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103/105

103:不完全性



「ディスペルが消えた。魔法の詠唱を妨害する効果の影響を受けずに、魔法を使った。自分以外にしか使えないっていうのは嘘なのか?」


「分からないけど、嘘だったとしてもおかしくないし、それは真実だったとしても同じ……少なくとも、この世界の神達と同等の力を持つミスリルドラゴンロードと一体化したのなら、奇跡を起こせてもそれは自然なことかもしれない」


 神と同等の存在と融合、そして世界を破滅させかねないラスボスとも融合……モラルスは神と悪魔、どっちの力も手に入れて、アルーインさんを手に入れようとした。


 とんでもない情熱だな……どうしてそこまで執着するのか分からない。アルーインさんのことが好きで仕方がないとしても、当の本人であるアルーインさんが嫌がっていたら何の意味もないと思うんだけどな。


 人の心、考えを思い通りにできる、そんな思い込みがあるのかもな……自由な考えを奪って誘導した答えなんて、偽物でしかないのに……あまりにも虚しい……


 俺には理解し難い……けど、モラルスにはきっと、そうするだけの理由があるんだろう。


「モラルス、どうしてそんなにアルーインさんに執着するんだ。何がそんなに好きなんだ……? どうして、そんな、苦しい思いを、強く持ち続けられるんだ」


「……どういうつもりかな? シャヒル、君の思考回路は、僕には理解しがたい。けど、いいだろう。僕の正当性を伝えるために教えてあげよう。僕はね、おかしいんだ」


 まぁそれは知ってるけど……


「でも心じゃない、体だ。僕の心は、少なくとも、幼少の頃は、普通の範疇だった。心の形は割りと普通だったからね……でも僕の体は違った。僕の体は、脳は、悪党になるための仕組みを持ってた。我慢ができなかった。自分の中の悪意を、抑えることができないようになってた。悪意だけが強く大きく、成長するようにね……だから、最初心は普通だったんだけど、僕の肉体に汚染されて、僕は一般的な認識で言う悪党になってしまった」


 モラルスがチャージをやめた……話すことに集中してる? もしかして、モラルスも誰かに自分のことを話したかったのか?


「欲望のままに犯罪を犯した。それを気づかせなかったり、なかったことにできる権力や才能があったから、だーれも僕を止められなかった。自分自身でさえも、だけどさ……僕は彼女に、アルカに出会って、初めて、自分の悪意を、抑えられたんだ。まるで、僕の中にある、悪意に埋もれてしまった人間の僕を見つけてくれたかのようだった。普段の僕だったなら、気に入った顔の女がいれば、殺したり犯したり、やってはいけないとされることを、すぐに実行したはずなのに、僕はその欲求を抑えられた。どうしてかは分からない、だけど、彼女は僕を殴りさえしたのに、僕は、僕は彼女を許し、悪意を向けることを、抑えられたんだ」


 迷惑かけてるから抑えられてるとは正直言い難いけど……でも、そうか……モラルスからすれば、それは奇跡に等しいことだったんだ。


 不可能を可能とする、天使、あるいは女神、モラルスにとってのアルーインさんはそんな存在だったのかもしれない。


「少しだけ、お前のことが分かった気がするよ。モラルス……お前は、アルーインさんを人として愛してはいなかったんだ。自分を救ってくれる、人を超えた、奇跡の存在、信仰対象だったんだ」


「信仰対象? ああ、そういう捉え方もあるのか。だとして、何か問題でもあるのか?」


「モラルス、この人は人間だ。駄目な所だっていっぱいあった。お前にだって見えてたはずだ、人間だって気づけたはずだ。でも見えなかった……誰かに助けて欲しくて、その希望を捨てたくなくて、アルーインさんが人間であることから目を逸らした」


「黙れ!! 何が駄目だって言うんだ! 彼女は、アルカは完璧だ! 彼女は天使なんだよ! 人を超えた存在だから、俗世の下等な人間とは乖離がある、ズレがあるに過ぎない……! それは当然の話じゃないか? お前は、何を言っているんだ!?」


「でも……アルーインさん、我儘だし、自己中心的だ。好きな少女漫画の世界観を再現する、病的なロールプレイをして現実逃避したり、都合が悪くなると逃げるし……俺はいつもこの人に振り回されてる」


「え、ちょ……シャヒル君!? 君、わたしのことをそんな風に思ってたの……? えっ……? 表向きしょうがないなぁみたいな雰囲気出してるけど、心内ではわたしのことが大好きで、なんでも言うことを聞いてあげたいと思ってるんじゃないの!?」


「このように夢見がちな一面もある。モラルス、目を逸らすな。これがお前の信仰する者の一部、切っても切り離せない、彼女の大事な心。彼女が人間であることを示す、俺達俗世の下等な存在と、近い部分だ」


