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79:兎のノーカウント



(聖女と戦うのは危険、まだ対策を考えられちゃいねぇ! だが、聖女の基本スペックは低い、それならヤツと距離を取って戦闘回付するのは難しくない……問題は、俺様が使ったこの鉄砲玉……ダグルムの力と、聖女の鉄の力……どちらも持ってるとすれば……)


 聖女がいる死克のアジトの戦闘を避けたいドルカスだが、彼を睨みつける鉄の人獣が、逃走を許さない。


「おい、ドルカス……結界でも展開するつもりかァ? 無駄だぞ、結界はおれにも構築できるし、解除だってできる」


「テメェ……なぜ俺様の名を……いや、なぜ力の使い方がわかる!!」


「ダグルムの意思が消えても、その力は残っておれと融合している。それならば、当然、ヤツの記憶、知識もおれのモノとなるッ!! 最近、ずっと不快だった。おれの憎む復讐対象達が、どんな存在が、それを、おれの中の記憶から調べ続けた。脳が、心臓が、破裂しちまいそうなぐらい……! 怒りでおかしくなりそうだったぁ……」


「……ッ!? 馬鹿な、だとすれば、お前は、俺様達の……」


「ああ、知ってるとも。望濫法典の幹部は、ダグルムが人間へと転生した存在! 人の世界をダグルムの世界に作り変えるために生み出された、ダグルムの奴隷だ!! おれの中のアイツの記憶は、人間と化したお前たちを見下してたよ。ダグルムのための奉仕種族だとなァ!!」


「おい、サイシューそれはマジなのかよ!! じゃあ、こいつらは……元から人の皮をかぶったダグルム……悪霊だってのかよ……けど納得だぜ……人間の癖に人を滅ぼすために動くのは意味不明だったけど、元から人間側の考えじゃないってんならな!」


「チッ……鉄砲玉、サイシューだったか。どうやらテメェはここで確実に殺さねぇといけねぇようだな。俺様達の秘密を知ったからには、生かしちゃおけねぇ!!」


 ドルカスが雄叫びを上げる。その咆哮と共にドルカスは土と炎の魔力に包まれる。ドルカスの総身は炎と土に変換され、次第に混ざり合う。窯で焼かれて粘土から陶器へと移り変わるような、その中間──焼けゆく粘土は形を創る。


 胸に大穴の空いた、筋骨隆々の鬼の形。ドルカスの到達者としての姿。


「なんだ? オーガ? それと兎……?」


 鬼と兎が混ざったような奇妙な形のドルカスに、聖女ロイスは困惑する。マッチョな鬼兎というミスマッチな見た目にどう反応したらいいのか分からない。


「──ッシ!!」


 ドルカスには最早慢心はない。すでに相手を殺すと決めた瞬間から、これ以上の対話は必要ないと、敵を殺すためだけに行動する。


 兎のように素早い、鬼の右ストレートがサイシューへと伸びる。


「──ッグ!?」


 ──バキィイイイイイン!!


 金属が割れるかのような音が響く。


 カランカラン。


 次に何かが地に落ちる音が響く。


 ドルカスに割られたサイシューの金属の皮膚が剥がれ落ち、地を響かせたのだ。


「──中身まで金属か、人間じゃねぇなァ!!」


 ドルカスの言う通り、サイシューの割られた皮膚のその奥にあるのも、また金属だった。金属でできた内皮と筋肉、血管。


 ドルカスは侮蔑の言葉と共に、サイシューへと追撃する。


「──あァ? 馬鹿かお前?」


 ──ズシュウウウウウウ!!


 サイシューへ追撃したはずのドルカスだったが、気づけば地に倒れ伏したモノは自分だった。


 サイシューの金属化は血液にまで及んでいた。液体金属と化したサイシューの血液は、鋭い刃を伴う触手となって、ドルカスの追撃にカウンターを決めた。


 無数の液体金属の触手に刺し貫かれたドルカスは痛みに叫ぶ。


「──敵が化け物だってんなら、どうして人間を殺す技しか使わねぇ? バケモンを殺すための技を持ってこいよ!! ゴミ野郎がッ!!」


 倒れたドルカスへのサイシューの追撃、サイシューは金属の上皮をすべてパージ、脱ぎ捨てた。露わとなった金属の肉の隙間から、夥しい数の液体金属の触手を生やして、数え切れないほどの刺突、斬撃を繰り出した。


 元々大穴の空いていたドルカスの到達者体だったが、今ではその大穴を目立たない。サイシューによって刺し貫かれ過ぎて、穴だらけだからだ。


「い、今のは……ノーカンだ」


「は……?」


 突然意味不明な戯言を言い出すドルカス。


「ノーカンだ!! 俺は、俺様は! ルールに則って、戦えば勝てるんだ!! だから知らない……! 知らない! 軍人の、殺し合いの世界で負けても、俺様は弱くないんだ!」


 正気を失ったように見えるドルカス。けれど、次の瞬間、それは彼の言葉通りとなった。


「──【ノーカウント】」


 その言葉と共に、ドルカスとサイシューの戦いはノーカウント、なかったことになった。サイシューもドルカスも無傷で、彼らの戦いによって壊れたアジトの床や壁、備品も全て元通りとなった。


「はぁ……? ど、どういうことだよ……」


 ロイスもドルカスも、それ以外の死克の人間も、この異常現象に戸惑いを隠せなかった。


「全部ノーカンだ。俺様の認める、勝利の結果以外は、全部なかったことにする」


「はッ、だからか、だから兎なのか。臆病者の力」


「黙れ!! 俺様は臆病者なんかじゃなぁいッ!! 俺様が勝つべきだ! 俺様が崇められるべきなんだ! それ以外は全部ウソなんだよ!! クソガアアアアアアアア!!」



 ──シュン。


 臆病者、サイシューのその言葉で発狂したドルカス。しかし彼の表情は唐突に冷静なモノへの変わる。ノーカウントの力によって、自身の愚かな激情すらなかったことにした。


 敵対者に囲まれ圧倒的な不利を背負うドルカス、しかしそのドルカスも、自身に不都合な戦闘結果をなかったことにできる。この戦いが長引くことは目に見えていた。





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