55:色々な実感
「──黙れよ! ソルダリス教が偉ぶってんじゃねー!」
「はぁ? 偉そうなのは否定するだけでロクな代案も出せないあんたの方でしょう? プレスター教って馬鹿でも偉くなれるのかしら?」
またか……今日も守護連合の本部に怒声が響く。この二人は喧嘩ばっかりだな……ソルダリス教聖騎士のマルティアさんとプレスター教聖闘士のダルアートさん、この二人はそれぞれの宗教から守護連合へと派遣されて来たんだけど……
二人は出会ってそうそう、初日から激しい喧嘩をした。俺が止めなければ殴り合いになるところだった。二人ともプライドが高く、レベルも高い。非プレイヤーは基本的にレベルが低いのに、この二人は守護連合のメンバーの平均よりもレベルが高い。だから彼らからすると、守護連合のメンバーの殆どは格下で、言うことを聞いてやるギリもないって感じだ。
まぁ、非プレイヤーで高レベルってだけで、この二人はかなりのエリートというか、凄い人達なんだけど……こう、毎日のように喧嘩されると困る……灰王の偽翼から派遣されてるシュガーナイトなら実力的に彼らを止められるけど、彼も一応外部の人間で、彼を頼りすぎれば、守護連合は灰王の偽翼の下部組織扱いされかねない。
そうなると色々問題が出てくるんだよな。灰王の偽翼は立場的にはラシア帝国の騎士団ということになってるから、必然的に守護連合はラシア帝国のための組織扱いされてしまうだろう。そんなことになったら、ラシア帝国と敵対的だったり、非協力的な国の騎士団は守護連合に協力してくれなくなってしまう……
だからこそ、この喧嘩馬鹿二人を止めるのは守護連合の人間でなければならず、そしてそれができるのは、レベルが足らずとも、守護連合のリーダーであるという立場の俺だけだった。
つまり、二人が喧嘩すると、俺が必ず止めにこなければならない……! 毎日、毎日……ああもう……エリアちゃんが言ってたのはこういうことか……忙しくなるって……けど、俺が決めたことだ。やるしかない!
「あの~、今日はどういった感じで揉めてるんですか?」
「聞いてくれよ! シャヒルさん! こいつ……望濫法典を弱体化させるために例の堕落五都市にソルダリス教徒を送り込むとか言ってんだぜ? そんなの戦争仕掛けにいくようなもんだぜ。馬鹿はどっちなんだか……」
一見すると半裸で粗暴そうに見えるダルアートさんだが、彼はどちらかというと冷静で、穏健派だ。石橋を叩いて渡るタイプ。
「聞いてくださいよシャヒルさん! この人否定するだけで代案も出さないんですよ? 野蛮だのなんだのと……わたしだって戦争にするつもりなんてありませんよ。ただ、堕落した都市にもソルダリスが救える民がいると思っただけなんです。その都市自体を救うことができなくとも、救うべき人々は大勢いるはず。それに、そういった人々から都市の内部事情を知ることだってできますわ」
逆にお嬢様っぽいおしとやかな見た目のマルティアさんは衝動的で、割りと好戦的だ。戦争をするつもりなんてないと言っているけど、この人が堕落五都市にいけば人々を救うためには仕方がなかったと、戦闘の事後報告がされることになるだろう。
彼らが言っている堕落五都市とは、守護連合が望濫法典対策を要請しても、問答無用で突っぱねた望濫法典と癒着関係にある5つの都市のこと。最初は名称決めてなかたんだけど、色んなところから守護連合に協力者が派遣されて来る内、勝手にそんな名称が出来上がっていた。
「あぁ? ボクだって……堕落五都市で苦しんでる、弱い立場に人々を救いたいと思ってる。けどな? もし、そこで戦争が起きてしまえば、犠牲になるのは悪党だけじゃない、弱い立場にある人達も同じなんだぜ? 分かって言ってんのか!?」
「ぐぬぬぬ……そうやって手をこまねいているうちに、苦しんでいる人もいるんじゃなくて? 多少強引になっても、素早く動くことが結果的に多くを救うことになるのです!」
話は平行線だ。二人共弱い立場の人間を救いたいという気持ちは同じだけど、考え方というか、手段というか、どうもズレがあって噛み合わない。
「なるほど……二人の言い分はわかりました。聞いた感じ、俺にはどちらの言い分も分かる」
「やめてくださいよ! そういうどっちもどっちみたいな言い方! こんな半裸の男と同列に扱わないでくださいな!」
「シャヒルさん! どちらが正しいのかハッキリ言ってくださいよ!」
う……めんどい~~~……
「そのどっちが正しいとか、そういう考え方はやめませんか? 俺達は自分たちの意見を押し付け合うために話し合いをしてるわけじゃない。より良い案を導き出すために、一緒に考えるために話し合ってるんです。こうやって喧嘩をして、どちらが正しいと言い合うだけでは、いい案は出てきません」
「はぁ……また……ですか。シャヒルさん、あなたもこのプレスター教徒と同じく、否定するだけで代案を出さないんですの? 全く」
うぜぇ~~~! やれやれ感だすなよ脳筋! やれやれなのはこっちだよ!