「黙れ! 黙れ黙れ! うるさいうるさいうるさい! 彼女は、完璧だって言ってるだろう?」


「どうして完璧じゃなきゃいけない。お前も不完全だから、救いや愛を求めたんじゃないのか!? 完璧な存在なら、誰も必要ないはずだ。本当にアルーインさんが完璧なら、お前が求めたって、何も返ってくることはないんだぞ? 誰も必要ないのなら! 誰も愛さない! 俺は知ってる。救いを求め、孤独を感じていたのは、モラルス、お前だけじゃない……! お前が求めた、その女も、同じだったんだよ!! 俺は、アルーインさんが救われて欲しいと思う。人に愛される存在てあって欲しいと思う。だって悲しいよ……大して世界を救いたくもないのに、ちょっとした義務感で、人のために、世界をずっと救い続ける事、それを当然のようにこなし続ける、馬鹿みたいに不器用な人が、ただの一つの幸せも手に入れられない! そんな理不尽を、俺は認めたくない」



「……ああ、そうか……それがお前の心の形なのか……ただの人のようで、目を焼くほどに眩しい光を胸に隠して……気に入らない、最悪な気分だ……僕は間違っていないはずなのに、そうじゃない気がしてくる……正しく見える……お前が……──の側にいるのに……けどもう止まれない。どのみち、誰も僕を止められない!! 愛すら失った僕に、残されたのは絶望だけだ!! この世の全てを、道連れにしてやる!! 全部、全部、無価値にしてやる!」


 モラルス、強化白タルタロスがチャージ行動を始める。これまでずっとチャージを中断させられていたが、今のこのチャージは気迫が違う。モラルスの強い憎しみ、怒りを感じる……もう、アルーインさんのことも消し去るつもりなんだ。


 それはモラルスが、アルーインさんが人間であることを認めたってことで、モラルスはただ一つの目的、全てを殺すことだけに集中するということ。迷いはない、結果的に俺がヤツの殺意を純粋化させたことになる……


 白タルタロスのチャージが進む中、みんなそれを妨害するために、それぞれの最大火力を持って白タルタロスに攻撃する。


 けれど、それは全て防がれる。本気になったモラルスは、チャージ中に人間としての部分で防御魔法を発動したからだ。あの白タルタロスは、アルーインさんのプレイヤーキャラのコピーとモラルスのプレイヤーキャラ、ミスリルドラゴンロード、そしてタルタロスが融合した存在……融合した要素は内包されていることになり、モラルスはそれを扱えるようだった。


 アルーインコピーと人間態モラルス、それぞれが二重詠唱を行えば、実質的に四重詠唱を行える。モラルスもアルーインコピーも最強クラスの力を持っている……つまり、その防御は完全防御と言えるレベルとなり、白タルタロスのチャージは完了する。


「シネエエエエエエエエエ!!」


 白タルタロスの真っ赤な光の収束が終わり、咆哮と共にその胸から黒と赤のオーラが解き放たれる。オーラは変幻自在に形を変える、まるで生き物のようなビームとなり、俺達を焼き殺す武器、そして白タルタロスを覆い守る無敵の鎧にもなった。


 俺達の攻撃は無敵状態である白タルタロスに一切のダメージを与えない。そして、鞭のようにしなるビームは守護連合の仲間達、俺とダクマ、アルーインさん以外のメンバーを一撃で死亡させた。ビームに溶かし切断された断面は焼けて、戦場に黒煙が充満している。


 一気に状態が悪化した……


「ふ、ご丁寧に無敵の効果時間は分かりやすいんだな。徐々にオーラの色が薄くなっていってる……まだまだ効果時間は長そうだ」


「……チャージ攻撃が成功してしまった……あれが成功してしまうと、殆どのパーティーはタルタロスの討伐に失敗した。犠牲を出す覚悟が必要になるかもしれない……」


 アルーインさんの顔が暗くなる。闘志は失われていないが、これまでずっとラスボスを倒し続けて来た人の言うことだ、マジでヤバイんだろう……


「俺、あいつのクロノ・ヴァースをどうにかしないとずっと思ってたけど……それは違ったのかもしれないです」


「え……? けど、あれを攻略しないでどうやって……」


「アルーインさんには見えないかもしれないですが、俺には見える。きっと、エリアちゃんにも……モラルスは魂のダメージをクロノ・ヴァースで治せていない。エリアちゃんのクリスタル・パレスで受けたダメージ、魂の一部が凍りついたまま……モラルスは怒りと憎しみで純粋化したから、自分を偽ることができなくなって、魂のダメージを隠せなくなったんだ!」


「……魂を治せないなら、魂にダメージを与えれば倒せる!」


 魂と精神は似て非なるモノだった。精神は肉体に付随する魂と肉体を繋ぐ経路のようなモノで、魂はその存在の源泉……言ってしまえば精神の心臓だとか、エンジンのようなモノなのかも。


 モラルスは肉体の一部である精神をクロノ・ヴァースで巻き戻すことで魔法の使用回数を復活させていたわけだ。そして──


「アルーインさんのディスペルは効いていた。消えていたわけじゃない……モラルスも、エリアちゃんと同様に、魂、精神体だけで魔法を扱えた。あの白タルタロスの肉体から離れた本体である魂自体が、クロノ・ヴァースを使っていたんだ!」


 最初から、狙うべき場所が違った。俺達が討つべきだったのは、モラルスの魂そのものだったんだ。





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