43:調査開始
カイティス王との交渉を終えた俺はそのまま、ダクマとディアンナ、エリアちゃんを連れてヨルド国周辺にある窪地へと向かった。戦闘が予想されたので、ホイップちゃんはブロックスへ帰ってもらった。これは今回のことをホイップちゃんから守護連合に報告してもらうというのもある。
カイティス王との交渉、俺たち守護連合がサイディオスの調査に協力する代わりに何を要求したかというと、それは望濫法典との戦闘が起こったら可能な範囲でサイディオスは守護連合へ協力すること、他のエルフ氏族の国家との交渉に協力してもらうというもの。
そもそものヨルドの窪地に展開している邪悪な魔法使いというのは、望濫法典と関係がある可能性が高く、対望濫法典での協力というのは、自然な形で共闘関係を築くことができた。
だから俺のした交渉での本命は、サイディオスに人間国家と実質的に国交断絶をしている他のエルフ国家との交渉に協力してもらうことだ。おそらく、サイディオスの力を借りなければ他のエルフの協力を得ることは難しい……
ロブレの設定資料での知識だが、エルフ族はほぼ完全に人間族を見捨てているらしく、エルフの中では人間族は滅びゆく自滅種族ということになっている。もっとも人間からすれば、そのエルフ族も子供の生まれない、滅びゆく旧時代の文明支配者なわけだが……
互いに勝手に滅ぶと思っているし、両種族の対立は根深いものだ。エルフと言えばファンタジーにおける王道種族で、プッシュされがちなものだけど……ロブレではあまり目立っていなかった。ロブレをゲームとしてプレイしていただけでは分からない未知の領域、ブラックボックスがエルフの文明には存在すると俺は考えている。俺がエルフの協力を得たいというのは、そういった未知の力の存在に期待しているのもある。
「ついた……ここが、ヨルドの窪地。転移ができなかったのはあの装置が原因かな?」
ヨルドの窪地、俺たちは最初そこへ転移で向かうつもりだったが、それはできなかった。原因不明は不明で、ここに来るにはまずヨルド国へ転移して、足で移動するしかなかった。
窪地は牧草で満たされていて、窪地を囲むように結界を作る装置が設置されていた。
「見ろシャヒル! 凹みの真ん中禿げてるぞ! あれ穴か?」
ダクマが窪地の中心地を指差す。そこはダクマの言ったように大きな穴が空いており、土を寄せた痕跡がある。何者かが穴を掘ったってことか……
「ふむ……よく見ろ。牧草が禿げているのは穴を掘ったからではないようだぞ。牧草は中心地に向かって薄くなっている。これを、我は知っている気がする……」
「ディアンナ? 知ってるってどういうことだよ」
俺の腰のポーチに入っていたディアンナが外に飛び出して、宙に浮くと俺の顔を見て口を開いた。
「あれは汚染だ。ダグルムの汚染……古代の、我の時代の戦争で使われた兵器の影響だ。おそらく地下には古代遺跡があるだろうな。我らとは敵対していた悪しき者たちの遺物があるはずだ」
「ダグルム? もしかしてダールムのことか? 戦争好きの古代人類種……設定資料だとすらっと一節にあるだけだった……けど、だとするなら……ここを荒らしている魔法使い達は、その古代の遺物を利用しようとしてるってことか……」
「──! みんな下がって! 何か来る! 嫌な感じが!」
エリアちゃんが叫ぶ。俺たちはエリアちゃんの声に従って、窪地から離れる。
──ガオオオオオオオオン!!
「──おやおや、人間と……エルフか? ヨルドはちゃんと誘導したのに……人が来るなんて……レベルは……エルフちゃん以外は雑魚か」
轟音と共に俺たちが元いた場所が燃え溶けた。エリアちゃんの誘導がなければ、ダクマ以外は死んでいただろう……攻撃魔法を放った存在は空中に土の足場を作ってその上に経っていた。
「転移……この結界は……認めた者以外の転移を禁止するものってことか……」
「雑魚だと? ははは! 貧弱なもやし男が偉そうに吠えるものよ! 余はお前を殺すことぐらい朝飯前だがなァ!」
ダクマはそう宣言し、空中のもやし男に向かって跳躍、弾丸のような勢いで殴り掛かる。もやし男は土の足場を新たに作ると、新たな足場に乗り移る。
余裕の表情で、軽やかに回避行動を行うもやし男がニヤリと笑った。
でも──
「甘い! 甘い甘いあま~い! 死んで後悔するがいい!! 暗黒拳!」
ダクマの攻撃は当たる。物理法則を無視した空中での強引な方向転換、無理やりな軌道修正。男の胸にダクマの拳が突き刺さる。丈夫そうな鎧で守護されていた男の胸は破裂して、もやし男は絶命した。
「お、おおお! なんという妙技……これが魔王の落胤の実力か……しかし、シャヒル殿、殺してもよかったのか?」
「いや、よくないな……」
「なに!? 殺しては駄目だったのか!? 悪いやつだったんじゃないのか? 余を殺そうとしてきたんだから殺してもいいんじゃないのか!?」
「こいつは明らかに、ここを荒らしてるやつらの関係者だったから、情報を取りたかった。蘇生魔法を使えば……まだいけるかもだけど……俺もダクマも蘇生魔法使えないし……」
「ああ、蘇生魔法なら私は使えるぞ。しかし、このまま蘇生するのは危険ではないか?」
「そうだね……なにかしらの対策というか、無力化手段が必要だと思う」
「蘇生なんぞ不要だ。我がこいつの魂を支配し、隷属させればいいだけのこと。死んでまだ早い、この時なら可能だ」
「は?」
ディアンナが手をもやし男の死体にかざすと黄色い光が、死体を溶かし、溶けた死体は八角形の石柱になった。
「ど、どういうこと? ディアンナ、急にどうしたんだよ! いつもはやる気ないのに……」
「うるさい! 我とてやる気なんぞない……だがな、今のこの時代に、古代の悪しき存在が復活するなど許すことはできん! 我はあやつらが嫌いだ……また時代を壊すというのなら、それを利用しようとする者がいるのなら……そやつらごと消滅させてやる」
そうか……ディアンナは元の時代へ、古代に戻りたいって言ってた……きっと、こいつらが利用しようとしている悪しき古代人種の兵器は……ディアンナと因縁があるんだ……もしかしたら……古代文明が滅んだことと関係してたりするのか?
「とりあえずその石柱をアイテムボックスとやらにしまっておけ。この調子だとどうせ、あの穴の中にも不届き者がいることだろう。敵対的であったなら、お前たちが殺せ、そうしたら我が石柱化してやる」
「ディアンナ殿、この石柱はどうやって使うのだ? そもそもどういったモノなのか」
「それは魂の檻だ。この檻に囚われたなら、その存在は我の命令を絶対遵守する。よって、我が知りたいことをこやつに聞けば、嘘のない、真実のみを知り得る」
人造神……こんなことができるってなると、ディアンナが本当に人造神だってことを認めざるをえない。
「よし、攻撃魔法を無効化できるダクマを先頭に、穴から地下へ入っていこう。トラップがあったとしても、魔法由来ならダクマが無効化できるし、物理的なもので万が一ダクマが死亡しても、エリアちゃんの蘇生魔法がある。俺は二人の間に入って、サポートするよ」
俺はもやし男の石柱をアイテムボックスにしまうと、みんなと一緒に窪地の中心の大穴の中へと入っていった。
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