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105/105

105:やりたいこと


「めっちゃ平和だ……仕事が前の半分以下、殆どが復興支援になって、戦うことなんて魔物対策だけだ」


「ははは、いやぁシャヒル様々よ。望濫法典を壊滅させて、ベイカルも救っただろ? 今じゃ英雄扱い、そんなシャヒルの知名度で守護連合に入りたがるヤツも増えて、人手も足りるようになった。ま、子育てを始めたお前さんからすりゃ、仕事が楽になるのは丁度良かったってもんだ」


「あうー」


「おお! ちょっと待って、ミルクだろ今から用意を……」


 守護連合の本部でコーマさんと雑談していた所、例の赤ん坊が泣き始めた。おそらくミルクの時間だ。


「モウ、ヨウイシトイタ」


 ミルクを作りにいこうとした所、ブラビーが俺にミルクを手渡してきた。ゆ、有能だ……こいつとこの子が一緒にいるってのも、なんだか感慨深いな。


 ミルクの温度を確認、丁度いい温かさだったので、そのままミルクを赤子に与える。


「そういや、まだ名前決めてないんだっけか? 早いとこ決めないと不便だぞ?」


「ああ、うん。この子女の子みたいでさ、どういう名前がいいんだろうって悩んじゃって、男の名前だったら思いつくけど、女の子の名前は難しい」


「思いつかねぇか~じゃあ神の知り合いもいるんだから、神に名付けてもらうってのはどうだ?」


「でもディアンナにまともな命名センスがあるとは思えないんだよなぁ~」


「はは、そうだな!」


「おーーっす! 久しぶり! ヒーロー! 今じゃみんなが認めるヒーローだな!」


「あ! 死克の聖女、ロイスさん!? 久しぶりです! それと隣にいる方は?」


 元気な声が響く、声の主を探して見つけると、それはロイスさんだった。その隣には知らない顔の少女がいる。目付きの悪い、ギザギザの歯の少女だ。髪色はロイスさんと同じく真っ赤で、ぱっとみ、ロイスさんの妹に見える。


「おいおい、吾友よ、吾輩を忘れるとはけしからんぞ! 吾輩こそ、新生ウルガノンである!」


「ええー!? あのドロドロした鉄の化け物みたいな感じのウルガノン!? それが、こんな女の子の姿に……」


 いやまぁ、悪そうな顔つき、声がデカくて煩いという共通点はあるけど……それでも変わりすぎだ……


「女の姿をしておるが、吾輩に性別は存在しないぞ。男にだってなれる! しかし、こっちの方が色々と都合がよいのだ。男の姿だと怖がられる、最悪魔物扱いだ」


「そりゃ災難だったな。けどこっちに来たってことはベイカルの方は落ち着いてきたの?」


「うん、あの戦いの後すぐ、ウルガノンが再誕して、依代さえあればこっちの世界でも活動できる感じだったから、神パワーであっさりだったよ。ボクの方は住人達の仲裁とか、悩みを聞いたりとか、そんな感じでさ、問題としては鉄の力で街を復興したから、街が鉄だらけになったことぐらいか」


「けど凄いね……街をそんなあっさり復興できちゃうなんて。やっぱりあれかな、ベイカルでミスリルドラゴンが鉄化して倒れたのもあって、新生ウルガノンへの信仰心が最初から結構高かったのかな?」


「うむ、その認識で間違いない。それはそうとシャヒルよ、実は先程の話を吾輩、盗み聞きしておってな、吾輩がその赤子に名を授けてやってもよいぞ!」


「い、いいのか? お前とも因縁がある子だけど……」


「はははは、死んで生まれ変わったんだろう? ならそれで終わりだ。それで終わりにしないと、殺し合いが永遠に続く、神ならばそれにも耐えられるが、地上の命はそうじゃない。一つ聞こう、その赤子の名にどんな願いを込めたい?」


 ウルガノンが少女の姿で豪快に笑う。やっぱりこいつは、なんというか、さっぱりとした性格だな。


「うん、人を大事にして、大事にされる。そんな幸福を手に入れて欲しい。それが願いかな」


「よし! わかった! ならこの子の名前はシロガネだ!」


「プラチナってこと?」


「絆を生み出す力を持つ金属である。それに、この子はカッコイイ感じの名を望んでいるようだからな」


「えっ、わかるのか?」


「まぁ再誕し、今は強い力を持っておるからな、それぐらいは余裕だ! はははは」


「あぶ、あーぶ!」


 赤子、シロガネは喜んでいる。どうやらマジらしい。


「今日からお前はシロガネだ。これからもよろしくな! よーしよしよし」


 頭を撫でてやると、シロガネは喜んだ。少し照れくさいのか、それともくすぐったかったのか、赤子にしては複雑な表情をしている。



◆◆◆



「シャヒル君、最近はいつもその子を背負っているね」


「離そうとすると怒るからね。最初から懐いてくれてた感じだけど、ここ最近は遠慮がなくなって来たよ。気づくと俺の服だとか髪だとかを引っ張ってね、俺が見ると手を離すんだ。何もやってませんけど? みたいな顔してさ。きっと相当賢いんだろうね」


「まぁ、シャヒル殿に魂を救われたわけだから、そう懐くのも無理はない」


 夜、いつもの如くアルーインさんが俺の部屋にやってきて雑談なり報告をしているのだけど、以前とは違いがある。


 それはこの日課というか業務に、エリアちゃんが参戦していることである。エリアちゃん曰く、監視をしているとのことだ。俺が何故かと聞くと、エリアちゃんはアルーインさんが危険だからと言っていた。どう危険なのかを聞いても答えてはくれなかったが……


 ただ言えることは、この空間が気まずいということ……二人共、俺とは話すが、俺としか話さないし、二人共世間話は下手だ……


「あぶ、あぶ!」


「あーはいはい、ミルクね!」


 シロガネにミルクをせがまれ飲ませようとするが、あれ? 飲む気配がない……ま、まさか気まずさに耐えかねている俺を気遣って、お腹が空いたフリを? いや、まさかな……流石に?


「あぶ」


 しかし、そんな俺の目線に対して、肯定するかのように、シロガネは声を出した。


「おーよしよし」


 どうやら本当に俺を気まずさから守ろうとしているらしい。いい子だほんと……まぁ生まれ方も普通ではなかったし、そもそも不思議世界であるこの世界なら、それほどおかしいことじゃないのかもしれない。


「そうだ、俺やりたいことができたんですよ」


「やりたいこと? シャヒル君が自分からっていうのは珍しいね」


「まぁ平和になったし一段落ってことで、俺……地元を、最初の町【ロンプラ】を復興しようと思うんです。あそこは殆どの住民が死んでしまったから、忙しい中で、復興させる優先度は低い、だから今まで、そういった計画を立てられなかったけど。俺、あそこが好きで、思い出のある大事な場所だから、今、平和になった今なら、復興させることだってできるかもって。その、できれば……二人にも手伝って欲しいなって」


 ロンプラ、俺の一番のお気に入りだった町。巨大な稲が生い茂る、キノコで出来た建造物と、カビを栽培するネズミ達の町、幻想的で、どこか温かみのある町だった。ガルオン爺と出会い、俺が育った町。


「もちろん!」


「当然」


 二人共即決だった。また忙しくなる。だけど、いやな忙しさじゃない。ロンプラを復興すると決めた後に見た夜空は、少し前よりも、綺麗に見えた。



これで第一部完結となります。一段落ついたということで、しばらくは連載休止になるかと思います。ここまで読んでくれた方に感謝です!


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