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71:風の心



 綺麗事を言って、何もできていない。ただ願うだけ……フードの男に攫われたジェイスさんを置き去りにした癖に……


 俺は……弱い……単に戦闘能力の話だけじゃない。こうして結界の中に閉じ込められて、仲間達の救援を期待できない状態になって、始めて理解した。


 強い仲間が、エリアちゃんやダクマがいるから……そんな安心感があったから、俺は戦えたのかも知れない。苦しい状況でも、まだなんとかなると思えたのかもしれない。


 いざとなれば、仲間を頼れる、仮に自分が敗北しても、仲間たちが勝ってくれる。そんな風に、無意識に思っていたのかもしれない。


 俺一人の力では……クソッ、弱気になるなよ。できることもできなくなる!


 嫌な考えを振り払いたいという気持ち、いち早くこの最悪な状態をどうにかしなければと焦る気持ち、急がなければと思うほどに、俺の脚は速度を落とした。いつもより、ずっと遅い。


「──あっ」


 走り方がおかしくなっていた。それに気づいた瞬間、俺は足を絡ませてしまい、転んだ。その衝撃でポーチが開いてディアンナが放り出されてしまった。


「ごめん……」


「謝るなシャヒル……謝るのは我の方だ……すまんな……役に立てなくて……」


「はは、ディアンナが俺に謝るなんてな……出会った頃には想像もつかなかった」


「うるさい! 謝って損したわ! 全く……聞けシャヒル」


 ディアンナはそう言って俺の顔の前までやってきて、俺の目をじっと見た。


「我には解決策はわからん。大した力もない……お前もどうしたらいいのかわからず、不安になって転ぶほどに追い詰められている。絶望的で、もう死の道しか残されておらぬのかもしれぬ……だが、我はここにいる。お前と共に……孤独ではない。どうだ? 孤独ではないと思えるだけで、なんだか少し心が軽くならないか?」


「え……?」


「我は、ずっとフィトリガットの球の中に封印されておった。長い長い時の中、ずっと孤独だった。一応人造神ゆえに、時の流れへの耐性はあるものの、実は凄く寂しかったんだ。何より、つまらなかった。でも、お前が我をアレから出した。我は、我を封印から解き放った者がどんな者かとお前を見た。お前の顔を見て……正直に言うと、頼りないと思った。弱そうで、つまらん顔だった。だけどな……フィトリガットが決めた……封印を解いたものが我の主となる、そんなあいつが勝手に決めた決め事が……我がまるで納得していない決め事が、我を孤独ではなくしてくれた」


 ディアンナの小さな顔、その目から小さな涙が溢れていた。


「別に……あやつが勝手に決めたことに、なんの効力もない。我は、本当は約束を破ってもよかったんだ。でも、ずっと寂しかったし、つまらなかったから。ちょっとだけ、お前たちと一緒にいてやろうと思った。それだけだったのに……もう、普通になってしまった。お前たちが! 我と共にあり、くだらぬ話をして、くだらぬ遊びをして、暇を潰すこと。それは、我の中にあった孤独という絶望を簡単に消し去った。シャヒル! 我は、お前と共にある! お前が死ぬとしても! お前は寂しくない! 孤独じゃない!」


 気づけば俺も泣いていた。釣られて泣いた。俺の中にあった不安は、なぜかなくなっていた。状況は何も改善していない、だけど……俺の心は、前を向けた。俺は単純だ。


「寂しくないって、まさかお前、俺が死んだら石柱にでもするつもりか?」


「冗談を言ってる場合か! 別に我は本当にお前を石柱にしてやってもいいんだぞ?」


「別にそれも悪くないかもな。ありがとうディアンナ……もう怖くなくなった。冷静になれたかも」


 俺は再び結界の境界線へと走り出す。足取りはいつも通り、いや、いつもよりも速く走ることができた。


 一人ではない、孤独ではない、俺が怖いのは死ではない。何もできず、死ぬのが嫌だった。そんな自分が嫌だったから。でも、ディアンナはそれでもいいと俺に言ったように思えた。


 守護連合のリーダーとして、人々を守る存在として正しくあろうとした。今もそれは変わらないけど、俺には分不相応なことだったかもとは思う。


 俺は結局、俺でしかない。俺にできることしかできない。俺は自分自身のことを見ちゃいなかった。なりたい自分の、その先を見るだけで、今の自分を見なかった。自分の現状を見る、足元がお留守だったんだ。


 走るのは気持ちがいい。世界と風を感じられるから。走って風を切ると、まるで、自分が世界と一体となったかのように思えた。そう思うと、俺は最初から孤独ではなかったのかもしれない。


 俺と繋がる世界は、すぐ側にあったのだから。俺と俺の仲間たちとを繋げるモノ、世界は過酷ばかりを与えるものじゃない。世界が自分の敵だと感じることもあるけれど、味方だって思う時もある。


