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92/105

92:結果



「──っ……? イタタタ、あれ……? なんだ? ニンジンと、なんだこれ、豆?」


 気がつくと俺はブロックスの宿屋にいた。俺、寝てたのか? いつの間に……目が覚めて最初に目に入ったのがテーブルの上にある大量のニンジンと、以上にでかい豆だった。それにしても、なんか体が重いな。体を起こそうとするも、何かが毛布の上に覆いかぶさっているのか、引っかかる。


 無理やり起きる気力も湧かないので、部屋の状況をもっとよく見てみる。すると、ギィと部屋のドアが開いた。


「う、うさぎ……?」


 赤色のふてぶてしい顔をした兎が部屋に入ってきた。赤兎はニンジンが大量に乗せられたテーブルに、新たなニンジンと大きな豆を追加した。


 こいつがこれ持ってきてたのか? なんで……? というか、こいつ、何もない空間から……アイテムボックスなのか? 兎がアイテムボックスを使えるのか? 何がなにやら……


「アシブト、オキタ! オキタ!」


「うわっ、喋った!?」


 ──ドタドタドタ、ドンガラガシャーン!


 俺に覆いかぶさっていたであろう重みがベッドの上から落ちたのだろう。急に体が軽くなって、あっさりと起きられた。


 重みの正体達は、パニック気味にベッドから落ちたせいか、落ちると同時に近くにあった観葉植物の鉢と小さな本棚、小物入れを倒した。


「アルーインさんと、ダクマ、ディアンナ? 今どういう状況なの?」


 俺が三人に質問すると、返答はドアの外から返ってきた。


「ベイカルで敵を倒した後、シャヒル殿は倒れてしまって、ずっと眠っていたんです。かれこれ一週間程」


「え、エリアちゃん! い、一週間!? そんなに……? なんで……というか、この兎は、何?」


 質問の回答と共に、エリアちゃんが部屋に入ってきた。それにしても一週間も寝てたって……その間守護連合は大丈夫だったんだろうか?


「その子はおそらく望濫法典の幹部、ドルカスの生まれ変わりのような存在だと思う。ケリスに力を奪われた時、ドルカスの邪念を全て取られたのか、あれの良かった部分だけが残ったのだと思う」


「え!? この兎が……あのマッチョ? けど良かった部分だけって……確かに悪意は感じられないけど」


「最初は私もアルーイン殿も警戒していた、でも……この兎はシャヒル殿に助けられたと思っているようで、あなたの力になりたい、助けたいと言ってきた。それを聞いたダクマが仲間に引き入れた。この兎が持ってきたニンジンと豆は高級食材で、滋養強壮と治癒力の向上、呪いの緩和の効果がある。どちらも危険地帯で取れるモノ、これを持ってこられたら私達も認めるしかない」


「そっか……ありがとう。お前名前は……? ドルカスでいいのか?」


「ナマエ、ワスレタ。オマエオレ、ナマエツケテホシイ」


「えぇ? 俺が? お前好きなものとかあるか?」


「オレ、ホラーエイガ、スキ!」


 ホラー映画が好き……? どうしよう……好きなものがあったら、そこから名前をつけてやろうと思ったのに、ホラー映画からだと不吉な感じになっちゃいそうだ……


「じゃ、じゃあ……お前赤いし、ブラッドラビット、ブラッドラビットのブラビーでどうだ?」


「オッケー! オレハブラビー!」


 ホラー要素として血を名前として取り入れつつ、同時にあだ名で物騒な感じを消すことに成功する。本人も気に入ってくれたようでよかった。


「けど一週間も寝てたってことは……俺、普通の怪我じゃなかったってことだよね?」


「シャヒル君、君は精神世界で何度も再生と破壊を繰り返して、深刻なダメージを負った。それだけでなく、ケリスの攻撃は、ただの攻撃じゃなかった。呪いが込められていたんだ」


 今度はアルーインさんが俺の状態を説明しだした。顔を見えると、目が真っ赤に腫れていて、指先の喉が振るえていた。


「呪い……あいつは俺の死を強く願っていたし、もしかして死の呪いとか……? あわわわわ……」


「いや、エリア君曰く、死の呪いではないそうだ。ケリスは本質的には君の死を願っていたわけじゃなかった。ヤツの呪いは接合の呪い……他の存在同士をくっつける呪いみたいだ。それで、君は接合の呪いで死の概念と君をつなぎ合わせたんだ」


「えっ!? それってやっぱり俺死ぬんじゃ……?」


「ケリスは死の概念を深く理解できていなかった。精神世界のことを死の世界だと認識していた。そのため、シャヒル殿は接合の呪いによって精神世界に繋がれた。おそらく、この一週間、シャヒル殿は精神世界を彷徨っていたのだと思う。意志も薄弱な状態で」


「まじか……じゃあエリアちゃんの言う通り、俺が精神世界を意志薄弱で漂っていたとするなら、俺の精神がグチャグチャの状態で、単に力尽きてたからってこと? けど、よかった。こうして戻ってくれたし、戦いに勝ったならベイカルのみんなも無事ってことだよね?」


