67:疑念の神殿
「ふむ、やはり駄目だ……我の力で石柱化は不可能だ。おそらく、この男、ケリスの魂はすでに存在しない……支配する魂自体がないのだ」
「ケリスの魂が……ない?」
俺はパスカールさんに頼んでケリスの死体を回収してもらい、グリーンマイト家の別館で保管してもらった。ディアンナに石柱化させれば望濫法典の重要な情報が得られると思ったからだ。それで俺は一度ブロックスに戻り、ディアンナをポケットに忍ばせて戻ってきたわけだが……石柱化の試みはこの通り失敗に終わった。
「我に魂は見えぬからなんとも言えぬが、少なくとも術式が発動できないとなると、発動条件が整っていないということになる。肉体があるにも関わらず発動しない、となると……やはり魂がないと考えるのが自然だ」
「もしかして幹部だったから敵に情報が渡らないように、死んだら魂を消滅させる術式を使ってたりとか? でも……魂から情報を得るなんて魔法、超レアケースだろ。想定して、対策までするのか?」
「そもそも狙いが証拠隠滅ではないのかもしれぬ。ケリスは己を超強化する特殊スキルを使っておったのだろう? そんなスキルなら、なんらかの代償があってもおかしくない……死ねば魂を悪神に喰わせるとかな。ま、結局の所どれも推測の域を出ない……わからんな」
「そうか、ありがとうディアンナ。呼び出したのに、なんの進展もしなくて、ごめんな?」
俺が謝るとディアンナは気にするなと言って俺のズボンのポケットに入っていった。
「それにしても、やはりこの街もダグルムの感じがするな。エリアからもそんなような事を聞いたが……望濫法典はやはりダグルムを求めておるようだ」
「ダグルムが? じゃあ、あいつらが活動していたアルドロードにもダグルムが関わっているのかな?」
「それはないな。アルドロードはダグルムのカウンター、ダグルムを滅するための機構だからな。そうか……やつらダグルムを滅する武器があると邪魔だからか……」
アルドロード魔法学校がダグルムのカウンター? アルドロードには対ダグルムの古代兵器でもあるっていうのか? まぁでも……ディアンナが封印されていた、フィトリガットボールがアルドロードに存在していたわけだし……ありえない話じゃない。
「ねぇ、さっきからあなた達、ダグルムって言ってるけど、それ、なんのこと?」
パスカールさんが困り顔で、俺に問うてくる。まぁ、ベイカルの人からすれば一見すると関係ない話だもんな。
「ダグルムはダールムのことですよ。古代ではダグルムと呼ばれていて、ディアンナが言うには……このベイカルもそのダグルムと関係があるかもって。古代人の遺跡とか、ベイカルにあったりするんですか?」
「あー、ダールムのことだったのね。いや、ちょっとそうかなって思ったけど、近い発音の別の言葉だったら恥ずかしくて自信が持てなかったわぁ~。まぁ、古代人の遺跡? ベイカル鉱山とかにはちょくちょく見つかってるけれど、ダールム関連では見つかっていないはずよ。ただ……」
「ただ……? 何か気がかりなことでも?」
「ええ、これよ」
そう言ってパスカールさんはベイカルの地図を机に広げて見せた。
「これって、そうかベイカルの正しい地図……外の人間を騙すためのものじゃない……」
「地図を見るとわかるのだけど、ベイカルの中央を何重にも囲むようにある境界線、あれは長方形の形で、内側に進むほど短く、正方形に近くなっていて……まるで中央がズレていっている感じに見えるわ。新しい境界線ほど内側にあるわけだけど、こんな噂があるのよ。今引かれている境界線が、最後の境界線だって。それで完成だと言われているわ。でも、何を持って完成なのか意味不明でしょ? アタシは不審に思って、境界線の完成とはなんなのか? それを調べたの……だけど、その理由を知る者は誰一人として存在しなかったわ。アタシの親父殿の世代、今のベイカルを支配する人たちですらよ」
「え……? 待ってくださいよ。あれって支配層と貧困層を分ける境界線じゃないんですか? それに、その言い方だと、まるでベイカルの支配層はなんで境界線を作っているのか、自分たちでも分からないままやってるってことに……」
「そうなのよ……意味不明でしょ? ただ支配層と貧民を分けるだけの境界線なら、それが最後の境界線になるとは限らない……いずれ支配層の中でも、貧富の差、格差は生まれるはずだから……何を持って完成なのか……だからずっとわけが分からなくて……でも、ディアンナちゃんとシャヒルさんの言葉でハッとなったの……この境界線……神殿に見えるわ」
「神殿……?」
「境界線は階段型のピラミッド構造なのよ。そして……今引かれている最後の境界線、あれだけ色が他と違って赤、そして完全な正方形なのよ……完成っていうのは……神殿の完成のことだったんじゃ……そう思ったのよ」
俺は地図を確認し、パスカールさんの推測の通り、脳内でイメージしてみた。長方形の階段型ピラミッド、天上へ伸びる最後の段、正方形の最上階。確かに……そんな感じはする……あの境界線は規則的で、なんらかの意図があるように見える。だけど……
「でも……こんな境界線を引くだけで神殿として機能するのか? この世界の神殿には力があるんだろう? どうなんだ? ディアンナ」
「ふむ……まぁ、普通に考えれば、こんな程度の、線を引いただけの神殿、大したことはできないはずだろうな。だが……ベイカルの支配者達が、無意識の内に神殿を、何者かに造らされれていたとすれば? 実際、ベイカルの支配者達は境界線を引く意味も分からずに、目的も分からず完成を目指したんだ。この意味不明な状況にも、何者かに操られていたとするなら納得がいく」
「そうか……常識的に考えれば力を持つとは考えられない、簡素な神殿でも……人の無意識を操るほどの存在が背後にいるとしたら……軽視なんてできるはずもない。ならば、この神殿を生み出そうとする神が、このベイカルにいるのか? 神殿を生み出すために、ベイカルの人々を利用して、不和を、不幸をばら撒いた……? 神殿を生み出す? 力が欲しいからか? 力を失いかけてるから、力を取り戻すため? そうなのか?」
神殿を生み出し、力を強めようとする神のような存在。無意識に干渉する程度で、具体的に、物理的な干渉を行えない……力を失った存在。どこかで、そんな話……
「死克の聖女の神、あれは聖女を利用して、新たな神として生まれ変わろうとしてるんじゃないか? そういった可能性についても、俺達は考えていた。もしそうなら……」
「ちょっと待って頂戴! ロイスちゃんに憑いてる神が、ベイカルを荒らす黒幕だって言いたいの? そんな、そんなのってあんまりだわ! だって、だってロイスちゃんは……ベイカルのみんなの幸福を願って、命懸けで頑張ってるのよ?」
味方側だと思ってた存在が敵、そんなこと、誰だって考えたくはない。でも……それは、俺達はそうであってほしくないと思うだけで、現実的には普通にあることなんだ。
「まだ、確定したことでもなんでもありません。だけど、死克の聖女に憑いているという、謎の神については、ちゃんと調べた方が良い気がします。無礼に当たるかもしれませんが、それでもです……」
憶測は新たな憶測と疑念を生んだ。調べれば調べるほど、迷いが生まれ、正解が見つかるのか不安になってくる、そんな感じがするけれど……
俺達にできることは、一つずつ疑念を、疑問を解消していくことだけ。一つひとつちゃんと調べていけば、真実に到達できるはずだ。
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