56:正門からの侵入
「ほ、本当にあの脳筋女を連れてきて大丈夫だったんすか? ボクはあいつがやらかしそうで怖いんすけど……」
「ちょっと? 聞き捨てならないですわね? わたしからすれば、ダルアートさん、あたのほうが怖いですけど? ただ慎重に考えることが最善なことばかりではないんです。時には素早い判断、即決こそが大事なこともあるんです」
はぁ、まーたダルアートさんとマルティアさんが喧嘩してるよ……こうなるのは分かってたけどさ。
守護連合に派遣されてきた戦闘エリートの面々とエリアちゃん、計10人を連れ、俺は堕落五都市の一つである【金剛都市・ベイカル】にやってきた。
ベイカルは堕落五都市の中で最も望濫法典の影響力が弱いと俺達は予測している。すでに外部の情報屋を活用することで簡単な調査はしてあるが、やはり詳細な所までは現地に行かなければ分からない。
つまり、今は簡単な下調べをすでにした後の本格的な調査……と言うより偵察かな?
「はいはい喧嘩しないでね~。一応俺達は正式な手続きでここに来てるわけで、君たちの本部の代表として来てるようなものなんだよ? いいのかい? 君たちの組織が、つまらない喧嘩ばかりしている組織だと思われても?」
「ぐ……シャヒルさん……最近あたり強くないっすか?」
「しゅん……」
「あのね、流石に俺にだって限界はあるよ……何度君たちの喧嘩の仲裁をしてきたと思ってるわけ? 20回だよ? 君たちが来て2周間ぐらいしか経ってないのにだよ? 一日一回どころじゃないんだよ? そりゃお互いに違う考えを持ってたりするのはわかるよ……? 君たち顔合わせたら喧嘩するのが癖になってない? 本当に頭使ってる? 相手の言う事が全部悪いように聞こえてない?」
「あ、いや……その……ごめんなさい……シャヒルさん」
「も、申し訳ありません! 本当に、おっしゃる通りで……確かにその……わたしはその……そういう部分があったかもしれません……わ」
なんだよ……最後の歯切れの悪い「わ」は……
「はぁ……ごめん……こんな風に俺がキレたって何も解決するわけじゃないのに……どうしたら改善するのか色々考えて試してもまるで駄目な俺が悪いんだ……俺が悪い! だからもう謝るな!」
「シャヒル殿は……一度ちゃんとした休養を取るべきだと思う……心がしっちゃかめっちゃか……」
ダルアートさんとマルティアさんにキレてしまったけど、俺は別に二人に謝って欲しかったわけじゃない。むしろ……謝らせたことに、俺は自分の不甲斐なさを感じる。俺にはこの二人が悪気があってこうなっているワケじゃないことは、重々承知しているからだ。二人共、違った価値観からベストを尽くそうとしているだけ、俺が守護連合のリーダーであるなら、そんなベストを尽くそうとする二人の意見をまとめ、より良い方策を打ち出せるようにしなきゃいけないのに……
守護連合のメンバーは若いのに頑張ってると、俺に優しくしてくれるし、認めてもくれているけど、決してリーダーにはなりたくないみたいだ。なんでみんながリーダーになりたくないかを知っているかと言うと、俺が実際に聞いたからだ。
守護連合に協力者達が派遣されてきて、衝突が増える中、俺はリーダーとしての自信を喪失していった。まぁ、元々リーダーをやる自信なんてなかったわけだけども……とにかく、そんな不安に思う心が、俺を突き動かしたんだと思う。
組織が大きくなってきたから、俺にもしものことがあった時、次のリーダーを決める時に揉めるとよくないからと、そのリーダー決めの方法をシステムとしてしっかり構築しておきたい。俺はそんなことを守護連合のメンバーに相談、会議をした。
その会議で……メンバーはみんな俺を無駄に褒めて持ち上げていた……だけど俺にはわかる……あれは、自身がリーダーとなることを避けるために、リーダーは俺しかいないといった空気を作るためにそうしたんだと。
そんな会議のメンバーの顔つきは、まるで俺を憐れむかのようだった。会議が終わると、コーマさんは俺に謝ってきた。
いや知らなかったんだと。俺はシャヒルがリアルでもこっちでも19歳だったなんて知らなかった。知ってたらリーダーにはしなかったかもと……俺がゲーム内で中堅冒険者、ライトゲーマーの多いレベル帯だったから、ってきりバリバリの社会人だと勝手に勘違いしてたと。
そしてこうも言っていた。けどすまない、俺はシャヒルが最もリーダーにふさわしいと、心の底から思ってる、世辞だとかそんなんじゃない、もしもシャヒルの代わりに俺がリーダーになったら、組織が弱体化するのが俺にはわかる。だから、命を大切にしてくれ。力強い、真剣な眼差しで、そう言ってくれた。
コーマさんは多分、他のメンバーと違って本当に本心から言ってくれたんだと思う。でもごめんコーマさん……もしも俺が死んだらコーマさんがリーダーになると思うよ。遺書にも次のリーダーはコーマさん、信用できる人はこの人しかいないって書いて宿の箪笥にしまっておいたから。ごめん、ごめんよ……でも、そうするしかなかったんだ……
「はぁ、やめやめ。暗いことばかり考えても仕方ない、良いことだってあったじゃないか。今日はその結果だ。守護連合に協力してくれた組織を後ろ盾として使い、正式な大使として堕落五都市へと入る。ダルアートさんがマルティアさんの考えに歩み寄ることで生まれた案、それが生まれて、俺達は今ここにいるんだ。喧嘩はなくならなかったけど、俺達は前進してるんだ」
俺は自己暗示的に言葉を口にした。頬を叩き、気合をいれる。弱気は捨てろ、ダルアートさんとマルティアさんは弱者を守るためにどうするかを考えたんだ。だとすれば、この先には守護連合が守るべき人が待っているはずだ。
俺がこんな弱気では助けられる人も助けられなくなってしまう。もし、そんなことが現実に起こってしまったら最悪だ。俺の気分が悪かったから、仕方がなかったで済ませられるわけがない。
「さてと、それじゃあ行こうか。関所を越えて、ベイカルに。あ、マルティアさん、くれぐれも軽率な行動、戦闘は避けてくださいね? マルティアさんはソルダリス教の代表として来てるんですから。そういった行いはソルダリス教に迷惑をかけてしまうこと、しっかりと肝に銘じてください」
「はい! 分かっておりまぁす!」
滅茶苦茶元気なマルティアさんの返事が俺の鼓膜にぶち当たり、耳奥がキーンとなった。許せシャヒル、彼女には悪気はないんだ。むしろ誠実であろうとした結果なんだ……ふぅ、なーんだ。なら何も問題はないな。全然良いじゃないか! 良い良い! 滅茶苦茶いい!
こうして俺達は【金剛都市・ベイカル】へと入り込んだ。関所を抜ける時、門番に睨まれたマルティアさんとダルアートさんが滅茶苦茶睨み返していたことに、俺は少しの不安を感じながらも、その歩みを止めることはなかった。それは俺だけでなく、俺と共に来た全ての人がそうだった。
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