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48:風の鼓動


「──【アンチ・ヒール】!」


【アンチ・ヒール】:対象が受ける回復効果を低下させ、状態異常耐性を低下させる。闇属性、魔法、使用回数制限?/?。


「──【ヒールレイン】!!」


【ヒールレイン】:回復効果の雨を降らす範囲回復魔法。魔力が低いものが使用した場合、敵も回復してしまう。水属性、魔法、使用回数制限11/12。


 二つの魔法がほぼ同時に詠唱される。しかし、僅かにドラーテルの詠唱したアンチ・ヒールの方が速く発動した。そしてエリアの詠唱したヒールレインの雨が俺たちに降り注ぐ。アンチ・ヒールを受けた俺はアンチ・ヒールの回復効果低減で殆ど回復しなかった。


「まじかよ……状態異常魔法も無効って……どんだけチートだよ!! 世界って広いなァ」


 目を見開いて驚くドラーテル。ダクマがドラーテルのアンチ・ヒールを無効化したからだ。ダクマは通常通りヒールレインの回復効果を受けて、ドラーテルの攻撃で受けた傷を完全に治癒させた。


 状態異常も駄目……攻撃魔法無効の攻撃扱いの範囲広いなぁ……ホント。


「全く、動けねぇし……魔法を無効化するインチキはあるし、見えねぇ攻撃もあるし……ははは、喧嘩売って良かったぜこりゃぁサァ! くっそ……どうやらシャヒル君の方がおいらより賢いみたいだなぁ。おいらには君のターニング・ポイントとやらの解除方は分からねぇ……魔法の才能がもっとあったらなんとかなったかもなぁ……でも、全然、全然、まだまだこの程度じゃピンチじゃあない! まだこっから勝てるぜ! おいらはサァ!」


 凄い迫力だ……ドラーテル……俺もあんたと思うことは同じだ。俺も、全然あんたに勝てる気がしないよ。


「このまま遠距離から私とフェンリルの攻撃でこの男をなぶり殺しにする!」


 エリアちゃんが再びフェンリルの凍る噛みつきを使おうとしたその時、ドラーテルもまた動き出す。


 ドラーテルはしゃがんだ。前進、または後退の動きでなければ俺のターニング・ポイントは発動しない。ドラーテルは地面に手を置き、そして振り上げた。


 ──ドスドスドス! バシューーン!!


「ガァッ!?」


 エリアちゃんの胴体が弾丸のようなもので貫かれた。エリアちゃんはそのまま地面に倒れ込み、気絶した。弾丸じゃない……あれは、小石……? 電気を……雷を纏った小石……? 電磁投射で投げる小石の威力を高めた?


「おいらはソルジャーエリート。全ての武器を使え、尚且つ全てを武器化できる! だからそこらの小石も、おいらが使えば、おいらの力のステータスが上乗せされるッ! 今なら雷のおまけ付きだぜェッ!!」


 ……ッ!? 馬鹿か? あんな、数発でエリアちゃんを戦闘不能に追い込む威力のアレに……まるで隙がない……これも通常攻撃扱いだっていうのか? 嘘だろ……? エリアちゃん……ステータス見たけど……普通に防御力も高かったのに……


「さぁどうする? 回復役は潰したよ?」


 これは……無理だ……勝てない。このままでは、エリアちゃんもダクマも死んでしまう……二人を回収して逃げ──


「──おいおい、逃げるなんてつまらない選択をするなよ? まぁ……別に逃げてもいいよ? けど君がそうするなら、そこのエルフちゃんも、こっちのちびっ子武闘家も、ここで殺すよ? 自分一人なら逃げ切れる、だけど逃げれば仲間は死ぬ。そういうさ、嫌な選択しなくちゃいけない時があるんだよ。君さ、シャヒル君、そういう時どうすんの?」


 そういってドラーテルはまたしゃがんだ。小石を拾って投げるんだろう。


 ドラーテルが小石を投げた時、俺の身体はとっくに動き出していた。俺の頭にあったのは一つだけ「ダクマを守らなきゃ」


 ただそれだけで、気づけば無謀にも、俺は小石の弾丸からダクマを庇うように立っていた。駄目だ、この子は! 妹たちの夢なんだ! 俺の大事な──家族なんだ!!


