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36:新祭


 エージーがサイディオスに住むようになってから数週間、エージーはその間サイディオスの民達の生活を学び、親交を深めていた。


 サイディオス人の生活というのは主に農業や魔法の鍛錬で構成されていて、それ以外の時は人と話したり、精霊のために祭りを催したりだった。


 サイディオスの農業は一般的な土耕による野菜の栽培や水田による稲作もあるが、少し変わった方式のものがあった。


「うお~! すご、べりべり~~って!」


 それはセトスマという樹木の剥がれかけた樹皮を収穫するというもので、森林区画へ行くと、セトスマの樹皮を剥がす音がよく聞こえた。


 サイディオス人はこのセトスマの樹皮を天日干しで乾燥させた後、それに特殊な魔力を込める。サイディオス人はこれをアロア・セトスマと呼び、生薬として活用している。生薬といっても、どちらかというとスパイスのような健康食品に近い、彼らの生活にある大抵の料理や飲み物に入っているからだ。味に癖がないため、言われなければ気づくこともないが、若干のコクのある塩味で、これ単体で食しても不味くはない。


 薬効としては魔力と身体の乱れを整え、精神を落ち着かせるというもので、さらに整腸薬としての効能もあった。そしてなにより、超長期保存が可能で栄養価が高い、これがアロア・セトスマで最も優れたことだった。数千年という保存期間があり、古ければ古いほど魔力を吸収しているため強い効能を持っている。


「おお、エージーさん! あんたもやってみるかい? 楽しいぞ~」


「やるやる! マイティスニキ、コツを教えてくれよ!」


 エージーはマイティスにセトスマの樹皮の剥がし方のコツを教えてもらうと大人数十人の太さのセトスマの所まで移動する。太いだけでなく高さもあるセトスマは、約100mほどもあり、先端へ向かうほど細くなっている。木の枝は東西南北の4方向に規則正しく生えていて、セトスマの樹皮が剥がれるのは枝と枝の間のスペースだった。


 エージはセトスマの根本近くで剥がれかけた樹皮にナタを押し当て、石でナタをトントンと叩く、ナタから伝わる感触が柔らかいサクサクとしたものからコンコンと硬そうな音に変わったら、ナタの位置をずらしまた同じように繰り返す。そうして枝と枝の間までナタを入れたら、いよいよ樹皮を剥がす段階に入る。


 エージーはナタで作った溝に手を突っ込んで、セトスマの樹皮を掴む。


「うおりゃあああああああああ!!」


 ──バルルロロロロオオオオオオオオオオ!!


 他の者たちがセトスマの樹皮を剥がす時とは違った音が響いた。エージーの馬鹿力はとんでもない速さで100mを超えるセトスマの樹皮を一瞬で剥がしてしまった。


「うおお!? え、エージーさん凄いな!!」


「き、きもちいい~~~! 滅茶苦茶楽しいじゃん!」


 エージーがセトスマ樹皮を剥がしてから少しすると、樹皮を剥がされた場所から大量の水が出始めた。


『おおお、こりゃ気持ちがええ、お前さん剥がすのが滅茶苦茶うまいのう。お礼に仙水をやろう』


「うわああああああ!? 木がしゃべったあああああああああ!?」


「おお! セトスマが話しかけてくるとは、何百年ぶりか? ははは! エージーさん、こりゃ凄いぞ。早くこの水を、仙水を回収せにゃならん、みんなを呼んで水を集めるぞ!」


「わ、わかった!」


 エージーは何がなんだか分からないといった感じだったが、マイティスのに従い、人々が大勢集まる共有食堂で仙水の回収を呼びかけた。すると、お祭り騒ぎとなって数百人が集まった。これは仙水を回収する人々の数で実際には見ものに来た者を含めると1000人近くが森へと向かった。


 仙水回収班は街中から瓶やビン、桶を集めて、息を切らしながら森へと急いできた。エージーがセトスマの樹皮を剥がしたその場所にたどり着くと、そこは水浸しになっていて、ちょっとした池のようになっていた。


 そんな池からは魚のような形をした水の精霊がはしゃぐように泳いでいた。回収班は仙水を回収するとお辞儀をしてセトスマに対する感謝の言葉を口にした。


 そして、そのまますぐに帰ることはなく、歌い、踊り始めた。


「め、滅茶苦茶祭りみたいに……あーでもこれ、いつものみんながやってる感謝を伝えるためのやつか。オレもちゃんと憶えないとな~」


「お? じゃあ今すぐでもできる簡単なのを教えるぞ?」


「マジか! 頼むぜマイティスニキ! よろしくお願いします!」


 エージーはマイティスから簡易的な感謝の踊りと歌を教えてもらい、実際に歌って踊っていると、その肩を後ろから叩かれた。


「うおっ!?」


「エージーさん、肩に力が入ってますよ? ほら、もっと力を抜いてください」


「な、なんだサリアちゃんか。セトスマの精霊が実体化したのかと思ったぜ……よし、わかった。力を抜いて、そうか、リラックスすればいいんだな? よーしよしよし。うーワッショイ! ワッショイ!」


「ワッショイ!? なんですそれ?」


「あ! お、オレの元いた、地元の掛け声だ、祭りの時の! 駄目だったかなぁ~」


 エージーがセトスマの方を見る。エージーはセトスマが喜んでいるように感じた。


「なんか喜んでるっぽいし大丈夫みたいだぜ。喜んでる感じのアレが伝わってくるぜ! よっしゃ! ワッショイ! ワッショイ!」


「なんだぁ? ワッショイって?」


 エージーがサイディオスの人々からすれば聞き慣れない掛け声を出していると、興味を持った人々が集まり、なんかあれでセトスマが喜んでいるらしいことを知ると、彼らもエージーを真似して、一緒にワッショイと叫んだ。森全体にワッショイワッショイと声が響いた。


 こうして新たな祭りが一つ、サイディオスに生まれた。その名もワッショイ祭り、毎年この日がやってくるとみんな森に集まってワッショイワッショイと叫んで、セトスマへの感謝を伝えた。


 そして、エージーは大量の仙水をセトスマより受けたことを評価され、全てのサイディオス人に認められた。だからこそエージーから始まったこの祭りは、300年間途絶えることなく毎年行われた。




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