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63:選択と足掻き



「シャヒル殿を殺す……? 私達がそれを許すと思うのか? 自衛での戦闘なら、私達も可能」


 エリアちゃんとダルアートさん、マルティアさんが俺を守るように俺を囲んだ。


「うーん、まぁ確かに、そこのエルフ? の子はちょっと面倒そうだけど……君たちは目の前にいる存在が何なのかわかってないみたいだね。望濫法典の到達者が一、ケリスとは自分のことだ」


「到達者……?」


 どうやらチャラついた優男の魔法使いはケリスという名前らしい……それにしても望濫法典の到達者? どういう意味だ?


「特別ってことー。ただ強いだけじゃ、偉くはなれない、超強くて、人を超えた存在じゃないと称号は貰えない。ねぇ? なんで魔法使いが単独で、前線に出られると思う?」


「は……?」


 ケリスから重苦しい魔力が放出されるのを感じる。土属性? けど、なんだこの不快感は……ただの土属性じゃないのか?


「──それが可能だって分からないかなー?」


 瞬間、ケリスの肉体がドロドロに溶け、違う形へと変貌していく。最初血肉のように赤黒かったドロドロは、白と黄金の砂と粘土へと変わる。そして、ケリスがそのままビスクドールに置き換わったかのような存在へと生まれ変わった。白と金の二色だけでできた人型、しかし、その人型の目には人の意思が見えた。俺を、殺す殺意が見える。


「肉体を……再構成した? どういうことだ……魔法の詠唱がない? 魔法じゃないのか……だとするなら……これは、特殊スキルだっていうのか?」


「御名答、いやぁ中々に賢いね。じゃあ、これがどれぐらいの絶望か、賢い君ならすぐに理解してもらえそうだし、教えてあげようねー。この体は魔力で出来ていて、全てのステータスが、自分の魔力を基準とし、それと同じ数値なんだ。魔力のみを磨き上げた魔法使い系統の、カンスト者が、そんなことをしたら? 一体、合計ステータスはどれほどのものとなるか、君ならわかるんじゃないのー?」


 ケリスは俺が絶望するだろうと言った。はは、そうだな。否定できない、勝ち目はおそらく0だ。レベル110と、カンスト者に近いステータスを持つエリアちゃんでも、やつとは、ケリスとは大人と子供ぐらいの力の差がある。


 いや、きっと、カンスト者同士でも同じことだろう。チートにも程がある……まぁ、それでもダクマ程ではないと思えてしまうあたり、やっぱりあの子は凄いな……


 普通、プレイヤーがカンストレベルに到達するとして、そのステータス分配は、完全特化など不可能だ。なぜなら、ステータス不足によって、ちょっとした単独行動すらも不可能になるからだ。例えば防御に全く振らないといった歪なステータス分配をすれば、カンスト者であっても、低レベルボスの一撃を喰らえば死亡してしまう。


 だからか……だから望濫法典は……傭兵として活動していた? 魔法使いとしての重要なステータス、魔力だけを特化して成長させるために……本来必要であるステータスの成長を雇い主の前衛職に任せることで、スキップ……


「──さて、そろそろ行こうか……ピシーズ。シャヒル君を殺そう」


 ケリスは人形となった自身の胸を見る。その胸には猫をモチーフとした彫刻が施されていて、ケリスはそれを優しく撫で、次の瞬間には、俺に向かって超スピードで突進してきた。ケリスは土の魔法で剣を創造し、俺を貫こうとしている。


 早いけど、雷神、ドラーテルほどじゃない! あの経験がある俺ならば、対応できない速さじゃない!!


 ケリスは、そのスピードに対応できていない俺以外の守護連合の守りを何事もなかったかのようにすり抜けて、そのままの勢いで俺に刺突を行う。俺はそれを単純なバックステップで避け、カウンターで膝蹴りをケリスの腹部にぶち当てる。


 ──ガッコーン!


