72:相反する力
「ディアンナ、いくぞ!」
俺は結界の境界線にまで走り抜け、そのままディアンナをポーチの中から出す。
「──【八咫之羽跡】!!」
俺の精霊、ガルオーンがこの世界に生まれたことで使えるようになった俺のスキル。八咫之羽跡が発動する。
ディアンナの頭上が虹色に輝く、それは空間の境界で、まるでシャボン玉の膜のようだった。
そして、その膜から黄金の光がディアンナへと降り注いだ。風と共に、ディアンナの内部へと浸透していくのがわかる。風は優しくディアンナの髪を揺らし、その揺れが収まる頃、ディアンナの身体には大きな変化が起きていた。
「ち、力が漲る……な、なんなのだこれは……え、あッ!? この人面竜巻がさっきからシャヒルが話しておった精霊か? あ……我は、精霊が見えるのか? ならば、魂さえも……やれる! これならば! はあああああああああ!」
ディアンナは精霊が見えるようになっていた。それだけでなく、大きさも5、6才の人間の子供程度になっていた。
本人は精霊が見えるようになったことが嬉しかったのか、大きくなったことにはまだ気づいていないみたいだ。
ディアンナが手を結界の境界へとかざし、その掌から黄金の光が放たれる。
光は結界の表面から皮を食い破るようにその内部へ侵入し、植物の枝葉のように細かく分かれ、伸びていった。それは結界に黄金の光で大樹を描くかのような、美しく、神秘的な光景だった。
そうしておそらく結界の全てに枝葉が伸び切ったであろう頃、結界は空間から滑り落ちるかのようにあっさりと剥がれた。
暗かった空間に、太陽の明るい日差しが差し込んだ。
「やった! やったぞシャヒル! やはり、神の力、上位次元の力であればダグルムの力を打ち消せる! ん? あれ? シャヒル、お前縮んだのか? なんだかいつもより小さいような……」
「いや俺が縮んだんじゃなくてさ、ディアンナ、お前が大きくなったんだよ。どうやら神の力を受け取ると大きくなるっぽいな、どういう原理かさっぱりだけど」
「──見つけたぞ! 劣等種!!」
結界を破壊して喜んでいたのも束の間、結界を破壊したことでフードの男はこちらの居場所を特定したらしい。
やはり速い……もともと俺よりも少し遅い程度だったんだ。だったらすぐにここまで来てしまうよな……
それにしても劣等種呼ばわりか……これはきっと、ダグルムの意識かなんかなんだろうな。フードの男の意識はダグルムに乗っ取られているんだ。
「はぁああ!!」
ディアンナが男に向かって黄金の光を放つ。男は一瞬、その光に驚いた様子を見せたが、光が男に到達するその瞬間、男はディアンナの放った光を手刀で弾き、消した。
「なっ……そんな……」
「ふん、忌々しい神の力か……無駄だ、その力は我等に抗う権利に過ぎん。力の足りぬ者が使っても、無駄な足掻きよ──」
今度は男が黒と紫のオーラをディアンナに向かって飛ばす、ディアンナは回避が間に合わず、腕を交差させて防御した。
──バシュン!
男の放ったオーラはディアンナに当たる瞬間に跡形もなく消えた。
……なるほど、結界を壊せたことを考えると、あいつの術や技は無効化できるのか……直接攻撃でないなら、お互いに技を無効化できる。
「ディアンナ! 早く俺の所に! 俺達じゃこいつには勝てない! 逃げるぞ!!」
俺は急いでディアンナを呼び寄せ、そのままディアンナを抱き寄せると走り出した。直接攻撃でなら互いにダメージを与えられる可能性……俺がそう思ったのは、ダグルムと神の力が相反する特性のように見えたからだ。
相反する力が互いを打ち消し合うとして、どうすればダメージを相手に与えられるか?
俺が思いついたのは相手の内部に力を送り込み、その内部を相殺することで消す、そんな手段だ。仮にダグルムがその力のエネルギーで構成される精神生命体のようなものだとしたら、力を生み出す機構すら同一の力で生み出されているはず……つまり、内部から破壊できればダグルムの力を生み出す仕組みそのものを壊せるかもしれない。
まぁ、俺のこの推測が正しいとすれば、それはディアンナにも同じことが言える。ディアンナも内部から破壊されたらマズイはず……
そして、フードの男のスペックはどう見てもディアンナより肉弾戦、近接戦闘向きだ。ディアンナが神界の力を得ても俺達とフードの男の力関係は変わらない。でも、結界は壊せた……だから俺達は逃げる選択肢を取れる。問題は……ヤツの脚が速いせいで、逃げ切るのにかなり時間が掛かりそうな──
「──重力の力かっ!?」
──バシュン!
「ふっ、無駄無駄! もうその力は我が無効化できるぞ!」
ディアンナがフードの男の重力の力を無効化してくれた! よかった、これならなんとか逃げられそうか?
「──っく、生意気な。死ね、死ね死ね死ねェ!!」
「──あっ」
想定外だった……フードの男の意識を乗っ取るダグルムの言動があまりにシンプルなものだったから、俺は勝手にこいつが頭脳戦を仕掛けるような、繊細なタイプではないと、勝手に思い込んでしまっていた。
でも、そうじゃなかった……
俺はディアンナが相手の力を無効化する様を見て、希望を見て、一瞬の油断を、してしまった。
男は重力の力を俺やディアンナにではなく、周囲の建築物に使用し、崩れた建物の壁は、俺とディアンナを押しつぶした。
「っぐ!? あ……く、そ……」
「しゃ、シャヒル!!」
なんとか、なんとかディアンナだけは守れた……俺はディアンナに覆いかぶさるようにして、ディアンナを瓦礫から守った。あ、脚が……完全に潰れた……
「っく、回復魔法を──」
ディアンナが回復魔法を俺に使おうとする。だけど、そんなこと、相手も許すはずがない。瓦礫を被って暗かった視界が明るくなり、背が軽くなる。
フードの男が瓦礫を押しのけたんだ。俺が振り向いたその時には、男の貫手が俺の背中に突き刺さろうとしていた。
──ドバシャアアアアアアアアアア!!
大量の血が、ド派手に飛び散った。俺の視界は赤一色だ。し、死んだか……俺……痛みも衝撃もなにもない……即死して何も感じ取れなかった? あれ? でも、それでも思考ってできるのか?
「──いってェ……はぁ、よかったぜ。間に合って……守護連合のヒーローさん、あんたは生きてなきゃ駄目だ。きっと死に場所はここじゃない……だって、ボクが来たから」
「え……?」
「死克の聖女、カーマイン・ロードイシュラス、ここに見参!」
俺の視界の赤は、血だけじゃなかった。赤い髪、赤い髪もあった。俺は、死克の聖女に男からの攻撃を庇われていた。俺に痛みがなかったのは、代わりに、この人が受けたからだ!
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