 死なせてたまるものか!! そんなの絶対に、許さない!!


 ──プシュン!


 ドラーテルの放った小石の弾丸は外れた。


「は、外れた? 外されたのか?」


「……あ、いや……外したつもりはねぇ……それより、なんだよ……君のその、オーラ的なもんは……」


 ドラーテルは怪訝そうな顔で俺の背後を指さした。俺はドラーテルのそんな仕草に誘導されるように振り向いた。そこにはモヤモヤの、煙のようなナニカがあった。それが何者なのかは分からない……だけど、なぜだか、懐かしいような、優しいような感じがした。


「お前が……守ってくれたのか?」


「──」


 精霊は何も応えない。だけど、なんとなく頷いたように見えた。


「あ、ありがとう!」


 俺がそう言うと、煙は消えてしまった。なんなんだこれ……


「シャヒル君……君、君の後ろ、なんか見えたの?」


「え? あんた見えてたわけじゃないのか? というか、馴れ馴れしくシャヒル君て呼ぶのやめてくださいよ!」


「まぁまぁ、いいじゃない。おいらはなんか、強い力があるような感じがしただけで、なにかが見えたわけじゃないだよねぇ。こうさ、強者って、強者特有のオーラみたいなのがあって、おいらそういうの分かるんだけど、それに似た、でも違う感じのナニカを、君の背後から感じたんだよ。あ、そうだ。そろそろ君のターニング・ポイントとやらの魔法解いてくれよ! もう戦う気ないからさ!」


「え……? じゃあ、帰ったら解除します……怖いし……」


「ちょ! そりゃないぜぇ! おいらは君のこと高く評価してるんだ。仲良くしようじゃないの!」


「だまれヒゲ! シャヒルと余とエリアを殺そうとした者を信用できるわけないぞ!」


 ダクマがキレるのも当然だ。俺もそう思うもの。


「ちょっと待ってよォ! 確かにさ、シャヒル君が逃げたらみんな殺すつもりだったけど。逃げなければ殺すつもりなかったんだからさ! おいらには確信があったんだ! 君ならきっと逃げないって! だからさ! 実質殺す気はなかったんだよォ! ほら、本当はさ……! 投げた小石が当たっても致命傷にならない所を狙ってた……って、あ! 謎の力で小石の軌道がずれちゃったから……それ証明できないのか……地面へのめり込み方とか、角度とかで説明するつもりだったのに……」


 ほんとかなぁ……? 証明不能なことで信じろって言われてもなぁ……


「分かった。信じるよ」


「な……シャヒル!? いいのか!?」


「いいんだよダクマ。お前だって気づいてたろ? このおじさんは殺そうと思えば、俺達をいつでも、いくらでも殺せた……でもそうはしなかった。それに最初試すって言ってたろ? 本当に殺す気はなかったんだと思うよ。だからって許されることじゃないけどね」


「まぁまぁまぁ、さっきシャヒル君は合格っていっただろぉ? 元々、合格だったらご褒美をあげようと思ってたんだ。そう! おいらをタダで雇える権利サァ! おまけに、シャヒル君の言ってた、リバースピラミッドのこともちゃんと調べる!」


「え……? ど、どういうこと? なんだってそんな……」


「そりゃあ君さ、頭もキレる、面白い発想ができる。そしてなにより、命を懸けて誰かを守る勇気がある! カッコイイじゃん! カッコイイのはさ! それだけで価値がある。その礼は当然ってワケ! まぁ、流石に仕事中に裏切るわけにはいかないから。この遺跡のことで君らを手伝うことはないないけど、頑張りな。仕事終わったら雇い主変えるわ!」


 なんというか、色々と自由な人だな。俺はドラーテルにかけたターニング・ポイントを解除し、一度サイディオスに戻ることにした。そんな帰り際……


「おっと、なんか~重要な資料を落としちゃった気がするなぁ~、まぁいいか! 明日探せば!」


 そんなわざとらしいドラーテルの声が聞こえた。彼のいた足元には、どうみても見逃すはずのない結構な量の紙の資料が乱雑に落ちていた。




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