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50:穢れを解いて見えた雪



「フェンリル……頼んだよ」


 ヨルドの窪地、遺跡を囲む結界から少し離れた位置から、エリアはフェンリルを呼び出し、仙水の入った瓶をフェンリルに渡した。


 遺跡内部の床と同じ、黄土色に塗装された瓶をフェンリルは器用に咥えると、遺跡に向かって走り出した。


 エリアはそれを確認すると近くにあった木と茂みを背に隠れ、精神を統一する。エリアは次第に意識を朦朧とさせ、フェンリルと視野、感覚を共有する。そこからは、エリアが念じればフェンリルはその通りに動いた。


 遺跡の結界を守るように増員されたであろう大勢の警備は、遺跡に近づいていくフェンリルが見えないし、フェンリルは瓶を地面スレスレの位置で咥えて運ぶので、地面に生える草がそれを隠した。


 だからフェンリルはあっさりと遺跡の内部へと侵入に成功した。遺跡内部に入ってすぐの階段は暗く、視認性が悪い。やはりここの警備も気づかない。


 フェンリルは進んでいく、音を立てず、素早くするすると遺跡を移動していく。敵の警備は何人も居たが、エリアが敵の死角を通るように誘導すれば、彼らが気づくことはなかった。誰もが人の襲撃があると想定していたから、当然その目線の位置は人を見る高さにある。床スレスレを動く、床と同じ色をした瓶に気づけない。


 遺跡の最奥は扉で閉じられていたため、警備が部屋を出入りするのを待った。そして扉が開けば、フェンリルはするりと扉を通り抜け、最奥の部屋へと侵入することに成功した。こうして遺跡の最奥にたどり着いたフェンリルは、ディアンナの指定した仙水の注入ポイントに穴を開けるため、ついにその存在を敵に知らせる。


 フェンリルは遺跡最奥のまだ封印解除が行われていない扉付近の床で大きく跳躍し、落下と同時におもいっきり床を蹴った。部屋の床一面が凍りつき、大穴が開く。そして大穴があいたのを確認すると──


『フェンリル、今! 瓶を入れて!』


 フェンリルは首を振るい、器用に仙水の入った瓶を穴に投げた。瓶は穴の底に叩きつけられて割れる。仙水は遺跡のエネルギー循環を司るパイプラインの収束地点から一気に遺跡全体へと染み渡っていく。


「な、なんだ!? いきなり凍って!? な、どうすりゃいいんだよ! こんなのモラルスさんから聞いてないぞ!! けど、逃げたら殺され──」


 遺跡を警備する敵は何が起きているのか分からずパニック状態、そしてパニックとなって、右往左往しているうちに。


 遺跡全体が青く美しく輝いた。遺跡は爆発し、崩落、内部にいた警備だけでなく外で結界を守っていた者たちまでも巻き込んで、その全員を殺した。遺跡も、敵が設置した結界も壊れると、遺跡が崩落した結果地盤沈下が起き、元々大きかった窪地の大穴はさらに大きくなった。


 瓦礫と死体だけの静かになった窪地の中心から、フェンリルはぴょんと一飛で地上に出た。精霊であるフェンリルは物理的なダメージを受けない、だからこそ遺跡が爆発しようと崩落しようと無傷だった。そもそもの遺跡の爆発で放たれた光は、仙水由来のもので、フェンリルにとっては自身を癒やし強くするものでしかない。


『終わった……あっさりだったな。こいつらの蘇生は許さない……フェンリル、こいつらの精神体を跡形もなく噛み砕いて』


 エリアのそんな無慈悲な指示にフェンリルは「ワン!」と元気よく、忠実に遂行した。敵対者達の魂をフェンリルは噛み砕く、噛み砕かれた魂はスノーダストのように、霊の世界で輝いた。


 フェンリルとエリアだけに見える幻想的で美しい光景、フェンリルは無邪気にはしゃいだが、エリアの胸中は複雑だった。


『穢れた存在も小さく解けば綺麗なモノ……元から美しかった存在と同じ、ならその違いは何だというのか』


 仕事を終えたエリアは意識を元の体へ戻し、気絶し、地面に倒れ込んでいた体をむくりと起こした。そんなエリアに美しい魂のスノーダストを見たご機嫌なフェンリルは体を寄せて、まとわりついた。エリアはフェンリルの頭を撫で、フェンリルを精霊の世界へと帰還させる。



