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84:繋がる希望



「じゃあ、今の俺って……幽霊みたいな感じなのか……もう地上が見えなくなってきた。なんか変な感じだな……見えないけど、エリアちゃん達の存在を感じることはできる」


 どうやら俺は精神体だけ光の神殿に着いてきてしまったらしいが……とにかく神殿の頂き、祭壇を目指さないとだな。


 歩いて移動を試みる。なんか……うまく歩けないな……浮遊感があって、地に足がつかないような感じだ。


『まぁ、シャヒルの肉体は地上に残されておるし、その近くにはエリア達もおることだしのう。存在を感じるのは当然じゃ。肉体から離れても、繋がりは保たれたままじゃ』


「っと、とと……そういうことか。チッ、うまく歩けねーな……」


『歩くことに拘るなシャヒル。この世界では、足ではなく、意思の力、イメージで移動するんじゃ。もっと自由にやればいい』


「こっちの世界のことが分かるお前がいて助かったよ。じゃ、試してみるか。もっと自由に」


 ガルオーンの言う通り、もっと自由に考える。俺の体は霊体で、別に歩く必要なんてない。風の力で俺を包み、風の力で俺を移動させる。そんなイメージを強く念じる。


「おっ、いけた! ガルオーン!」


『ふぉっふぉ、流石はシャヒル、飲み込みが早いんじゃ』


 宙に浮き、俺は神殿をスルスルと昇っていく。


「なんか、神殿が、くっきりして、ボヤケた感じが無くなってきたな。神殿の完成が近づいてるのか? もう、光ってない……まるで実体があるみたいだ」


 移動中、周囲の様子を確認する。変だな……ベイカルの住人達の魂も、この神殿にあるはずなのに……姿が見えない。街の全住人の魂が連れてこられたのなら、ここまで見えないなんておかしくないか?


 ──アアアアアアアアァ!!


 形容し難い、不愉快な悲鳴が響く。なんだ……? 悲鳴のする方を見ると巨大な球体があった。ガラス玉のような半透明なそれは、中に光る煙のようなものが充満していた。目を凝らしてよく見てみる。


 煙はよく見れば、人の顔をしていた。数え切れないほどの、顔が集合したもの。なんとなく理解した。


「これは、ベイカルの住人達の魂か。苦しいんだ……無理やりに魂の力を使われているせいだろう。だとすれば、あの悲鳴にも納得がいく。


 街単位の大勢の人々が同時に悲鳴を上げたなら、それが人の悲鳴であるとハッキリ認識するのは難しい。


 そうか……俺は、あの音が、苦しんでる感じがしたから……悲鳴だと思ったのか。


 巨大球の表面から光の糸が伸びている。それはすぐ近く、神殿の頂き、祭壇へと伸びていた。


「よくも殺してくれたよね~……まぁでもいいか、なんとなく分かる。これから、モラルス君が言っていた、楽園ができるんだねー」


「あ、ああ……? なんだ、あ……えあ? 俺様、兎? あえ?」


「ドルカスくん、可哀想に……死に方が悪くて、頭がおかしくなっちゃったんだー」


「……ケリス!! 生きていた……? いや、ここが精神世界だって言うなら。死んだ後、魂か……」


 胸にネコの顔がついた、首なし人形。俺の眼の前にいるのは、俺が倒したはずのケリスだった。ケリスの到達者態……


 そして、あの兎とオーガを混ぜたみたいなヤツのことを、ケリスはドルカスと呼んでいた。じゃあ、あれが……ドルカスの到達者態か?


「てゆーか、シャヒルくんはなんでここに? 君がここに来て、何ができるっていうのー……? ま、でも……ここで死んだら……魂が消滅するってことだよねぇー? 復讐には丁度いい」



『──オオオオオオン』


 ──パリパリパリ。


 神殿の頂きで、人々の悲鳴とは違う、何者かの声が響いた。その声は金属音で人の声を再現したような、掠れた声で、剥がれ落ちた空間の隙間から、その声の主は現れた。


「ミスリルの……ドラゴン……?」


 俺の眼の前に現れたのはミスリルのような金属の体を持つドラゴン。青い光がその体表を脈打ち、その鼓動と共に、ドラゴンの力が空間へ伝わっていくのを感じる。


『この感じ……ただのドラゴンではない……神、それも虚無の神のものと似ておる……じゃが、所々体が透けておることを見るに……まだ完成してはおらんようじゃな』


「そうか、じゃあ、こいつが望濫法典が自分たちのために生み出した新たな神ってことか」


 ガルオーン、虚無の神のことが分かるのか? ガルオーンとして生まれたのは最近でも、ガルオーンの元となった存在の知識があるのか?


