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69:馬鹿コンボ



「意外と居場所は簡単にわかるもんなんだな……」


 守護連合がベイカルの調査を始めてから一週間経った。これはつまり大使としての役割を終えたメンバーが二人ということで、守護連合の調査効率はその分落ちている。


 けど、この一週間の間にベイカルの表向きの部分は大抵把握できた。裏の部分はと言うと、相手も中々尻尾を出してくれそうにない。


 俺は大使として活動する他のメンバーと違って宗教的なことや、騎士のことはよく分からないのでそっち方面の調査はメンバーに任せ、俺は聖女や死克のことを調査していた。


「ま、ロイスは強いですし。隠れ過ぎれば市民もロイスを頼れない。と言っても、死克に近い人々は強い信念を持っていますから。信用できる人間にしか情報は渡しませんよ」


 俺がベイカル外縁部にある死克の拠点、赤鉄の教会を眺めていると男の人に話しかけられた。この人は確か……死克の幹部的な人で……ジェイスさんだったかな?


「それって、俺が信用されてるってことですか? いや、期待されてるのか」


「まぁ、どっちもでしょう。彼らは命を賭けて人々を守ろうとしたあなたに、ロイスと同じものを感じたんだと思います。ま、死克の上の方は、また話は違ってきますがね」


「ま、それは当然ですね。仮に個人が信用できたとしても、組織までとはならないですし。でも、俺としても疑問ですね……ロイスさんが、死克の聖女がいくら強いと言っても、望濫法典の幹部と戦えば厳しいのでは? こんな簡単に居場所が特定できてしまっては……」


「危機管理がなっていないと? まぁ、そうですね。私も同意見です……ただ、ロイスが望濫法典の幹部と戦って死ぬ、というのはありえないでしょうね。彼女は【ディヴァイン・ジャッジメント】ですからね」


 【ディヴァイン・ジャンジメント】? 神の審判を下す者? とんでもない称号、いやもしかして職業か? 少なくともゲームであった頃のロブレでは見たことも聞いたこともない言葉だ。


「それ、どうしてか聞いてもいいことですか?」


「ははは、すみません無理です。お気遣いありがとうございます」


 多分詳細は話しちゃダメなことなんだろうなと思ったけど、やっぱりダメ案件だった。


「ですよねー。ま、折角ですし、道端でも話せそうなことを話しましょうかね。望濫法典がばら撒いている例のクスリですが、どうにも異常に中毒者が多いように見えます。危険性の周知と、規制を死克は頑張ってるみたいですが、それでも尚多い……それが俺は納得いかなくて……」


「ああ……それは……奴ら、飲料水や食い物にクスリを仕込みやがったんです。貧困層でも手が届くような値段で、品質のいい水や食料が売られた時があったんですが、それに仕込まれていたんです。結局その、豪商の手下となっていた商会はロイスが潰したんですがね……あれは最悪でした。もともとクスリを拒絶して、きっと自分から使うこともなかったであろう人たちが……騙されて中毒者にされてしまった。一度中毒者になってしまえば元に戻れるのは難しい」


「なるほど……そういうことでしたか。まぁ確かに、俺も望濫法典だったら同じことをするでしょうね。相手の勢力を弱体化させるだけでなく、仲間内での不和や、疑心暗鬼を誘発させられる」


「よかった。あなたはそういうのもわかる人なんですね。その実は私──」


「──ッ!?」


 ジェイドさんが何かを話そうと口を開いたその瞬間、いつの間にかジェイスさんの近くにいたフードの男がジェイスさんの鳩尾に拳を入れ、気絶させた。


 は? 速い……? クソ……俺も完全に油断していたとはいえ、俺が攻撃を防げないスピード……そのクラスの敵だっていうのか? 望濫法典の幹部か、それに近い実力者なのか?