「俺も良い代案は思いついていません。そこは申し訳ない……だけど、良い案を生み出すためにできそうなことなら思いつきました。それはお互いの考えをベースに自分ならどうするか? それを考えることです。みんなそれぞれ考えることや視点が違いますから、同じ目的、同じ方向性で考えたとしても、それはきっと違った答えになるはずです。今はまだ手探りの状況ですから、とにかく可能性というか、考えを広げたいんですよ」
「……なるほど。まぁ確かに……そもそも彼女もボクのどちらも間違っている可能性だってある。考え方、視点を増やすか……」
マルティアさんは急に落ち着きを取り戻すダルアートさんを見て、負けてられないと思ったのか、落ち着いたフリをして、露骨に考える仕草でアピールしている。その謎の考えてますアピールやめろ……不安そうにダルアートさんをチラチラ見てるせいで、考えるのに集中できてないのまるわかりなんだから……
「じゃ、俺は守護連合に協力してくれる所を探しにいくんで。喧嘩は控えてね?」
俺がそう言って、守護連合を出てしばらく、俺はまたここへ戻ってくることになった。理由は二人の喧嘩だ。まぁ、そうだよねぇ……そんなちょっと俺がなんか言ったぐらいでは、改善なんてしないよね……でも、俺は弱気なったりなんかしないぞ。諦めるなんてありえない。
二人共、その行動の源泉、気持ちは同じなのだから。きっといつか、分かり合える日が来ると俺は信じている。
問題は、こういった喧嘩自体はこの二人に限った話じゃないってことだ。似たようなことが毎日山ほど起こる。まぁ、マルティアさんとダルアートさんみたく、癖が強かったり高レベルの人ばっかじゃないから、必ずしも俺が仲裁しなきゃいけないわけじゃないけど。
守護連合のメンバーも仲裁は俺に任せればOKみたいに考えてるのか、すぐに俺を頼ってくる。一応リーダーだから他にも色々と仕事、書類仕事だったり、各所への協力要請だとか、商人との交渉だとかもあるんだけど……まぁ仕方ないか……どうやら俺が仲裁するのが早いみたいだから。
俺が本来の仕事をできないせいで、組織の動きが悪くなったらどうしようとか、最初は心配だったけど、意外とそこは問題なかった。
というのも、守護連合のメンバーも俺の代行をすることでその仕事に慣れたし、元からリアルで社会人だった人も多かったから、元の仕事に近い業務だったら俺よりもうまくできた。結局守護連合を構成する中堅冒険者っていうのは、廃人プレイヤーじゃなくて、ライトゲーマーだからな。一般的な社会人層が厚いレベル帯なんだ。それがいい方向に働いた。
まぁ、守護連合のメンバーだけじゃなく、派遣されてくる協力者達もなんだかんだ優秀な人が多いし、彼らも動いてくれてる。組織全体のマンパワーで言ったら以前よりも断然上だし、やれることの選択肢も広がっている。
特に宗教関係の協力者は懇意にしているマジックアイテムの商会と守護連合に渡りを付けてくれたりとか、これが物凄い助かった。安定価格で消耗品を供給できるのは大きい。色んな地域の商会から少しずつそういった消耗品を集める方式なら、現地の人達が品薄品切れで困ることもないし、リスク分散にもなる。特定の商会だけに依存してると、そこに何かがあった時困るからね。
そんなわけで俺の負担が増えようとも、前進していることを実感できていた俺にモチベーションの低下はなかった。ありがたいことだ。
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