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74:底に巣食う者



「よし! これで全員の蘇生と治療が完了したな」


「シャヒル、聖女を囮にするような真似をしてよかったのか?」


 サイシューと死克の聖女が泥沼の戦いを繰り広げている間に、俺とディアンナは戦域から離脱し、そのまま魔法の手紙によって守護連合の仲間たちを呼び寄せた。サイシューのダークゾーンの影響で死亡した住人達の蘇生や怪我人の治療を守護連合の仲間に任せ、それはなんの滞りなく無事に達成された。


「正直気が引けるけど、彼女も望んでいることだと思ったからな。蘇生は死後一時間以内でなければできない。正直、サイシューに取り憑いたダグルムがプライドの高いヤツで助かった。あいつが当初の目的通り、俺を殺すことに集中していたら……俺達は死んでいたし、巻き込まれた住民達の蘇生もできなかった……」


「まぁ、それもそうか。聖女もこの街の者のために動いているわけじゃし……あの聖女も戦闘能力は低いが挑発して注意をひくのは上手かったな。もしかすると、そういう特殊スキルでも持っておるのかもしれんな」


「よし! それじゃみんな! 何も敵に対して正々堂々一対一をしてやる義理はない。俺達全員でダグルムを潰すぞ!」


 守護連合のメンバー達に声をかけ、俺達はサイシューの情報を共有、一緒に対策を練り、聖女とサイシューのいる戦闘エリアへと向かった。



◆◆◆



「っぐ……なんだ、これは……どういうことだ。なぜだ……我がこのような雑魚の劣等種に……」


「ぜぇ……はぁ……クク、ふふふふ……なんでってそりゃお前……ボクの剣の炎を受けてるだろ?」


「え? どういうこと……? 聖女が、ダグルムを追い詰めてる……?」


 聖女達のいる戦いの場に戻ってみれば、そこには俺の想像とはまるで違った光景が広がっていた。サイシューの体は黒い鉄のようなものに変質しており、その動きを鈍くさせていた。


「ヒーローが言ってたろ? 直接攻撃なら効くってさ……ボクのウルガノンの溶炎は……受けた者を鉄へと変える。善なる者も、悪しき者も、神も悪魔も精霊も! 無垢なる鉄へと還るのみ! お前の力の根源すらも、ただの鉄へとなるッ!」


「な……に……? まず、意識が──」


「悪霊は鉄に還ったか……なら、約束を果たすぞ、サイシュー……裏切りには、死の裁きを──」


 サイシューは立ち尽くしたまま、意識を失っていた。そこにはダグルムの影は見えず、少しばかりの人の温もりが感じられた。


 聖女の顔は暗い、本心で言えばきっと、仲間だった者を殺したくはないからだろう……しかし、彼女はそれでも止まらない。刃と一体となった腕を振り上げ、サイシューの首へと振り下ろした。


 ──ガガーン!!


「──おい……どういうつもりだ。ヒーロー! これは、ボク達の問題だ!」


「ご、ごめん……」


 俺は気づけば、サイシューを守るために聖女の刃を斬撃エネルギー塊の起爆で弾いていた。


「謝るぐらいだったら!! ケジメを──」


「ダグルムは、悪霊は消えた。この人はもう、ただのサイシューなんだ。俺はこの人のこと全然知らないけど、ちょっと話しただけでわかったよ。悪い人じゃない、いい人だって。じゃあ、君にとっては? 泣くぐらい、大事な仲間だったんだろう?」


「──ッ……」


 死克の聖女、ロイスは泣いていた。無理をしているのが丸わかりだった。やりたくもないことを、誰かのために……それが当然になってしまっているんだろう。


「俺はこの人に死んでほしくない……まだ、やり直せるかもしれない」


「……馬鹿なの? 裏切りを許したら、死克の結束は弱くなる! 中央も、望濫法典も倒せなくなる! だから!」


「彼の妹は……トーシュは死んだ」


「え……?」


「意識を取り戻したジェイスさんが教えてくれた。あの人は、サイシューの裏切りと、トーシュの居場所を調べて、あなたに報告するところだったんだ。だから俺はトーシュを助けに行ったんだ。ブルーマイト家の所有する薬品保管庫に彼女はいた。意識を完全にダグルムに乗っ取られ、元の人格が完全に消滅した状態で……」


「待って……ボクは……サイシューに、妹を助けるって……」


「蘇生魔法は意味をなさなかった。人格が消滅してからかなり時間が経っていたからじゃないかと思う……妹さんはレベルも低くて、きっと……すぐに、心が死んでしまったんだ。サイシューは騙されていた。最初からヤツらは約束を守るつもりなんてなかった。心が死んでいたとしても、肉体が生きている姿をサイシューに見せることはできたから……妹さんを実験体にして、殺したんだ」


「そんな……それじゃ、サイシューは……生きていたって、妹を失ったこいつはどうなる……! 生きる意味を失ったこいつは、殺してやったほうが……」


「そうだね……だけど、俺が同じ立場ならどうか、考えてみたんだ。俺は……俺なら、真実を知りたいと思った。不都合で、最悪な現実でも……大事な仲間を裏切ってまで守ろうとした、大切な妹であったなら……知りたい、いや……知るべきだと思う。こんなの、俺が思うってだけだし、サイシューがそう思うかは分からないけど」


「……駄目だ……知ればサイシューはボクみたいに、修羅になってしまう。本当に、心まで人でなくなってしまう……っは……そうか、結構酷いんだね。ヒーローは……生きる理由ならあるって、サイシューに妹の死を教えるのか! 何がやり直せるだ! そんなの人の心をぶっ壊すだけだ!」


 そうだ……その通りだ。俺は……酷い奴なのかもしれない。真実を知ればサイシューは傷つき、きっとまともではなくなると分かっていても。そうすべきだと思ってしまう。


「サイシューが真実を知れば、それが裏切りに対する裁きとして足りる」


「は……? お前!!」


 聖女が腕の剣化を解いて俺に掴みかかってくる。そこには俺に対する強い怒りと、軽蔑の感情が見てとれた。


「サイシューは、トーシュの兄貴だ!! こいつは妹を守れず! 妹に恥じる行いまでして!! 守れなかった!! 苦しんで当然だ!! 大事であるなら!! 大事な妹の、トーシュの兄貴であるなら! サイシューは妹の死を知って、受け入れなければならないんだ!! このまま、サイシューを殺してしまったら!! こいつの魂は……腐って、二度と立ち直れない……」


「……なんでだよ。なんでそんな熱くなってんだ。お前はサイシューのこと何も知らないだろ!!」


「俺にも妹がいた。でも、俺は妹を守れなかった。自分の知らないうちに、知らないところで、現実は勝手に進んでいって。何もできなかった……だけど、サイシューにはできることがある。妹の無念を晴らすために、戦うこと。その先に幸福の未来がないとしても……俺はそうしたかった。おかしいと思うかも知れない、でも……思ってしまうんだ。心があるから、生きているから」


「……はぁ。真面目で優しい最高のヒーローかと思ってた。でもちゃんとおかしかった。でも納得した……君にも激情があったんだ。人を守りたいと思うきっかけ。そうだよなぁ……そうじゃなきゃ、そんな必死になれないよなぁ……考えてみれば、ボクも君も、死克も同じだ。ボクだって復讐のために戦ってたのに、他人の復讐は許さないなんて、傲慢だったのかも……分かった。サイシューの蘇生を試してみよう。それで蘇るなら、妹の死を知ることがサイシューへの裁きだ」





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