60:不良聖女
──ベイカル、中央地区。それは唐突に起こった、四豪商の一家、レッドマイト家の有する、高品質の赤ガフラマイトが貯蔵された倉庫から黒煙が立ち昇っている。
三角錐のような形状の倉庫の側面には大穴が空いていて、破壊されたレンガ質の壁を真っ赤な火が溶かしていた。
「死克だ! あいつらやりやがった! 逃がすな! 必ず捕まえろ!!」
小綺麗な服装の男が、倉庫の周辺で叫んだ。その声と共に、四豪商の私兵達がゾロゾロと倉庫の周辺を囲んでいく。それはとても迅速で、的確な対応だった。
倉庫を爆破した死克のメンバーは、私兵達にあっさりと捕まることとなる。
◆◆◆
「はァ!? サイシューがレッドマイトの倉庫を爆破した? どうなってんだよ! 守護連合とやらの交渉が落ち着くまでは死克は動かねぇって決めただろうが!!」
「っぐ……その、おれに言われても……どうもサイシューと一部のメンバーがその決定に不満を持っていたようで、独断で破壊工作を……」
赤髪の少女が年上だろう青年を怒鳴りつける。死克の隠れ家の一つ、ベイカル外縁部の安酒場の厨房奥の秘密部屋で、死克のメンバー達は暗い顔をしていた。
「チッ……被害は? 死人は出たのか?」
「は、はい! どうやら、中央の者に死者はいなかったようですが……許可証持ちの中間域居住者が数人死亡したようです」
「はぁ? あそこは警備すら中央出身者で固めてたはずだろ? それがどうして、中間域のやつらの死者しかでねぇ? おい、サイシューを調べろ。あいつ裏切って中央に付きやがったに違いねぇ」
「つまりこの爆破はやつらの自作自演だと? 狙いは……?」
「どうやらボク達が思ってたより、守護連合ってのは、中央のクズ共にとって厄介な存在らしいな。望濫法典と敵対してるって話だったから、様子見を決めたのは正解だったな。おい、お前ら守護連合とは直接接触するなよ? 中央はボク達と守護連合を関連付けるために、事を起こしたんだろうからな」
赤髪の少女が落ち着きを取り戻したのを見て、周囲の死克メンバー達はほっと胸を撫で下ろす。
「しかし、我らと守護連合に繋がりがないと証明しなければ、我々も彼らも動きづらくなってしまいます。直接接触しないとして、そこはどうするんです?」
「おいおい、ボクを誰だと思ってるんだ? カーマイン・ロードイシュラス、その名が今、このベイカルでどういった意味を持っているのか、お前たちもよく知ってるだろう?」
カーマイン・ロードイシュラスと名乗った赤髪の少女は、その右腕を頭上に掲げる。右腕に刻まれた大きな十字傷に魔力が脈動する。傷は黄金の光を放ち、その腕に魔法陣を浮かび上がらせた。
「ベイカルの罪を裁く者、神との契約せし聖女。はは、あのロイスがこんなになるなんて誰も予想できなかった。だけど、お前のことは皆認めてる。おれ達の意思はロイスと共にある!」
◆◆◆
「爆破事件……いくらなんでも間が悪すぎる。俺達がベイカルにいる最中にか、誰の思惑で事件が起こったかどうかはともかく、四豪商はこれを利用して、俺達の正当性を奪うつもりだろうな」
「シャヒル殿、どうするつもりか? 死克というのはベイカル外縁部の自警団的な存在と聞いた。中央からはテロリスト扱いされているようだけど、貧困層や中間層からは強い支持を受けている。露骨に我らが遠ざけるのも愚策だと思う……少なくとも、望濫法典を打倒するなら、どのみち彼らの力は必要になる」
エリアちゃんの言うことにも一理ある。おそらく俺達は死克の力を借りることになる。だけど、それを今露骨にやってしまっては、身動きが取れなくなる。俺達は正式な大使としてベイカルに来ているわけだから、勝手にテロリストと同一視されるのはマズい。
と言っても、ベイカル側も俺達のバックの組織ごとテロリスト扱いするのは難しいだろうから。せいぜい、守護連合という組織だけを狙い撃ちにしてくる感じだろうけど……
