73:ゾンビアタック
「あんた……お前、サイシューなのか? バケモンみたいになっちまって……」
死克の聖女は胴体をフードの男の貫手によって貫かれたはずなのに、平然としていて……当然のようにフードの男に話しかけた。
サイシュー? どっかで聞いた名前……あ! 確か、ベイカル外縁部の住民達を中央の私兵が虐殺しようと件の発端……レッドマイト家の倉庫を爆破した死克の幹部だ……
「だ、大丈夫なんですか? その、怪我……え?」
聖女の怪我の状態を確認して、俺は自身の目を疑った。傷が完治している……魔法の詠唱もなかったはず……特殊スキルか?
「心配どうも。でも大丈夫、ボクは【ディヴァイン・ジャッジメント】だから。ボクの神が滅ばない限り、不死身なんだよ。痛みはそのままだけど、痛いだけだ。便利だろう?」
べ、便利って……この人、大丈夫なのか? 痛みに慣れてるとでも? どちらにせよ、覚悟が極まってる人だ……そうか、でも……ジェイスさんが言っていた聖女が死ぬのはありえないっていうのはそういうことだったのか……
けど、神が滅ばない限りの不死身って……ダグルムは神を殺せるっぽいし、マズイんじゃないのか?
「不愉快なニオイだな。神のニオイ、弱った神のニオイだ。ッチ……それでも滅ぼせぬのが気に入らん!」
神のニオイ? フードの男、サイシューさんを乗っ取ったダグルムの言葉が真実なら、ダグルムは聖女の神を殺せない? なんでだ? けどそれって、聖女も殺せないってことだよな?
「聖女さん、気をつけて! サイシューさんは悪い精神体に、ダールムに乗っ取られて正気を失っています! 望濫法典に妹さんを人質にとられたみたいで……それで……」
「なるほど……それでサイシューはボクの言いつけを守らず勝手な真似を……中央も望濫法典も許しはしない……おい、サイシュー! 聞こえるか! ロイスだ! お前、裏切ったってことは、覚悟、できてんだろうな?」
「っぐ!? あ、やめろ! 貴様、体を……これはすでにわ──ッ!? ああああぁ! っふ、ふぅ、はぁ……っく……ろ、ロイスの姉御……お、おれ……」
えっ? サイシューさんが正気に戻った? 肉体の支配権を取り返したのか?
「すんません……! おれは……死克を裏切ったクズだ……おれを殺してくれ……だけど、どうか、トーシュを、妹を……ろい、スのあ──」
鬼気迫る表情で、サイシューは裁きと救済を聖女に望んだ。言葉が途切れたその瞬間、サイシューの目つきが変わる。人の温かみが感じられない、冷たい悪魔のような目に変わった。
最後の力を振り絞って……サイシューさんは……
「当たり前だ。最初からそのつもりだ……! ボクは最初から裏切ったお前を殺すつもりだし、お前の妹は絶対に助けるつもりだった! ボクがお前を裁く! お前に取り付いた悪霊も、ボクがぶっ殺してやる!!」
「聖女さん……くっ、気をつけて! あいつはメチャクチャ強い! 俺では相手にならなかった、それに……ヤツは、ダールムは神の力を無効化してきます。遠距離攻撃は効きません」
「ヒーローさんがそういうなら、相当だね……ボクじゃまるで歯が立たないだろう」
「え……?」
「自分で言うのもなんだけど、別に、ボクはそんな特別強いわけじゃないから。どうしても、泥臭い戦い方になってしまう……ボクは! 勝つまでやめない! だから、負けない……! 悪いな悪霊、ボクの勝率は100%だ!!」
あ、あああ……そんな……この人、不死身だからって、ゾンビアタックみたいに……勝つまで戦い続けるつもりなのか……でもそれって……
「ふん……所詮は人間、体が不死となっても、心は脆弱なまま。心を殺せばこちらの勝ちだ!」
サイシューダグルムも脳筋だ……聖女を痛めつけて、その精神を壊すつもりだ。
「──【剣変性・ブレイドアーム】!!」
聖女が右腕を掲げる。右腕にある大きな十字と傷が光り輝き、魔力の光が彼女の腕を駆け巡るのが見える。いくつもの光の線が、やがて隙間なく腕を満たしていって、完全に光で満たされた時、彼女の腕はマグマのような、高温で熱された鉄のように変質した。
赤い鉄は、人の腕から形を変えて、黒と赤の鋭利な剣となった。炎と土の魔力を溢れさせたその刃は、鉄の鏡面に何者かの影が映る。
「ま、まさか……これが、聖女の神なのか……?」
刃に写り込んでいたのは人の形をした、燃えるマグマのような人外。性別があるとも思えない、見た目で、目つきは鋭く、怖い印象だ。
「……見えるのか? ボクの神が、【炎溶神・ウルガノン】が……」
『ほう、確かに……この小僧は吾輩を見ておるな。目が合った……はははは! これはいい、中々に見どころのある人の子よ。聞け、小僧。吾輩……ウルガノンは最早死にかけ、別の神に変わりつつある。それ故、この旧き姿を知るのはお前だけとなる。ロイスは吾輩の声しか聞けぬからな。だからなんというかな……うれし──』
──ドガシャアアアアアア!!
ウルガノンが話している途中、それを遮るようにしてサイシューがその剛腕で聖女をなぎ倒した。聖女は頑丈な剣の腕のみを残してバラバラに砕け散る。
でも──それも瞬きの間だけ、聖女は一瞬で肉体を再生させる。何もない空間から、突然肉体が出現するかのようで、異常な光景だった。なんのタイムラグもない……蘇生魔法とかは光が集まって人の形になったりだとか、そういうプロセスがあるから、少しばかりの納得感があるんだけど……
この聖女の瞬時復活は、まるで死にゲーの高速リスタートみたいだ……
「おいおい、そんな攻撃じゃ、ボクは痛みも感じないよ?」
それって……相手の攻撃が強すぎて痛みを感じる間もなく死んでるってことですよね?
『いやー、だからな。吾輩はうれしかった。ちゃんとこの姿を目に焼き付けてくれよ? そうしたら、吾輩の新たな姿も、似たような感じになるかもしれぬ。吾輩は、結構この見た目を気に入っておるのだ。こう、悪そうで強そうな感じがいいだろう? そう思わないか?』
……ウルガノン……まだ俺に話しかけてたの……? マイペース過ぎるだろ……
「っく……面倒な。ならば、望み通り痛みを与えてやろう!」
おい! 聖女が無駄な挑発したせいで、敵も痛みを与える目的の攻撃に切り替えちゃいそうだぞ? 何やってんだ……
サイシューが今度は両手で聖女の肩と腰を掴み、圧力をかけてゆっくりと、ねじり切って殺す。
「ッあ、アアアアア!? イッテェなァ!? ブッ殺すぞテメェ!?」
やはり、滅茶苦茶痛いらしい……というか、グロ過ぎる……見ていられない、複数の意味で……
それからも、聖女は殺され続けた。様々な方法で、激痛に怒声を上げながら。反撃する余裕は一切存在せず、サイシューに対し一太刀を浴びせることも叶わない。
俺は二人が膠着状態であり、互いに、互い以外への関心を喪失していることを確認すると。ひっそりとディアンナに怪我を治してもらい、戦闘エリアから離脱した。
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