38:愛の覚悟
「お父様……わたくし……」
「分かっておるよ……サリアお前は、エージーさんを愛しておるのじゃろう?」
サリアとエージーが互いに恋心を抱いていると自覚した翌日、サリアは父であるカイティス王の屋敷で父に相談していた。
「サイディオス王家の者は外の人間を愛してはならない。愛せばその人間を呪うだろう。それがエルフ氏族四王がサイディオス王家にかけた呪い……サイディオス王家に掛けられた呪いとはなんなのですか?」
「それは分からんなぁ……なにせ前例がないうえに、四王達はサイディオス王家に呪いの詳細を伝えなかったからのう。ただ分かっているのは、どういった呪いを掛けるかで彼らがギリギリまで議論をしていて、対立まで起こったということ。最終的にサイディオス王家についで人間族への融和を目指していたヤンディオス王家が、できるだけのことをはしたと言ってくれたこと……これらを考えるに、命には関わらずとも何らかの代償があることは間違いないじゃろうな」
「わたくしはどうすれば……」
「うーむ、正直どうにもならんじゃろうな。恋心を止めよと言っても若い二人が止まれるとは到底思えん。サリアよ、お前がいくら理性ではエージーさんを愛してはいけないと思っても、その心は止められん。理性では心を騙せない……今思えば、お前とエージーさんが出会ったあの時から、これは必然だったのかも知れぬ」
「で、でも呪いが……」
「ははは、だから言っておるだろう? いくらお前が心配しようと、愛しては駄目だと言っても、二人の距離を遠ざけても、心は互いを捉え離さない。だからどうしようもないことなんじゃ。だから、ワシは、お前の親として何があろうともお前とエージーさんを支えると覚悟を決めるだけなんじゃよ。だからサリア、お前も覚悟を決めろ。もしもエージーさんに呪いが降り掛かってしまったなら、もう愛を貫くんじゃ。それが責任というもの、覚悟というもの」
「お、お父様……」
カイティス王は涙を流すサリアと頭を優しく撫で、しばらくすると穏やかな顔つきから、真剣な鋭さのある顔つきへと変わる。
◆◆◆
一週間後、カイティス王は森に近い誰もいない小屋にエージーを呼び出した。カイティス王は小屋の外にテーブルと椅子を置いて、その近くで焚き火を組んだ。カイティスが火の魔力を薪に送り込むと、薪に小さな明かりが灯る。
次第にパチパチと心地よい音が、静かな森に響き渡る。火が強まると共に、光は強くなって、カイティスの顔が暗闇の中でもはっきりと見えるようになった頃、エージーはこの場所にたどり着いた。
「カイティス王、なんすか? オレに用って」
「まぁ、今日は特別な話をしようと思ってのう。酒でも飲んで腹を割って話そう」
カイティスは用意していた大きな土器の瓶をドンとテーブルへ置き、尺で二つの酒器に酒を注いだ。真剣な顔つきで酒を手渡してくるカイティスに、エージーは少しの緊張を憶えた。なんとなく、これからどんなことが話されるのかを、エージーは察した。
「単刀直入に言う。エージーさん、お前さん……サリアのことが好きだろう?」
直球で聞くカイティス、けれどエージーはまるで動じなかった。
「はい! オレそうみたいで……オレ、サリアちゃんのことが好きです。変な話なんですけど、オレって、サリアちゃんみたいなタイプの子って好みじゃないと思ってたんすよ」
「は?」
ちょっとキレるカイティス。
「でも、今までオレが思ってたこういう顔が好き、こういう性格が好きっていうの、全部どうでもよくなっちゃったんすよ。サリアちゃんに出会って、サリアちゃんと一緒に過ごしてたら、オレが好きな顔も、好きな性格も、何もかも、一番はサリアちゃんになった。オレって、全然オレのことを分かってなかったんです。こんな風に、人を好きになるなんて思ってなかった……馬鹿みたいに繊細な人間になっちゃって、胸が苦しくなる」
「そうか……でも、そんなに好きなのに? お前たちまだ何もしとらんのだろう? 生意気な話じゃのう」
「ぶはッ!? ちょ!? カイティスさん!?」
カイティスにからかわれて吹き出すエージー、からかった当人であるカイティスの表情は真面目そのものだったが、少しするとニヤリと笑った。
「ワシはお前たちを止めようとは思わないし、止められるとも思ってない。しかし、それでも言わねばならん。エージー、ワシらサイディオス王家の者には呪いが掛けられておる。他のエルフ氏族達が、サイディオス王家が裏切り、人の配下とならないようにするために掛けた呪いがある。それはサイディオス王家の者は外の人間と愛し合ってはならぬという呪いじゃ……故に覚悟せねばならん。エージー、お前は呪いを受けてもサリアを愛する覚悟を持てるか? その生命を掛ける覚悟が、お前にあるか?」
「……命を掛ける? うーん、どうなんだろうなぁ。命を掛ける覚悟があるか? ってこう何もないところで言われてもピンと来ないっすけど。サリアちゃんが危ないってなったら、命を懸けて戦う覚悟ならありますよ。そんなの余裕っすよ! そもそも、愛した相手じゃなくたって、オレは命を懸けて戦える。その人の未来がなくなるってのを見て見ぬふりなんてできない性質だから。だから、愛した相手のためなら、きっとなんでもできますよ」
「ははは、聞いてるこっちが恥ずかしくなるのう……これが若さか。しかし、お前さんはそれを実践してきたのだろうな。きっと、過去現在未来……サリアを、あの子を最も愛する男は、エージーさん、君なのだろうなぁ。分かった……サリアの未来と命はエージーさん、君に託す。ワシらの選択は後悔を生むことになるかもしれんが、ワシは二人の未来が幸福であることを、信じよう」
「はい!!!」
エージーのバカでかい元気な返事が静かな森に響いた。
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