 フードの男はジェイスさんを背負って、裏路地に走り去っていく。俺も急いで追いかける。ッ……速い……変身したケリスよりも速いだと? 人間の速さじゃない……単にカンスト者ってだけじゃたどり着けない領域だ。


 追っても追っても、ほんの少しずつしか距離が縮まらない。結構な距離を走って追いついたその先は、不自然な空き地だった。三方向が建物で囲まれた行き止まりの場所……


「……罠か……薄々分かってはいたけど……」


「は、はは……追って、来ちゃったんだ……罠だって分かってたのに……そんないい人なら、来てほしくなかった……いい人だから来ちゃったんだろうけど」


 フードの男が、フードを脱ぐ。緑色とオレンジに光る血管が、顔中に浮き出ていた。男は困り顔で、俺を見つめる。男の顔は、仕方なく俺を害する、そんな感じの表情で、乗り気には見えなかった。


「あんた、どうしても俺を殺すのか? あんたの問題は、俺には解決できないことなのか?」


「そんな……おれの心配してくれるのか、あんた……なんてこった……」


 そりゃ、あんた困ってそうな顔だったから。俺を殺したくなさそうだったから、悪いやつには見えなかったんだ。


「すまない……言い訳もできない……おれはカスだ……おれは……妹のためなら、トーシュのためなら悪党でいい。クソ、謝らないといけない人ばかりだ……おれは、おれは……」


 どうやら男は妹のために、この仕事をやることにしたらしい。


「妹が危ないのか? だったら俺はあんたの妹を助けるために動くぞ。だから、やめないか? こんなこと、あんただってやりたくないんだろ? まだ手遅れじゃない……」


「無理だ、無理なんだよおおお!! やめろ、おれを惑わせるな! トーシュの命は、やつらに握られてんだ! すまん! 死んでくれぇッ!! 結界発動!!」


 男が胸ポケットから宝石のはめ込まれた魔道具らしきものを取り出し、砕いた。すると、周囲直径数キロ範囲の地区が、紫色の結界で覆われた。


 俺はそれを見て魔法の手紙や、転移の使用が可能かどうかを試す。結果は無理、だよな……そういう目的の結界だよな。


 俺は、孤立した。少なくとも、この地区には守護連合のメンバーがいないはずだ……そして……メンバーは俺がここにいると分かっても、結界の内部に侵入できない。きっとそんな感じだろう。


「うわああああああああああ!!!」


 男が拳を振り上げ、力任せに俺を殴ろうと突進してくる。速いだけで、まるで素人な動きだ。だけど──ッ!?


 ──バグシャッ!!


 男の雑な拳は俺を捉えた。俺は拳を回避しようとした……でも、避けられなかった。


 何故ならば、男の拳に、俺が吸い寄せられたからだ。まるで、強い重力かなんかに引っ張られるみたいに……


「く、クソ……回避ができん……はは、そりゃ……そうか。俺を殺すために、対策するなら……回避させなきゃいい……」


「あ、ああああ! う……なんで、クソッ……こんな、もう手遅れなんだぞ? おれ……もうやっちまったんだぞ? やった後、後悔なんかしてどうする……し、仕事を果たしたんだ。そうだ、そうだ! これで、トーシュは助かるんだ」


 もう手遅れ、男が言った通り。俺はそう言われるだけの致命傷を負った。俺の腹には穴がぽっかりと空いていて、血が止めどなく溢れ、このままでは数分も待たずに死ぬだろう。


「──【ディバイン・ヒール】」


 俺の腰につけたポーチが光った。その光は俺の体に浸透していって、俺の傷を、致命傷であったはずの腹の大穴を塞ぎ、癒やした。


「おい! 死ぬなよ! 我は、もうお前を他人とは思えないんだぞ!? シャヒル!!」


 ポーチからディアンナがふわふわと出てきた。


「馬鹿……なんで出てきた……傷を治したって、またすぐやられる。目立たずやり過ごせば……お前は生き残れたかもしれないのに……でも、ありがとう。ディアンナ……」


「我もお前も馬鹿だった。それだけのこと、ダブル馬鹿で、コンボとか発生せんのかのう?」


「コンボって……カード遊びか。最近ダクマとやってたのか? まぁ、でも。ダブル馬鹿の意味はあるかもな」


「そうなのか?」


「ああ、俺は死んだら、お前も死んじまう。だったら俺は、死ねない。お前を守らなきゃいけないから。やる気、出てきたよ」


 男との戦闘での相性は最悪っぽいけど、それでも俺に諦めるなんて選択肢はない。足掻けるだけ足掻いてやる。





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