19:英雄信仰
──バギィイイイイイイ!
残り一回、アダムの予想が正しいならアルーインはあと一回しか光鱗障壁を使えない。次のアダムの攻撃が来るまでにアダムの体力を削り切ることができなければ、アルーインは負ける。光鱗障壁が切れた瞬間に畳み掛ければそれだけで終わる。アダムは硬直のない通常攻撃を行うだけでいいからだ。
「全身全霊! 全力全開! オレの全部でテメェを倒す! ──【炎神大塔】!」
けれど、アダムは通常攻撃を使わなかった。大剣による火属性斬撃による必殺の技、奥義と呼ばれるそれをアルーインを殺す技に決めた。今の今まで、アダムはリスクを避けてきた、後隙の大きな大技を使って仕留めきれなければ、その瞬間にアルーインの勝利が確定するからだ。
しかし、追い詰められた状態のアルーイン相手、自身も限界に近いのならば、話は違う。おそらく勝負が決まるのはアルーインの光鱗障壁が切れる瞬間のタイミング、その瞬間にアルーインもまた捨て身覚悟の賭けに出るからだ。
炎神大塔、アダムの大剣がオレンジ色に輝き、その先端から光を大きく伸ばす。天高く伸びる炎の剣をアダムはアルーインへと振り下ろす。
「──【終末穿孔】!!」
アルーインもまた自身の必殺の技を使う。終末穿孔、それは槍の最強戦技であり、ハイリスクな技だった。何故なら自身の持つ槍を投擲、投げるからだ。投げれば当然、その間は槍による防御は不可能となる。
アルーインの投げた槍はドリルのように回転し、空中を突き進んでいく。速度はどんどん上昇していって、やがて音を置き去りにする。アダムは自身を抉り殺そうとするその槍を、炎神大塔で叩き落とした。
そして、終末穿孔を使用したことによる大きな硬直で動けないアルーインに対し、アダムの炎神大塔が振り下ろされる。
……クソっ、アダムの技、持続長すぎだろ! このままじゃ、アルーインさんが!
「──勝てると思った?」
【クロノス・ダーク】
──対象の速度を低下させる。低下させた分、自身の速度を上昇させる。闇属性、魔法、使用回数制限6/7。
アルーインの妨害魔法によってスロウ効果を受けるアダム。だ、駄目だ……スロウ効果は対象の速度を低下させるけど、その威力を殺すわけじゃない……それじゃあ、アダムの炎神大塔は防げない!
「あァ!?」
え……? え? アルーインさんが……槍を投げて、何も持っていない方の腕で、炎神大塔を、炎の剣を、受けた? そんな、そんなんじゃ、光鱗障壁を使ったって……防ぎきれないよ!
──バシャアアアアア!!
アルーインさんの腕が切断され、弾き飛ばされる。あ、そうかクロノス・ダークの速度を奪う効果、速度を上昇させることで終末穿孔の硬直時間を早く終わらせ、さらに回避力を無理やり上げた、腕の犠牲だけで済ましたのか!!
「──戻れ、グングニル!」
──ッ!! グングニル! そうだアルーインさんが使う槍はグングニル、ロブレのクラフト可能な装備の中では最上位に位置する槍だ。この槍は投擲技を使っても、使用者の元へ返ってくる能力を持っている。そして、アルーインさんが使った終末穿孔は槍の投擲後にも続きがあるんだ。終末穿孔は投擲後、使用者の元へ槍が戻ってくるまでが一連の技だ。つまりどちらも使用者の所へ戻ってくる性質を持っており、その性質は相乗効果を生んで、帰還能力自体が攻撃力を持つ!
「──くッ!? 帰るところがわかってりゃそんなもん!」
槍が、グングニルがアルーインの元へと帰っていく。しかし、アダムもそんなことは当然理解している。だから避ける。
右ステップして槍とアルーインに挟まれる形から抜け出した。
「──わたしはそこにはいない。君には見えない先にいる」
「──は?」
──ドグシャァア!!
グングニルが……曲がった……グングニルはアダムの腹を貫通して、アルーインさんの切り離され、弾き飛ばされた無手の腕に、収まった。
グングニルは最初間違いなくアルーインの元へと向かっていたのに、途中で曲がって、角度を変えた。戻る先が、アルーインさん自身から切り離された腕へと変更されたみたいに……
は、ははは……そっか、あの時腕を犠牲にしてクロノス・ダークを使って、自身の硬直時間を減らして、強引に技を避けた時、あの時……アルーインさんは避けながら角度の調整をしたんだ。アダムが右ステップで避けるその先が、槍と切り離された腕に挟まれるように……誘導した。
「ざ、ざけんじゃねぇえええええ!!」
アダムが叫ぶ、アダムの硬直、もう切れたのか! イクシード・ファイアストームで上昇した速度は魔法のヘイストに近いのかも……硬直を減らす効果もあるんだ。というか、胴体をぶち抜かれてもまだ攻撃する余力があんのかよ! 化け物かよ!!
