52:守護の戦い
「望濫法典の下部組織で名前が分かったのは2つ、【望春】と【法秋】望春はレベル60~80、法秋はレベル91~100の魔法使い系統の冒険者が所属しているらしい」
俺達はサイディオスから帰還した後、また改めてディアンナの石柱を活用してやつらの聴取を行った。質問をその場で考えてから聞くというのも効率が悪いので、先に俺が質問するべきことをリスト化し、そのリストに従ってディアンナが石柱に質問するという形態をとった。
それによってある程度の情報を取得することができたので、情報をまとめ、守護連合本部で守護連合の皆に共有することにした。
「春、秋? 春夏秋冬か? じゃあもしかして、下部組織は全部で4つあるとか?」
「そうだね。俺もコーマさんと同じことを思った。多分夏と冬の組織も存在するんじゃないかなって。命名法に関しては、望濫法典の漢字を一文字ずつと、春夏秋冬から一文字ずつって感じに見える。下部組織はメンバーの育成がメインで行われているみたいで、サブメンバーとか補欠とかそういう扱いかな?」
「ふーん? あぁ、育成……そうなると春、夏、秋、冬って季節が進むごとに組織のメンバーのレベルも上がるってことじゃないの? 少なくとも春の組織よりも秋の組織の方がレベルは高いみたいだし? あとは冬の組織の後は育成完了で正式に望濫法典のメンバーに……とか?」
「うん、多分カレンさんの言ったような感じだと思う。もちろん断定するのはよくないんだけど、もしもこの予測が正しいとすれば、レベル的には守護連合が相手できるのは一番弱いであろう春の組織、望春だけってことになる」
俺が望濫法典の下部組織と敵対を匂わせる発言をしたところ、一部のメンバーがざわついた。
「ま、待ってくれよシャヒルさん。下部組織に喧嘩を売ったら、上が、望濫法典や秋や冬の、高レベル者を敵に回すことになるんじゃないか? そうなったら、俺らは為す術もないぜ?」
メンバー達のざわつきを見かねたコーマさんが彼らの意見を代弁する。コーマさんは元から俺の考えを伝えてあるので、この人自体は俺に反対するつもりなんてない。コーマさんは、俺が自然な形で説明できるように立ち回ってくれている。
「俺達守護連合は、すでに単なる中堅冒険者の寄せ集め組織ではなくなっている。ハイレベルクランの【紅蓮道嵐】【灰王の偽翼】と同盟、協力関係にあり、実際彼らのクランメンバーが戦闘教官として派遣されている。みんなもその指導を受けたことがあるはずだ。指導が始まり、俺達守護連合の平均レベルは上昇し、非プレイヤーの育成計画によって、非プレイヤーの戦闘職メンバーも増えてきた」
「しかしなぁ、いくらハイレベルクランと協力関係にあると言っても、危険を冒してまで俺達を守ってくれるだろうか?」
「守ってくれるかどうかで言えば、おそらく守ってもらえるだろう。だけど、俺達はまずその守ってもらうという考えを正さなければいけない。何故ならこの世界には、俺達を守る法と組織は存在しないからだ。元いた世界とは違うんだ。この世界の警察にあたる組織は騎士団や警備隊だが、彼らは王や領主の命令を遂行することが目的の組織であって、公平性や公正さを保証するものじゃない。少なくとも、国家間を超えた問題を解決するために協力するだとかは殆ど存在しないと言っていい。さらに言えば、ハッキリ言って俺達プレイヤーはこの世界とって異物、いずれ区別、差別が始まるだろうが、それから守る組織どころか思想、発想すらない段階だ」
俺が言葉を発する度にみんなの顔が重苦しく、暗いものになっていく。俺もあまり言いたくはないんだけど……現実を見なければ、俺達に未来はない。
「俺達を守る者はいない。守る者がいないからこそ、俺達が守るんだよ。誰かがやってくれる、そんな考えで逃げ続けたら、俺達の未来は閉ざされることになる。何故なら、望濫法典は誰の代わりでもなく、それ自体が悪意を持って活動し、確実に俺達や世界を潰すために前進しているからだ。見て見ぬふりをして、歩みを止める者、やつらからすれば、そんなの相手にもならない。これほど楽な相手はいない」
自分たちがやるしかない、俺のその言葉で、何人かの動揺していたメンバーが落ち着きを取り戻した。真剣で、覚悟を決めたかのような表情だった。
「と言っても、現実問題として俺達の力が足りないのは事実。だから出来ることは限られる。けど、ただ恐れるだけで何もしないなんて駄目だ。倒せとは言わない、けどせめて、邪魔ぐらいしてやろうぜ! 中堅冒険者だろうと、敵の足を引っ張ってやることぐらいできるはずだ! 具体的な考えはこうだ。望濫法典とその下部組織を特定し、やつらに物資が渡らないように妨害活動を行う。表舞台で、堂々とそれを行う。もしもやつらが表舞台で、俺達を襲撃する場合、それは同時に、その土地の王や領主に喧嘩を売ることにもなる。彼らのメンツを潰す行為だからね」
「なるほど、間接的に領主や王を味方につけるわけか……まるでマフィア程度の騎士団も、飼い主のメンツのためには動く。戦闘力で言えば、望濫法典一派は国を凌ぐかもしれねぇが……やつらも生きるためには物資、食料が必要。それを強引に奪うようになったら、さらに嫌われ、避けられる。効率的でないから、悪巧みをする時間も減る。うむ、どこまでの成果が出るかは分からねぇが、やってやれないことはないんじゃねぇか?」
コーマさんがそう言ってメンバーを顔つきを確認していく。若干不安そうではあるものの、闘志というか、やってやるぞという気概の感じられる雰囲気だった。
こうして、守護連合は直接戦闘ではなく、妨害工作という手段で望濫法典との戦いを開始した。
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