 そして、俺が走って風を感じる、その時の世界は──俺の味方なんだ。だって好きだし、風だって俺のことが好きだ。馬鹿みたいにそう思える。


『いい顔だ。世界を感じられたようじゃな』


「え……? な、ガルオン爺?」


 俺が「風だって俺のこと好きでしょ」と馬鹿みたいなことを思った瞬間、俺の真横にガルオン爺の顔によく似た竜巻の幽霊みたいな爺さんがいた。


『いや、ガルオンではない。まぁ、彼の一部は引き継いでおるがのう。ワシはガルオーン、風の精霊、お主の精霊じゃ』


「お、俺の精霊……? いや、っていうか、ガルオーンて、もろにガルオン爺と関係ありげじゃないか!」


『だから一部を引き継いでおると言ったであろう? ガルオンとお主の願いと、風を感じ、愛する心が精霊の世界とこの世界を繋ぎ、ワシを精霊として生み出したのじゃよ。爺の見た目じゃが、実際にはお主とガルオンがワシの親と言っても過言ではない』


 俺とガルオン爺から生まれたジジイの精霊……なんだか……嫌だな……


『ワシは風の精霊じゃが、ただの風の精霊ではない。お主が生み出した新しい風の精霊じゃ、現状、お主しかワシの力を使えぬ。二つの世界を知り、世界を感じ、風を愛する者は他におらぬからのう』


「新しい風ってどういうことなんだ? 一体何ができるんだ?」


『まぁ、あれじゃな。簡単に言うと、次元間の移動に関することじゃな。転移魔法は同じ次元を移動するだけ、横に移動しているだけのような感じじゃが、次元間移動と言うと、異なる世界、それも上位次元だったり、下位次元と、異なる階層の次元を縦にこう、移動するイメージじゃな。まぁ細かく言うと違うんじゃが、適当でええじゃろ』


 適当だ……こいつ……


「おい、シャヒル……何かと喋っておるようだが、そこに何かいるのか?」


「うん。なんか俺の精霊がこっちの世界に来た? 生み出された? らしい……俺にもよく分からないが。俺の味方みたいだ」


「なに? そうなのか? 唐突だな……」


 そりゃディアンナからすれば唐突に思えるよな。実際にはディアンナのおかげで、俺は世界を、風を感じられたわけだから。俺がこの風の精霊、ガルオーンと出会えたのはディアンナ様々なわけだけど……


「けど、次元間移動って……俺、もしかして元の世界の戻れたりするのか?」


『いや無理じゃな。まぁ、霊体だけ飛ばすとかは可能かもしれぬが、生きたまま、生身のままでは無理じゃろうな。まぁ、正直、イメージほど凄い力ではない。ワシができるのは、異なる世界の力の移動じゃ。例えば、神の世界、精霊の世界から力を引っ張ってきたりとか。これもワシの力の範囲でしか持ってこれんがの。早い話、お主が先程まで困っておった、ここらを侵食しておるダークゾーンにあっても、お主は力を使えるということじゃ。単なる魔法ではなく、精霊魔法や、神魔法をな』


「ま、マジかよ……この状況解決できるのかよ……ちょっと都合良すぎないか?」


『そりゃあ、お主がこの状況で願ってワシが生まれたんじゃもん。この状況をどうにかする力を持って生まれて来るに決まっておろう。逆を言えばこの状況で生まれたからこそ、それによりワシの能力が固定されてしまったとも言える。ま、一度きりの能力決定権を今使ったようなもんじゃな』


 そういうことか……どうやら俺は、人生の願いを一度だけ叶えますみたいな権利を使ったような感じらしい……一度きり……か。


 つまり、それって……多分、もうこの先、俺の願いによって精霊が生まれることはないってことなんだろうな。本当に一度きりなんだ。


「よし! じゃあガルオーン、お前の力を使えばあいつを倒せるんだな?」


『それは無理じゃな。だってワシ生まれたばかりでまだ弱いし、お主が人を傷つけるのが好きじゃないせいで攻撃能力も低いからのう。他の世界から力を借りても、お主自体が強い魔法を使えるわけでもないから……』


「えええええええええ!?」


『まぁまぁ、そう慌てるな。確かにワシと、シャヒルではどうにもできん。じゃが、ワシを通してディアンナに力を与えたらどうかな?』


「は? ま、まさか……ディアンナに、神界の力を与えて……人造神から、本当の神に近づける。それができるっていうのか!?」


『やってみる価値はあるんじゃないかのう!?』


 どうやらガルオーンにも確信はないらしい、こいつも探り探りなんだろうな。でも実際、ガルオーンの言う通りだ。やってみる価値はある!





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