「──”平伏せよ。頭を垂れよ。灰王にその首を差し出すことを許す”」
──アルーインの言葉が響いた瞬間、心の底がざわつくような、重苦しいプレッシャーがラジャト山脈を満たした。そして、そのプレッシャーは、黒色の煙のような実体を得て、アダムを身体を通り抜けた。
「あ──」
”平伏せよ”アルーインのその”命令”にアダムは従った。攻撃を中止し、跪いた。その首をアルーインへと差し出すように。
「君がわたしだけを見てしまった時点で、君はもう負けていたんだアダム」
「あ、ああああ? な、ななにを? あ、ああああ!!!?」
「この世界で、わたしが新たに獲得した特殊スキル【灰王の号令】は、わたしを信仰した者を従わせることができる。君は、わたしを信仰したんだ。腕を切り落とされ、その中で槍を君に突き刺したあの時に、君はわたしを凄いと思って憧れた」
「は、はは……そんな、滅茶苦茶な話……あるかよ」
「そう落ち込まないで。アダム、君の望みは叶える。わたしの全身全霊の一撃で、君を打ち倒し、決着とするから──【創生の剣】」
アルーインの全身から黄金のオーラが解き放たれる。それらは渦を巻くようにして、ゆっくりと収束してゆく。アルーインに残された片腕、右手が掲げた剣へと、黄金の光が収束する。
5秒間、それが創生の剣のチャージに掛かった時間。チャージが終わった瞬間、輝く剣の光は黄金から銀色へと変わる。
そうして剣は振り下ろされた。アダムは跪いたまま、避けることはない。
──ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
剣から放たれた斬撃波はアダムの左腕と左足を切断し、そのまま決闘の舞台であるラジャト山脈の山頂を斬る。不自然に真っ直ぐと切れた山脈は鹿の蹄のように割れていた。
その場にいた誰もが、その光景に、言葉を奪われた。勝利者が誰であるのかは明白だった。
創生の剣、チャージ時間を必要とし、その間は物理攻撃ができなくなる大技。剣技における最高火力、奥義だ。けれどこの技は重い制約故に一対一の決闘で使うのはほぼ不可能だ。それをアルーインさんは使った。灰王の号令、俺がアルーインさんを指導することで、発現させた洗脳系特殊スキルを使って、この技を使う隙を生み出した。
まぁ、どう見ても創生の剣を使うまでもなく勝てたはずだけど、それはアダムやその部下達に自身の力を見せるためだろう。山を切り開くほどの火力……これがカンストステータスの力か……創生の剣は他の戦技スキルと違って物理技にも関わらず、依存するステータスが力や器用さではない。創生の剣は”全合計ステータス”を参照してその威力を決定する。つまり魔力や素早さだったりが高いとしてもこの技を高威力で放つことができる。そして、アルーインさんはレベル120のカンスト、最大火力で創生の剣を使える。
「……なんで、わざと……外した?」
胴体に穴を開け、左腕と左足を失った、死に体のアダムがアルーインさんを見上げるように言葉を発した。
「わたしの勝ちってことでいいかな?」
「あ? ああ……完敗だぜ……」
「よかった。じゃあ、君達紅蓮道嵐は今からわたしの部下ってことで」
「え? お、オレを殺すんじゃねーのかよ」
「殺したら勿体ないだろ? 君はわたしを殺しそうなぐらいに強かったし、ちゃんと話せば、思ったよりも賢かった。だからさ、わたし達と一緒に高難易度ダンジョンを攻略してもらいたい。今度はちゃんとやるだろ?」
「あ、ああ……そうなのか……はは、オレは……負けたんだな。あんたの、イカれた部分に……気迫と覚悟に……なんであんな戦いが出来た……それを聞かせろ。そしたらあんたの部下になってやる」
「ああ、ほらあっちにわたしが連れてきた子達がいるだろ? わたしが決闘に負けたら彼らも酷い目にあって死ぬと思うと、覚悟を決められた。きっと、わたし自身には覚悟の理由はなかったから、一人で来たら君に負けていた」
アルーインさんが俺達の方を指差す。そして剣を持ちながら手を振っている。ちょっとニコニコしている……
「はぁ? ……じゃあ、自分を追い詰めるためにわざわざ足手まといを連れてきたってのか? おまえゴミ過ぎんだろ……お前が負けたらあいつらが酷い目にあうってのに……」
「どのみちわたしがここで負けたら、世界は滅亡するだろうしそれが早いか遅いかだけだよ」
もうやだ……意味分かんない……それで俺達がアルーインさんの覚悟になれることが……人を思う心がなきゃそんなのありえないのに……俺達を餌みたいに使うのは人の心ないでしょ……
まぁでも、実際そうでもしなきゃ、アダムには勝てなかったか……
頑張ったな。アルーインさん。
「はいはい、負けた負けた。オレの負け、勝てる気がしないわ。テメェら! オレら紅蓮道嵐はこれより灰王の傘下に入る。意義のある者はオレの決闘を穢した罪で殺す、以上!」
こうして決闘は終わった。互いに傷だらけだったアルーインさんもアダムもあっさりと回復魔法で完全復活して、それぞれの拠点に戻った。
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