 蹴った音は、どう考えても、人からする音じゃなかった。そして、やっぱり、ケリスに対してダメージはないらしい。傷一つつかない……


「はァ? 今の避けるって……? 君90台だろ? なるほど、君はスピード特化ってわけねー? じゃあ、他の能力は低いってことだ。つまり、君の薄い防御を抜くのに、火力はいらない……当たりさえすればイイッ!! 【シルト・スコール】!!」


 ──【シルト・スコール】:敵の俊敏性を奪う泥を放つ広範囲攻撃魔法、土属性、魔法、使用回数制限?/?。


「──ッ!? ぐあああああ!?」


 ケリスがシルト・スコールで生み出した微細な泥の弾丸が、俺と守護連合の仲間達に襲いかかる。エリアちゃんは魔法による防御ができたみたいだけど、俺含むそれ以外は、まともに攻撃をくらってしまった。


 クソがッ、こんな……牽制技もいいところな魔法で……俺も、ダルアートさんもマルティアさんも半殺しの状態だ。見た感じ、ダルアートさんとマルティアさんの方が俺よりもダメージを受けている。


 そうか、俺は風属性だから……相性のいい土属性に対して耐性があるんだ。


「なるほど……最近は自分の経験の足りなさを実感してばかりだ……相手も人間、頭を使ってすぐに対策してくる」


「シャヒル君、何を当たり前のことを言ってるのかなー?」


「今までの俺は、言葉で知ってただけだったのさ。理解なんてしちゃいなかった……こうして体が傷ついて、自分が死ぬのかもって、怖い思いをすると、実感は、馬鹿みたいに押し寄せてくる。エリアちゃん、ダルアートさん! マルティアさん! 住民を引き連れて逃げるんだ! こいつの狙いは俺だけだ! 俺に注意が向いている間に、俺の命が持っている間に、逃げて! 必ず生き延びるんだ!」


「そんな! シャヒル殿! 死ぬ覚悟を簡単に決めないで! シャヒル殿なら何か、何か策を思いつけるはず、そのはず……」


「俺ならできるって言いたいけど、言い切れないんだろ? 君の直感はわかってるじゃないか、エリアちゃん。俺はさ、君に生き残って貰わなきゃ困るんだよ。君は俺の親友の、佐熊……エージーの大事な大事な娘なんだぜ? 俺が死んでも、君が生き残ったなら、俺は自分の死に納得できる。君を守れたんだって、だから頼むよ」


「そんなズルい良い方、よくないです……ッ! あなたは死んでは駄目、あなたが思っているよりも、あなたの命は……大事なもの。父様が悲しむだけじゃない、守護連合も、あなたの友も、あなたの存在を必要としているから!」


「それでもだ! 世の中、自分にはどうしようもないことだってある。むしろ、その方が多いのかもしれない。だけど、今ここで俺が選ぶ命は、俺の命じゃない! 君たちと、君たちがこれから救っていく、守っていく命だ! それが、無力な俺にできる、唯一のことなんだ!」


 っは、己が無力を威張り散らして、みっともない。けど、みっともなかろうと、俺の選択はこれのみだ。ガルオン爺にもらったチャンスが、ここで終わってしまうのが、凄く嫌だ。ガルオン爺に申し訳が立たない……けど許してくれ。俺が死ぬとしても、ガルオン爺が俺に繋いでくれたように、俺のこの選択が、仲間たちに繋がれていく。


『──許しはしない』


「──え?」


 声が……聞こえた? 誰の声だ? 俺の後ろから……? 俺が後ろを振り向くと、ドラーテルとの戦いで一瞬だけ見た、モヤモヤが居た。


『──死ぬなシャヒル。まだ早い、死ぬのはもっと、生を楽しんでからだ。そうだろう?』


 声が俺の心に魂に響いた気がした。懐かしい感じがする声で、俺に親しみを持った、優しい声。


 ここで死んだら、ガルオン爺に申し訳が立たない。さっき頭をよぎった、その思いが、胸が痛くなるほどに、強くなった。


 ああ、生きたい。まだ死にたくない。もうちょっと、頑張ってみるよ。全力でさ!


「──【エアーボム】!!」


 ──大気をぶつけることで対象をノックバックさせる低威力攻撃魔法。風属性、魔法、使用回数14/15。


 俺はエアーボムを俺とケリス、両者に当たるように発動する。エアーボムにもちろんダメージはない。だけど、俺とケリスを弾いて、安全な距離を取らせた。


 背後のモヤモヤはそれを見て頷いてくれた。そんな気がした。




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