35:300AG
魔法都市サイディオス、三百年前のその場所は、現在と違って人間は殆ど住んでいなかった。本来外部の人間が入ることが許されないこの都市国家だったが、エルフの姫サリアを助けたエージーは特例でこの都市に入ることを許された。
「うお、めっちゃ見られてる……でもちょいちょい人はいるんだな」
「我々は人間の同胞の力を借りて外の世界と間接的に関わっているのです。彼らの一族はエルフ族と契約していますから、お互いに裏切ることができない運命共同体です」
サリア姫はサイディオスの近辺にある森の聖域へ向かっていたところを人獣に襲われた。それをエージーが助けたということになる。サリア姫は恩人であるエージーを客人としてサイディオスに迎え入れることを、王に強引に認めさせた。周りの者は反対したが、彼らの人間の同胞が看破魔法でエージーが善良であるかどうかを調べると渋々とそれを認めた。
「へぇ~じゃあ契約してない普通の人間は入れないってこと? でもどうして回りくどい感じで間接的に関わってるんだ?」
「エルフ族は人間嫌いを拗らせていました。人間は利己的で残虐であると、関われば不幸を飛び込むと。だから森へ引きこもり、人間と関わらないように生きていました。ですが、あまりに接点がなく、人間がどのように発展し、世界へ影響を与えているかを知ることができないでいました。その結果、とあるエルフの一族が人間族に奇襲を受けて捕らわれてしまったのです。人間族がエルフの結界を突破するまでに賢くなっていたのを知らなかったせいです」
「ほうほう、あ! そうか、じゃあサイディオスって、外の人間の情報を集めてエルフを守るためにできた国ってことか!?」
「はい、そういうことです。嫌いだからといって相手のことを何も知ろうとしなければ、それは逆に己の首をしめる結果になります。なのでエルフ族の中でも元々人間に対して友好的な氏族がこのサイディオスを興して、間接的ながらも外の人間の世界と関わることにしたのです。情報集めと、予防といった感じです。王宮につきました。父を呼んできますね? エージーさんはここで待っていてください」
「お、おう」
エージーはサリアの王宮についたとうい言葉を最初理解できなかった。なぜなら、王宮というものの、その屋敷は他の一般的なサイディオス家屋と何ら代わりはないもの、むしろ簡素な作りだったから。エージーからすればとても王宮には見えなかった。
エージーはこんなのが王宮? と口に出しそうになったが、流石にそれを堪えた。
◆◆◆
「やぁ、どうもエージー様。この度は娘や兵たちを助けてもらい感謝するぞい。ワシはサイディオスの王、カイティスじゃ。しかし、そのすまぬなぁ。実を言うと我らは外の人間をどう持て成せばいいのか、その知識がなくてのう。我らの同胞の人間も、格式だったそういうのとは縁がなくて……とりあえず、この国で一番よい食事を用意したから、ぜひ堪能してほしい」
飾りっ気のないただの家のような王宮でエージーを出迎えたのはヒョロっとした髭を蓄えたエルフの男だった。人間でいえば初老のおじさんといった見た目で、サリアは思春期の娘といった感じだった。
「え! やった! ちょうど腹減ってたんだよなぁ。でも、そんな気にしなくていいんだぜ? 助けたのはそうだけど、お礼されるためにやったわけじゃないし。けど、まさか過去の世界に飛ばされるなんてなぁ」
「そういえば聖域の石像にエージー様は今の時代に飛ばされたと聞きましたが、それはラアトゥムの声を聞いたということですかな? ラアトゥムというのは、我らエルフ族が信仰する大精霊なんじゃが、実は我らエルフ族でもその声を聞くことができるのは一部だけなんじゃ」
「ラアトゥム? オレが声を聞いたのはそいつかどうかは分かんないけど、不思議な感じだったな。最初は言ってること分かりづらかったけど、慣れてきたら普通に話せるようになって……こう、美しい! って感じの雰囲気だったぞ。自分に形はないとか、繋ぎしものだのどうだと言ってたけど」
「形はなく、慣れると言葉遣いが変わってゆく……ふむ、それは間違いなくラアトゥムですな。しかしラアトゥムがエージー様をこの時代へ飛ばしたというのには、おそらくただサリアを助けさせるためというわけではないでしょう。ラアトゥムはエージー様になんらかの使命を託したのだと思います」
「使命ねぇ? まぁでも、そうだな。サリア姫を助けても元の場所には戻れなかったわけだし、何か使命を達成しないと戻してもらえねぇってことっぽいよな」
「おまたせしました! 料理をお持ちしました!」
エージーとカイティス王が談笑しているうちに、サリアが料理を運んできた。瑞々しい野菜や魚を中心とした料理がメインで、あとは芋のスープや米料理などがある。
「おお、うまそ~。もう食べていいのか? なんかエルフのしきたりとかあったりする?」
「いえ、特には、食の恵みに感謝して食べれば問題ありませんぞ」
エージーはいただきますと元気よく言うと、ガッつくように料理を食べ始めた。一口食べる度にうまい、といって口が止まり、感動を噛みしめたならまたガッつくという、緩急のある不思議な食べ方に、カイティスもサリアも笑みがこぼれた。
「ふぅ~うまかったぁ~。思ったよりも味が濃いんだなぁ。野菜自体の味がしっかりしてたからなぁ~はぁ、でもどうしような。オレが使ってた拠点は今の時代にはないみたいだし、装備も今持ってるのしかないし、アイテムも消えてるし……とりあえず、近くの街行って旅の準備でもしようかな~」
「そ、その! エージー様! よかったら、このサイディオスにしばらく留まりませんか?」
「さ、サリア? それは流石に……関わりすぎではないか? いや、ワシもエージー様のことは認めておるが……」
「お父様! エージー様はラアトゥムによって選ばれたお人です! きっと、わたくしとエージー様が出会ったことには何か意味があると思うんです。エージー様はこのサイディオスで何かやるべき使命があるのかもって、そう思えてならないんです」
「確かにそうだな。ラアトゥムにもエルフの姫を助けろって言われたし、もしかしたら、人獣達から救えってだけじゃなく、これからエルフの姫を助けていけって意味だったかもしれないもんなぁ。だったら、サイディオスに残ってサリアを助ける? のがいいのか?」
「……そうじゃな。この縁はただ事ではない、時代の変化が来ておるのかもしれん。未知を恐れるだけでは、ただの愚か者になってしまう。エージー様、このサイディオスはエージー様を受け入れます。反対する民もいるでしょうが、ワシが説得しますから、問題はなにもないでしょう。さて、そうと決まれば挨拶じゃな! エージー様ついて来てくれ、民達に紹介するから」
こうしてエージーは過去の閉ざされたサイディオスで生活することになった。
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