51:予測の先、崩れ去る足元
シャヒル達がサイディオスで活動していた時、アルーインもまた普段とは違う、厄介事を任されていた。ラシア帝、ファランクスの怒りを買った大臣のザリオンを連れてエンドコンテンツ、リバースピラミッドを攻略せよという王命だ。
アルーインは足手まといを連れてリバースピラミッドを攻略するのは危険だと進言したが、皇帝は聞き入れなかった。
「皇帝が試しているのは大臣だけでなく、わたしもか……アダムを倒し、お家騒動も終わらせて、これ以上何を見せろというんだ? 皇帝は……」
リバースピラミッドはアルドロード魔法学校と同じく、地下へと続く道から入る異界ダンジョンで、ラシア帝国の初代皇帝の陵墓が大地震で破壊された結果、その瓦礫の下から見つかった。
そう、ラシアの初代皇帝の陵墓であるピラミッドのその下に、もう一つのピラミッドが存在した。魔法によってその全体像を確認した結果、ピラミッドを反転させた形のそれは、リバースピラミッドと呼ばれるようになった。
初代皇帝が地上にピラミッドを建てたのは、このリバースピラミッドを隠すためか、あるいは封印するためか、その謎を知るために内部調査が行われた。
しかし、その内部には超高レベルの魔物で溢れており、レベル120、カンスト者でなければまともに調査が不可能な代物だった。調査が難しいだけならともかく、リバースピラミッドは厄介な特性を持っていた。異界ダンジョンにも関わらず、その出入り口から魔物が外の世界へと出てくることが可能だったのだ。
リバースピラミッドのラスボスが外の世界に出なくとも、超高レベルモンスターが外に出るだけで、一つの街を滅ぼす力がある。異界ダンジョンは入る冒険者ごとに違った平行世界のダンジョン空間に入るという特性があり、その世界ごとに大量の魔物がダンジョン内に配置されている。故にこの異界ダンジョン内の魔物は無限と言える。
だから一見すると、このリバースピラミッド内で魔物をいくら討伐しようと無駄に思えるが、実際に冒険者が内部で魔物を討伐すると、魔物が異界ダンジョンの外へ出ることはなくなったのだ。特異な特性を持ったダンジョンは、そういった意味でも他とは違った。
アルーインはそんなリバースピラミッドで、心強い仲間たちと超高レベルの魔物を倒し続け、ダンジョンのボスを倒し続けてきた。このダンジョンを最も攻略した者、それがアルーインだった。
「お、思ったよりも明るいんですねぇ……地下に空も太陽もあるなんて……」
「まだ第一階層だからね。進めば進むほどに暗くなっていくし、魔物も強くなる……まだ魔物と戦ってもいないこの段階で怯えていては……強敵と目が合えば死んでしまいそうだね」
「ば、馬鹿にしないで頂きたい! 私もちゃんとあなたのあげた報告資料を隅々まで見て、予習をしてきました! そうそう驚くことなどありえません!」
その一秒後、カンストレベルのスケルトンがザリオンの横を通り過ぎて、ザリオンは発狂した。アルーインと仲間たちは連携攻撃で、そのスケルトンを一瞬で倒す。そこにはなんの感情もなく、作業的で、何事もなかったかのようだった。
第一階層の砂漠地帯をアルーイン達は慣れた足取りで、立ち止まることなく進んでいく。そして、第一階層のボス、キングダムスコーピオンとの戦闘が始まる。
強酸を尾から撒き散らす、巨大で紫に輝くこのサソリは、出会ったその瞬間に演出がある。それはキングダムスコーピオンが強酸を撒き散らして、周囲のスケルトンを溶かし、溶けたスケルトンの力を吸って吸収するというもの。
キングダムスコーピオンが巨大な多脚を地面に叩きつけ、アルーイン達に襲いかかる。アルーイン達はそれを回避することなく、防御。前衛の戦士が盾で守り、後衛の魔法使いが魔法で酸を弾く。
彼らに守られるザリオンの頭上をキングダムスコーピオンの酸が通り過ぎて、地面へと落ちる。酸は地面を異常なスピードで溶かし、悪臭を放つ。その光景を見たザリオンは生きた心地がしなかった。
アルーイン達は完璧にキングダムスコーピオンの攻撃を受けきった。となれば、次にアルーイン達が行うのはカウンターアクション。攻撃によって隙を生んだキングダムスコーピオンは、その頑丈な甲殻の隙間に剣と槍をねじ込まれる。
アルーインの魔法剣、ディレイ効果のある戦技スキル、クロスバーズと状態異常や行動妨害を受けた敵に高ダメージを与えるナスティカースを合わせた、彼女の代名詞とも言える基本コンボが炸裂する。
アルーインの後隙の少ない高威力牽制技は連続でサソリの節々を破壊していった。流れるように切れ目なく、カウンターが始まってほんの数秒でキングダムスコーピオンはその脚の全てを失い、頭部を守る甲殻を剥がされ、柔らかい内部の肉をアルーインと戦士に抉られて絶命した。
「ば、化け物がさっきまで……アレ? あ……え?」
先程まで元気よく、街でも滅ぼす勢いで襲いかかってきたキングダムスコーピオンが死んでいた。ザリオンがサソリへの恐怖から現実逃避をしている一瞬の間に、状況がガラリと変わっていた。
化け物をあっさりと、一方的に殺したアルーイン達。こうしてようやく、ザリオンはアルーイン達の強さを認識する。化け物を蹂躙する化け物のような人、これを人々は敬意を込めて英雄と呼ぶ。ザリオンは正しくその言葉の意味を理解した、いや、させられた。
「おや、ザリオン殿? 元気がないようだけど、お疲れかな? なら今日のところはこれぐらいにしようかな。もちろん君が休んでいる間に、わたし達はここを攻略しなきゃいけないけど……次のエリアではザリオンどのも移動ぐらいはしてもらわないと守りきれない。だから攻略が終わったらザリオン殿を指導する。死んでもらっては困るからね」
アルーインはそう言うと、第二階層へと続く階段の近くにある石碑に触れた。ダンジョン内から外への転移魔法が発動する。階層ごとに存在するボスを倒すと、その階層から外への転移機能が解放される仕組みで、ダンジョンに入る度に進行度はリセットされる。
故にアルーインからすれば二度手間なわけだが、彼女達にとっては第一階層突破は準備運動にもならないので、まだまだ余裕があった。
こうしてザリオンとアルーイン達のダンジョン攻略の日々は始まった。ファランクス皇帝の目論見通り、頭でっかちだった文官のザリオンはアルーインの力を正しく認識するようになる。しかし、皇帝の目論見は甘かった。
アルーインはザリオンに認めさせる、それ以上だった。ザリオンはアルーインを英雄として認識してしまった。憧れてしまった。
故に──
──【灰王の号令】:自身を英雄として信仰した対象を洗脳し、従えることができる。信仰者のステータスの一時的な強化が可能。
灰王の号令により、ザリオンはアルーインに支配された。ラシア帝国で頭角を現しだしていた文官は”アルーインの部下”となった。
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