壊されるため、アルーインは剣で大地を切り、斬撃の衝撃波と土を融合させてダクマに命中させる。そうしてダクマの勢いを削ぎ、回避する。


「いった……っ、これ魔法じゃないのか!? どう見ても土属性魔法ではないか!!」


 ダクマが怒りを感じるのも無理はない。ダクマはアルーインの放った、土属性斬撃によって大ダメージを負っていた。


 ダクマは固有の特殊スキル、魔王の落胤によって攻撃魔法を無効化できる。そのため魔法のような攻撃によるダメージを受けることに慣れていない。アルーインは魔法を使っていないので、斬撃の衝撃波によって鋭い弾丸と化した土は、ダクマに着実にダメージを与える。


 しかもご丁寧に、ダクマの肩や腕、足、を狙っていた。ダクマのそれらの箇所は穴が空いて、流血している。


「クク、しかし余に敗北はない! 何故なら、魔法を覚えたからな! 生命力を魔力に変換しッ!! ──【オート・ヴァンプ】」


 ──【オート・ヴァンプ】:一定時間、自身の攻撃に与えたダメージに応じて体力吸収効果。闇属性、水属性、魔法、3/4。


 ダクマの傷口から血が噴き出す。出血はダクマの持つ特殊スキル、魔王の落胤で自身の生命力を魔力に変換して魔法を発動したからで、その反動は馬鹿にならないダメージだった。


「オート・ヴァンプ……魔王拳とかいう馬鹿げた戦技スキルの体力吸収効果と合わせて、一度攻撃を通せば、バカみたいに回復されそうね」


「フッ、魔王拳は使わん! どうやらお前に当てるには、隙がデカすぎるようだからなァ……! 故に、最も隙が少ない通常攻撃で、押し通る! 一撃でも通れば、そこから逆転だ!」


「一撃喰らえば本当にそうなってしまうのだから理不尽極まりない。ならこっちも、その領域で戦うしかない!」


 アルーインは二刀流で振るう剣と槍を、自身に突き立て、切り裂いた。


「はぁ!?」


 アルーインの自傷行為、素っ頓狂な声をあげるダクマ。しかし、アルーインは至って大真面目だ。アルーインは魔法剣で攻撃力強化のバフ魔法を剣に、速度と器用さを上昇させるバフ魔法を槍に付与し、さらに魔法を二重詠唱、槍に付与したのとは別の速度上昇バフ魔法と、狂化魔法を詠唱する。狂化魔法は一定時間魔法が通常詠唱できなくなる代わりに攻撃速度と攻撃力、速度を上昇させる魔法。


 つまり、アルーインは自身に対して4種の強化魔法、そのうち3種は速度を上昇させる魔法を付与したことになる。


「こんな使い方はしたことなかったけど、案外できるものなのね。どのみち攻撃系の魔法剣があなたに対して意味をなさないのなら、割り切った考え方もできる!」


 魔法剣の攻撃魔法を無効化できるダクマは、アルーインにとって相性は最悪だった。しかし最悪な相性、状況だからこそ、アルーインに逆転の発想が生まれた。それは魔法剣でダメージを与えずに戦うという選択肢、自身への強化効果のみで、ダクマと戦うということ。


「──ッチ、っく、早すぎて、まるで見えんぞ! ズルいぞ!! アルーイン!」


「ズルいって、あなたの方がヤバイと思うけどね──」


 ダクマは通常攻撃の乱打を繰り返す。


 が──それは一撃たりともアルーインには届かない。元から素早いアルーインが三重の速度上昇バフ効果を受ければ、それは神速の域に到達する。雷神と呼ばれた伝説の傭兵と同等か、それ以上の速度を実現した。


 そして、アルーインは大きくダクマと距離を取る。


「──【終末穿孔ラグナロク・ピアース


 アルーインの槍術における最強技、終末穿孔が放たれる。槍は螺旋の力を持って、天を突き進む。槍に付与されていた速度と器用さを上昇させる効果は、アルーインが槍を投げるその瞬間に、対象を槍そのものへと変えた。


 魔法剣スキルとは魔法効果を武器に付与する効果。つまり、武器自体も常にその魔法の力を帯びているということであり、特に工夫する必要すらなく、強化効果を適用できる。


 問題は、その武器が敵にダメージを与えたならば、その敵を強化してしまうデメリットが存在することだった──しかし、それは、その一撃に敵が耐えられたらの話。


 ダクマはアルーインの終末穿孔が自身に到達する瞬間を認識することすらできないまま、その一撃で死亡する。元からかなりダメージを受けていたこともあって、ダクマは耐えることができなかった。


「はぁ……なんとか面目は保てたかな。鍛えてやると言って師匠面して負けたら、目も当てられない所だった。蘇生、蘇生っと」


 アルーインは死亡したダクマを秒で蘇生する。


「くっ……うあああああん! なぜ勝てない!! 余だってかなり強くなったはずなのに……」


「経験不足、引き出しの少なさが原因ね。あなたは馬鹿げたステータスとスキルを持ってるし、殆どの相手はそれでどうにかなってしまうだろうけど、柔軟性がないとそれでも負けることもある。今回だとそうだね……あなたが速度上昇のバフ魔法を覚えていたら、わたしの終末穿孔に反応できたかもしれない。避けられなくとも、ダメージ軽減ぐらいはできたかも。大技を避けたら硬直もあるし、反撃のチャンスもあったはず」


 実際にはアルーインは狂化の魔法を使っていたので、攻撃速度上昇効果で、技の始動から硬直までが短縮されており、終末穿孔をどうにか耐えられたとしても後隙は一瞬しかない。しかもアルーインは事前にダクマから距離を取っていたため、ほぼノーチャンスだった。


「うむうむ、引き出しが必要なのは分かった。覚えてやろうという気が湧いてくる。アルーインよ、余に有益な魔法を教えろ。それをマスターしたらまた戦うぞ!」


「わかった。そうだね、ダクマにはまず各種強化魔法を覚えてもらおうかな──」


 ダクマとアルーインの修行は続く、ダクマもアルーインも互いが互いの刺激となって、貪欲に強さを求めた。


 望濫法典の首魁、モラルスを斃すために。




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