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39:悲壮感を置き去りにする男



「エージー、サリア! 円の中央へ! さぁさぁ、これより婚儀の踊りを行おう! みなで歌い、祝い、精霊と二人の未来に祝福を!」


 サイディオスの街の中心で、サリアとエージーの結婚式は執り行われた。二人が出会って三年目のことだった。サイディオスの民達はすっかりエージーのことを認めていて、サリアとの結婚も、皆自分のことのように喜んでいた。


 サイディオス王家の呪いは結局発動せず、結婚の日となった。


 サリアとエージーを囲むように円陣が組まれ、皆踊り歌った。二人を祝福するため、普段の二人の行いに感謝を込めて。そしてサリアとエージーも踊り歌う、二人は祝福してくれる人々と精霊に感謝の踊りと歌を。そうしたポジティブな循環がそこにはあった。


「お、おおお! あれ! あれみろよ! セトスマの爺さん! はははは!」


 エージーが森の方を指さした。そこには大きなセトスマの木が強い光を放っていた。セトスマの木々達は世話を焼いてくれたエージーに随分と懐いていて、エージーとサリアの結婚を祝福してくれていた。


 そして、セトスマの木々から水が上空へと放出された。仙水の雨が、結婚式の行われている広場に降り注ぎ、やがて虹がかかった。


「き、きれーい! エージーさん! 凄いね! こんなの、きっと一生忘れられない!」


 美しい光景に感動し、思わずエージーに抱きつくサリア。エージーもサリアも抱き返し、セトスマ達に大きく手を振った。


「ありがとよ~~~! みんな~~~!」


 婚儀の踊りと歌は終わり、次は宴が始まった。夜になるまで酒と料理を、みんな楽しんだ。そして宴も終わると、サリアとエージーは二人だけの新しい家へと帰った。


「け、結婚したんだな……オレとサリアちゃんが……」


「うん……」


 同じベッドで寝るエージーとサリア。二人は付き合ってから三年が経っていたが、それまで肉体関係はなかった。なぜかと言えばエージーはヘタレだったのだ。


 そして結婚して、その初夜痺れを切らしたサリアはエージーに襲いかかった。服を脱ぎ、エージーの唇を奪い、身体を絡ませた。それによってヘタレのエージーもついに観念し、二人は愛し合った。二人はいつしか疲れ、眠りについた。



 ──しかし、朝二人が目覚めると、それは起こっていた。


「え、エージーさん? そ、その耳……」


「え? ……は、裸!? え? えぇ!? あ? どういうこと!?」


 エルフのような長い耳となったエージーと、裸のサリアに困惑するエージー。


「エージーさん? 昨日結婚して、その後二人で……あ、あああ、愛し合ったので……裸なのは当然かと……」


「エージーって誰だ? え? もしかしてオレのことか? それが結婚? オレと君が?」


「え……? 憶えてないんですか? ま、まさか……これが……サイディオス王家に掛けられた呪い?」


 その後エージーはサイディオスの民達によって調べられた。それで分かったのはエージーが記憶を失っていること、そしてエージーが人間ではなくエルフとなっていたことだった。


「そ、そんな……わたくしのせいで……エージーさんが記憶を……」


「ちょ! 泣かないでよサリアちゃん。だってあれだろ? 二人共覚悟のうえだったって話だろ? それで、二人共お互いのことが大好きだったって」


「うむ、そうなんじゃが……ワシがちょっと説明しただけで、この状況にすぐ納得できてしまうエージーさんは、なんというか……図太いというかなんというか。それで、本当に何も思い出せないのかのう? 何か、朧気にでも憶えていることはないか?」


「えぇ? ちょっとまってくれよ? ぐ、ぐぬぬぬぬ……う?」


 泣くサリアと、記憶を失ったことをまるで気にしていないエージー、そのエージーに困惑するカイティス王。といっても困惑しているのはカイティスだけでなく、エージーを調べた者たち全員だったのだが。


「あ! こうぼやっとだけど、ちょっと憶えてるのあるかも! こう、なんか木から雨が降ってきて、虹が出てみんなで笑ってるんだよ。なんか幸せだったなぁっていう感じのがある」


「そ、それって! 結婚式の時の! セトスマが降らした仙水の雨と虹! それだけは憶えてたんですね」


「いや、それだけってわけじゃないかも。もうひとつある」


「もう一つ? それってどんな記憶なんですか?」


「えっと、なんか男の子が……オレより先に泣いちゃったみたいな……なんだろこれ……」


「そ、それ! エージーさんの親友さんの話ですよ! エージーさんのお母さんが死んでしまって、エージーさんが泣くのを我慢してたけど、親友さんが先に泣いてしまって。エージーさんも泣くことができたって……」


「な、なんだよそれ……変な話だな……でもなんか。なぜだか懐かしい感じがするな……優しい感じがしてさ、寂しくないって思える。そっか、思い出せなくても……オレの魂の中には、そん時の心が残ってんだな。だから、なんか納得できたんだな……はは、みんなそんな暗い顔すんなよ! ただ思いだせねぇだけじゃねぇかよ! オレの心は一緒だし、心はみんなを憶えてる。なんも変わらねぇよ!」


「も、もう……エージーさん、あなたという人は!」


 サリアは泣きながら笑った。エージーは記憶を失っていても、愛する人の不安を消すことができた。


 エージーは何も変わらないと言った。実際、エージーはすぐにまたサイディオでの生活にすぐ順応したし、皆と仲良くなった。


 しかしそれでも、エージーと関係が深かった者の心中は複雑だった。エージー本人はまるで気にしていないと言っても、エージーは人間からエルフへ変貌してしまい、記憶を失い、記憶を元に戻す方法も分からない。


 どうしようもなかったことかもしれない、誰が悪いわけでもないのかもしれない。それでもカイティス王とマイティス王子は、この責任をとるべきと考えた。


 二人はエージーをサイディオス王家に迎え入れ、分家の王族として扱うこととした。エージーはセトスマの仙水の件でサイディオスに多大なる貢献をしていたので、反対する者も少ないだろうというのもあった。


 こうしてサイディオス王家の分家、ベイアディオス家が興った。エージーはベイアディオス家の当主として、サイディオスのエルフ族として生きていくこととなった。





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