◆◆◆



「あ! エリアちゃんおかえり!」


「なっこれは、なんというか……凄い光景だ……父様とシャヒル殿の案は驚くほどあっさりと遂行できたよ。遺跡も結界も、そこにいた敵対者達もすべて破壊した。私が帰る頃には、精霊の赤子もあの土地に発生していたし、あの土地もやがて自然な形を取り戻すと思う」


「よかった! とりあえず一安心だ。お疲れ様」


 やっぱり普通の人間には見えない精霊を高度に操れるってチートだよなぁ。


 カイティス王の屋敷に戻ってきたエリアちゃんが驚いた理由、それはディアンナが作成した石柱を部屋に並べまくってたからだ。ディアンナが石柱から情報を得るというので、俺がアイテムボックスから出した。無骨な八角形の石柱は、なんというか圧がある。


「確かこの石柱は魂の檻、閉じ込められた者はディアンナ様の支配下におかれ、絶対服従……だったか。精神世界への干渉というのは精霊を操るのと似ているが……どうやら方式は違うようだ」


 そう言ってエリアちゃんは石柱をさすさすしている。


「我が行なっているのはあくまでその者の肉体であったもの、死体を利用することで、対象の魂を操作しているに過ぎないからな。死体に洗脳魔法を掛けているのに近い……だから、我が魂の世界を完全に認識できないとしても、こういった支配が可能なのだ」


 なるほど、ディアンナの石柱化は死体を魂捕獲装置に変えるみたいな魔法ってことか……けど、神だけど精神世界を完全に認識できないっていうのはなんかあれだな……だから人造神ってことなのか? 本当の、真の神様なら魂の世界も完全に認識できる?


「応えろゴミ、貴様らは何故あの遺跡の力を欲した。何を企んでいる!」


『分かりません……! なんでかなんて……俺はただ、言うこと聞けば美味しい思いができるから……』


 うわっ……石柱から人口音声みたいな声が……ちょっとホラーだな。でも言ってることが俗な感じだから、恐怖感が中和されてる。


「チッ、なら思い出せ! お前に命令した者たちが何を話していたか!」


『せ、世界を壊すって……で、でも! そんなこと本気でやるわけないでしょ? だから関係ないとは思うんですけど……いろんな国に種を撒いてるだとかどうとか……俺にはよく分からないことで……興味もなかったから聞かなかったし……』


 怯え、早口で語る石柱、けどなんていうかアレだね。この石柱の支配はかなり凄いな。相手に思考を促すなんてことができるのか……善意の協力を強制的にさせるみたいな。こういった支配で、嘘をつかせないとはよくあると思うけど……この方式だと手を抜くことも嘘も許さない。支配者の求める答えのために全力で努力することになる……


「世界を壊す……? 望濫法典はそんなことを狙ってるのか? けど、なんでだ? 色んな国に種を撒いてるっていうのは、自分たちの協力者だとか、活動拠点を作ってるってことだと思うけど……世界が壊れても、自分たちは生き残るっていう算段でもあるのか?」


「まるで魔王のような目標だな! だが安心するといい、余は魔王の意思を継ぐ者ではあるが、世界を壊すつもりはない」


 ダクマの言う通り、望濫法典の考えはまるで魔王とか、ゲームのラスボスとか、悪の組織って感じだ。とてもリアルに考えられることじゃないけど……俺はこれをありえないと否定することができなかった。


 俺はやつらが人と魔物を融合させ、キメラを作っていたのも見たし、人獣を生み出すバルザックワームを復活させようとしていたのも見ているわけで……なんというか、本気度というのは感じる。


 仮に世界の破壊という、やつらの思惑が成功しないとしても、その目的遂行のため、その過程で生まれる技術だったり、発生する事件は、この世界を混沌へと傾けるのは間違いない。そして、そういった事は俺達が現実的に対処していかなければいけないんだ。


 この世界を奴らから守ってくれる存在を、俺は知らない。ハイレベルプレイヤー達に対抗できる非プレイヤーは少なく、そういった組織に対抗する存在もない。


 俺達が見て見ぬふりをしたなら、この世界は無防備だ。誰も守らず、やつらを自由にさせたなら、案外あっさりと、世界は破壊されてしまうのかもしれない。


 そう、代わりに守ってくれる法も、秩序も、正義の味方も、この世界には存在しないんだ。世界の異物が混入して、時代が変わっていくこの時、その対策となる法も制度も存在しない。


 そして、俺はこのことに気づいてしまった。逃げる選択肢は、失われていた。





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