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76:ミスマッチ・マッチョ


「モラルスさん! 流石にやべぇぜ……四豪商の奴ら、ドジりやがって……鉄砲玉に使ったヤツが生きたまま捕らえられたって……クソ! なんだってこんなことに……」


 数を減らした望濫法典の幹部達は、この日いつもとは違う場所で会議を行っていた。シャヒルがベイカルと望濫法典の繋がりを示し、各地の有力者、宗教組織を味方にして望濫法典に対する包囲網を構築した。そのせいでモラルス、ドルカスは普段拠点にしているアザルマイアから離れることを余儀なくされた。


「こんな時のために気の合う亜人族達と交流していた甲斐があったよ。小汚いけれど、ま、問題はない」


 モラルス達は人間達が住まない亜人族達が縄張りとする領域、【ストーン・フォレスト】にいた。かつて巨樹ばかりが生い茂る大森林のあったこの場所は、ある時、古代の大戦争の結果、巨樹の森は一夜にしてその全てが石化した。


 石化した巨樹の森、石化したのは巨樹だけでなくそこに住んでいた者たちも同じだった。かつて人間やエルフだった彼らは、石化して数百年後に目覚め、気づけば人間やエルフとは異なる石の人、ゴーレムマンとなっていた。呪われた森に現れたこの異形の人々は、人間からも、エルフからも排斥され互いを憎み合うようになった。


「薄汚いだと? この美しさが分からんとはな……まぁよい。人と我等ゴーレムマンでは美的感覚も異なることだしな」


 この森で望濫法典の会議に参加していたのは人間だけではなかった。それは青黒い石の肌を持つ砂鉄の髭を伸ばした男、ゴーレムマンの有力者の一人「トガリア」だった。


「しかし、我等の秘術を用いた薬、名は確か……ダグルシスだったか。あれを使えば神を殺せるという話ではなかったのか? しかし、アレを使った者が聖女に敗北したとは、どういうことだ?」


 トガリアが砂鉄の髭を掴み、掌で握り込むと、砂鉄は掌の中でサラサラと溶ける。そうして今度はトガリアは溶けた砂鉄を自身の顎に近づけてまた砂鉄の顎髭を再構築する。


 トガリアはそんなことを繰り返してモラルスの返答を待つ。トガリア達ゴーレムマンが望濫法典に提供した技術、それが敵対者に有効でなかったとなると、ゴーレムマンにとっても問題であった。


「君たちの霊魂を別の存在に定着させる秘術は間違いなく機能している。ダグルムが神の力を無効化するのも確認されている……だが、どうやら神そのものでなく、神の代行者である死克の聖女、ディヴァイン・ジャッジメントにはあまり有効ではなかったみたいだ」


「待て、どういうことだ? 神の力を無効化できるのに、神の力を扱う者に対抗できぬのか? それは変な話じゃないか?」


「これは推測に過ぎないけど……おそらく死克の聖女に力を与えている神は、この世界とは異なる上位次元に存在したまま、力だけを聖女に送り込んでいるんだ。だから聖女の中の神の力を無効化、消したとしても、供給元である神が存在する限り、聖女にはまた神の力が供給され続ける。鉄砲玉に使った下級のダグルムでは、やはり無限の力には対抗できない……」


「無限の力か……しかし、その聖女に取り憑いた神は弱体化しておるのだろう? 死にかけと聞いたが、それでも無限の力を持つのか?」


 腑に落ちない話ばかりでトガリスは苛ついた。ついに砂鉄の髭を地に投げ捨てた。


「ああ、そうだね。じゃあ、軽く説明しようか。神の力は無限だ、神が死なない限り、その力は際限なく溢れる。だけど、神の力にも出力限界があるのさ。その神が存在する限り、永遠に息切れすることなく、力を使い続けることができるけど……一度に出せる力の大きさには限界がある。それは神によって違うけど、力が弱ければ規模は小さくなる。まぁ、言ってしまえば疲労を知らない無限の体力を持っているような感じだ」


「なるほど……つまり、聖女の力も無限ではあるが、神が弱っているために一度に出せる力も規模も小さい……だが、どうするのだモラルス。どうやってその聖女に対抗する……聖女は死なず、神は異なる世界で手を出せないとなれば……」