「……」


 え? ここでみんな沈黙……? 不穏なんだけど……


「いや、ベイカルは助かったよ。シャヒル君のおかげでね……けれど──望濫法典が神を降臨させようとしたのは、ベイカルだけじゃなかった。他の堕落五都市はもちろん、望濫法典の影響が強い30都市程が……全滅した。神と神殿の生贄となって」


「え……? そんな、嘘……都市30が全滅……? 一体何百万人死んだんだ……? 望濫法典のせいで……」


「最近の望濫法典は、求心力を失い、多くの構成員が望濫法典から抜け、弱体化していた。モラルスがそういった裏切りに対策らしい対策もせず放置していたのは不気味に思っていたけれど。結局、モラルスは構成員に魔術を仕込んでいたんだ。神殿建立と神の降臨の魔法を……組織を裏切り各地に散り散りになっていた元望濫法典メンバーは、望濫法典が儀式の準備をしていた都市で、結局起爆剤となった。鍵と錠のような関係で、条件を満たせば……魔法は発動する」


「……その起爆剤となったやつらはどうなったんですか?」


「全員死亡し、それぞれ降臨させたミスリルドラゴンに取り込まれた。ベイカルのケリスとドルカスは取り込まれる様子もなかったし、彼らは幹部だったから特別だったのかもしれない。モラルスが彼らを利用しようとしていたのは間違いないけどね」


「待って……じゃあ、ベイカルで降臨した望濫法典の神、あのミスリルドラゴンも特別だったんじゃ? 他の場所で現れたのとは違うのかも?」


「私もシャヒル殿と同じ見解。実際他の都市のミスリルドラゴンを確認してきたけど、ベイカルのミスリルドラゴンよりも小型で力も弱かった。他の都市は儀式が簡易的だったのか、それとも望濫法典の幹部がいたからなのか、それは分からないけど、差異があることは明白」


 エリアちゃんの言うことが本当なら、もしかすると俺たちがベイカルのミスリルドラゴンを潰したことは、望濫法典からするとかなり致命的だった可能性がある。


 奴らの計画の中心、外せない要素だったのかも……


「あれから死克とも情報共有を行ったんだけど、ベイカルで神殿建立の儀式が発動するよりも前、どうやら望濫法典の幹部、ドルカスと死克で戦闘があったらしいんだけど、ドルカスはその戦闘で自爆して死んだらしい。聖女やサイシューの力ではなく、他の要因で自爆したとしか思えないそうだ。聖女の力で鉄化してしまうのを防ぎたかったのではないかとわたしは考えてる」


「本当ですか? じゃあやっぱり、ベイカルのあの儀式には幹部の存在が必須だったんだ。でもそうか……死克と戦闘が……だからドルカスの様子がおかしかったのか。鉄化された魂を切り離されたから、記憶や意志が曖昧に……」


 元ドルカスである赤い兎、ブラビーを見る。まるで他人事のように床のクッションを枕に寝ている。なんというか平和そのものだな……まるで邪気を感じない。邪気だけでなく、こう、なんていうか、人間的なドロドロっていうか、強い欲望が感じられない。


「も、もしかして……ベイカルの儀式に幹部が必要だったのは……人の強い欲望、邪気みたいなものなのかも……神にしても精霊にしても、人にしても、精神世界では思い、願いを力に変えることができた。望濫法典の幹部の邪な強い欲望を軸、骨組みとして、人々の魂や恐怖心を肉とした……? ケリスの心は弱かったけど、その思いは強かった。戦っている間、感じてた。あいつの強い執着、悲しみとか、猫と再会できて嬉しい気持ちとか」


「なるほど……異常者の強いエゴを骨組みとするか……確かにそれならば、大きな力を受け止められるかもしれない。シャヒル殿の理論でいくと、ドルカスが戦闘に参加せず、寝ていたのはかなり痛手であったはず。本来ならドルカスとケリス、二人の強いエゴの力でミスリルドラゴンの骨組みを完成させるところ、ケリス一人のエゴで完成させることになったのだから……しかもケリスはミスリルドラゴンが完成していない段階でその力を使ったから、さらに完成が遅れた。考えれば考えるほど、死克の聖女とサイシューはよくやってくれたと思う」


 実際エリアちゃんの言う通りだ。死克の聖女とサイシューがドルカスを弱体化させたおかげでどうにかなった。いや、二人だけじゃない、アルーインさん、エリアちゃん、ガルオーン、ベイカルの人々の願い、どの要素が欠けてもダメだったはずだ。


 まさに奇跡的だ。だけど、ただの運じゃない……みんなが、自分にできることを精一杯やった結果だ。抗ったからこそだ。


「みんな、ありがとう。みんなのおかげでどうにかなった。また帰って来られた。ッ、っぐ!? ちょ、いたた」


「しゃ、シャヒル君!?」


「──いッ、意識が──」


 なんだ、体が痛い、何かに引っ張られるみたいに……意識が剥がされ──




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