「あああ! す、凄いよ! 力が溢れる!! 心の痛みが、消えていく!!」


 ドラゴンの青い光がケリスに降り注いだ。ドラゴンの力でパワーアップってこと? 勘弁してくれよ!! それに、心の痛みが消えていくって……俺があいつに勝てたのは、あいつの精神が弱くて、パニックを起こしたから勝てたんだぞ?


 もし、それが改善されたとしたら……ドラゴンの力でパワーアップしたあいつに……俺が勝てるとは思えない……


 俺だって、前にケリスと戦ったときとは違う……今の俺にはガルオーンもいる……だけど……まるで勝てるとは思えない。


 勢いでこの神殿に掴まって来たけれど、ケリスとドルカス……そしてドラゴン……こんなことになるなら、俺はこんなとこ来なかったぞ……? どうしようもないじゃん……


『ははは、本当にそうかのう? シャヒルよ……こうなると分かっていても、お前はここに来てしまうんじゃないかのう? だってぇ、お前はベイカルの人々を見捨てられんのじゃろう?』


「く……うるさいぞガルオーン! 勝手に心を読んで決めつけるな! クソ……でも、そうかもな。俺は結局分かってても、まだ何かできるはずだって、来てしまったかもしれない。最初から俺に退路なんてなかったんだ。戦うしか、ないんだ!」


『シャヒル……アルーインのお嬢さんに助けを求めよう』


「いや、戦闘中だし、そもそも精神世界から使えるのか……? 魔法の手紙……」


『むしろ魔法は精神世界の方が冴えわたるものじゃよ。それに、ワシの力を忘れてはおらんか? ワシは異なる次元を移動できるんじゃよ? シャヒルが書いた魔法の手紙を、地上の非戦闘地域から出せばええんじゃよ』


「じゃあ、頼むぞ! ガルオーン! これで俺が死んでも、まだなんとかなる可能性が出てきた」


『全くお前は馬鹿じゃ、シャヒル。お前が生きて、皆を助けるために、ワシは提案したというのに……じゃが任せてくれ! 必ず伝える! シャヒルが見たことを!』


 ガルオーンはそう言って、虹色の輪っかを生み出すとその中に入って消えた。俺が頭の中でイメージした魔法の手紙、その情報を受け取って。


「どうやら見た感じ、ドラゴンはまだ動けないみたいだな。未完成だからか……いいのかケリス、お前が復讐を望んでそいつから力を得るなら、ドラゴンの完成は遠のくぞ?」


 なんとなく、それっぽいことを言って、ケリスがドラゴンの力を使うのをやめさせようとする。


「はは、完成が遠のくー? 知らないねー。そんなの誤差だろ? シャヒル君を殺すのにどれだけ時間が掛かると思ってるの? 自己評価が高いんだね君。羨ましいよ」


「あ、あああ!? 頭がスッキリだ……穏やか、ポカポカ……俺様、昼寝したい……」


「は? 何いってんのドルカス!? こいつを殺すんだよ!!」


「え? やだ……戦いはもう疲れた……甘いもの食べたい……」


「こいつをぶっ殺したら甘いものやるからやれ! いいから早く!」


 コントかな……? でも、なぜだかドルカスは戦いに乗り気でないらしい。なら……まだ、なんとかなるかもしれない……


「ドルカス! ケリスの言うことを聞くな! 甘いものは俺たちだって用意できる! 俺と戦わないなら、甘いものをお前にやる! 昼寝だって今からしていいぞ!」


「えっ……!? マジかよ……じゃあ、昼寝ぇ、できる分だけ、お前の言う方、お得だ」


「馬鹿かドルカス!? マジでイカれたのかよ!!」


「賢いぞドルカス! そうだ! お前の理論は正しい! 天才的だぜ!」


 ドルカスを罵倒するケリスと、逆に褒める俺。幼児レベルの精神、知能となったドルカスがどちらの味方をするか、それは言うまでもない。


「ケリスはゴミ、俺様は昼寝する。足太いは俺様の味方」


「な、なにいいいいいいいいい!?」


 ケリスは胸にあるネコの顔を手で覆い、叫んだ。その動揺っぷりを見て、俺は希望を持つことができた。





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