「ま、ダグルムの力が聖女に効かなかったとしても、問題はないよ。元から計画していたアレは、きっと聖女も神も殺せるだろうから。それよりも問題は、守護連合が中心となって各組織が僕らに圧力をかけてきていることだ。ベイカルが人間の経済圏から孤立するだけでは済まなかった……どうやら、人間の精神を消滅させて、ダグルムに乗っ取らせるというのが、彼らの怒りと恐怖を買ってしまったみたいだ。今まで金目的で協力していた悪党ですら、僕たちと組もうとしない」


「……言いたくはないが、望濫法典は詰んでいるのではないか? 人間の世界を壊すことを諦め、このストーン・フォレストで静かに暮らすのも悪くない選択肢だと思うぞ? 我々はお前たちを歓迎する。お前たちは我々を差別しなかったしな」


 トガリスは真剣な顔つきでモラルスとドルカスに、野望の途中下車を提案する。ドルカスはその言葉に、少し顔を明るくさせた、それも悪くないと考えているのが見えた。


 けれど、モラルスの表情はまるで変わらない。


「やれるとこまでやって、駄目だったらお世話になろうかな。まだまだ、諦めるには早いんだ。僕は諦めるわけにはいかない……力がないと彼女を捕まえられないし、あいつが、シャヒルが彼女を狙っているというのなら、殺さなきゃいけない。まぁ、結局、一番のネックは、彼女が強すぎることだ……彼女がシャヒルを守ろうとしたら、このままでは、僕は彼女に勝てない……勝つためには策を練らないと」


「極めて個人的な感情から世界を壊そうとするのだな。まぁ、それも人か! なぜ、女を手に入れるために世界を壊す必要があるのか、意味不明だが……まぁ、お前がそういうのなら必要なことなんだろう」


「……モラルスさん……本当に、モラルスさんでもアルーインさんに勝てないのか? あんたも、俺も到達者だ。変身すればステータスならアルーインさんよりも上なはず、それがどうして勝てないんだ」


 今のままでは勝てないと知りつつも、途中下車を許さないモラルスに、ドルカスは納得がいかず、声を荒らげる。


「僕も、君も変身した所でステータスが高いだけだ。技を使ったつもりでも、技に使われているだけなのさ、僕たちは。結局、前衛職のカンスト者はステータスだけでなく、技を使う技量、バトルセンスそのものが優れているんだ。そして、アルーインはそのカンスト者の中でも対人戦最強と言われたアダムを倒した。剣を持ったチンピラと、ナイフを持った軍人、勝つのはどっちだと思う? 僕らのステータス有利なんて、そんな程度のことだ。どうだい、君はそれでも言えるかい? 確実に勝てるって」


「……っ……あんた、クソッ……俺が負け犬だって言いてぇのかよ! 俺は、新代格闘技のチャンピオンになれるはずだったんだ! ……それが……クソぉッ!!」


 ドルカスが石化した巨樹を思いっきり殴りつける。巨樹は少しだけ揺れて、ドルカスの力がそれなりにあることを示した。それなりでしかない、己の肉体で戦うことを諦めて、魔法に憧れたドルカスがこの世界で振るえる肉体の力は、少し喧嘩の強い男程度。


 かつて現実世界で、新代スポーツ格闘技で、フィジカルによる世界最強を目指していたドルカスの本当の理想と、今のドルカスはかけ離れた場所にいた。現実逃避で魔法に憧れ、ロブレの世界で魔法をひたすら鍛えていたのに、現実とゲームの世界は融合してしまった。


 もしも、ドルカスがロブレの世界でも肉体による最強を目指していたなら、きっと融合事変後のドルカスは、理想の自分であったはず、ドルカスはこの不都合な現実にずっと苛つき、絶望していた。


「俺様はチンピラじゃねぇ!! 証明してやるよ!! モラルスさん、あんたの願いを叶えてきてやるよ! シャヒルをブッ殺す! アルーインさんが邪魔してこようと関係ねぇ……! いいよなァ!?」


「うん、いいよ」


 モラルスの態度は素っ気無く、ドルカスにまるで期待していないのは明らかだった。そうしてドルカスはまた怒りを増長させる。


 望濫法典は、すでに組織として終わっていた。





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