朝、俺達がベイカルで調査を開始してすぐ、死克による倉庫爆破事件は起こった。そのせいで俺達は状況を知るための情報収集に追われていた。本来やりたかった調査はできなかったけど、得られた情報は悪くない。
元々俺が外部の情報屋を雇って知り得た情報では、死克は外縁部、貧困層での支持が厚いという話だったけど。実際にはベイカル中間域の居住者達からの支持も厚かった。理由は死克には神に選ばれた聖女がいるから、らしい……
なんともな話だけど、ファンタジー世界ならそういうこともあるかと、俺は一先ず納得しておいた。
「現状は死克と関わるつもりはない。だけど、それも難しいかもしれないね。ベイカルの中央、四豪商は大量の私兵を外縁部に送り込んだみたいだから。倉庫爆破事件の調査を名目に、貧困層の不穏分子の炙り出しと排除、見せしめを行うつもりだと思う」
「ま、待ってください! み、見せしめですって!? まさか……四豪商が私兵を使って、弾圧を……虐殺でも行うと?」
俺の発言にマルティアさんが身を乗り出す。身を乗り出したのはマルティアさんだけでなく、ダルアートさんもだけど……やっぱり二人共根本的な部分では似てるのかもしれない。
「ああ、死克の聖女は神に選ばれてるって話だろ? だからその聖女、カーマイン・ロードイシュラスを中心とした新宗教がベイカルの中央外に生まれつつあるんだ。と言っても、聖女本人は宗教を作ろうだとかは全く思ってないみたいだけど……ま、本人がどう思ってるかは関係ない。ともかく、中央は聖女を支持する者たちをカルトテロ組織の信奉者として扱い、弾圧する正当性を得てしまっている」
「弾圧……それは……おそらくうまく行きませんわ。その死克の聖女の新宗教とやらは、ソルダリス教の成り立ちとほぼ同じですもの」
「ど、どういうこと?」
「ソルダリス教も腐敗した王政の反発から生まれた武闘派の宗教なんですの。ソルダリスでは聖女ではなく男性の聖者でしたが、聖者を中心として、力を伸ばしていきました。その後王からの弾圧に苦しむことになるのですが、強引に力で抑え込んでも、王への反発が強くなるだけでした。だから……強い信仰の力が生まれ、その力からソルダリス神が生まれたのです」
信仰から神が生まれた? 逆じゃないのか?
「待って待って、ソルダリスは信仰から神が生まれた、それはわかったけど。死克の聖女はすでに何らかの神に選ばれた存在って話だ。だったら、死克の新宗教が同じようになるとは限らないんじゃないのか?」
「それは些細な問題でしょう。人の強い思い、願いが結集することで世界の神々は生まれてきた、ソルダリス神学ではそう結論付けられていますの。圧力を掛けられると強く結束し、強い思いが生まれる、重要なのはそこです。だからもしかすると、力を失った神が、死克の聖女に集まる強い思い、願いの力を欲して恩恵を与えているのかもしれません。言わば神の再構成、あるいは融合、再誕が行われようとしているのかも」
「弾圧はうまくいかないっていうのは……そうか、新たな神が生まれて、パワーバランスが崩れるから……けど、もしそうだとしたら……その神の誕生までに、人々の思いが神を生み出してしまうまでに、一体どれだけの犠牲者が出てしまうのか……やっぱり、どうにも難しそうだ。組織のトップとしてはリスクある愚かな考えなのかもしれないけど、俺はその犠牲を看過できない」
「シャヒルさん。それはボク達も同じですよ。そんな犠牲が嫌だから、皆、望濫法典を倒すために、守護連合へと集まったんですから。どこまでできるかわかりませんけど、できることをできるだけ、やってやりましょうよ!」
ダルアートさんの言葉に10人全員が頷いた。俺達はベイカルの外縁部へと向かった。
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