102:第二形態
「第二形態……アルーインさん! 警戒すべき行動は?」
「タルタロスの第二形態はチャージ攻撃をしてくる。一定以上のダメージを与えられれば、攻撃を失敗させられるけど、チャージが成功した場合、攻撃中無敵になって、一切ダメージが通らなくなる。しかも……チャージ中に使った魔法の使用回数消費を二倍にしてくる……」
「じゃあできれば魔法を使わずにチャージの解除を狙った方が?」
「それは無理でしょうね。使用回数倍増は、チャージ行動中の回復や強化魔法にも適用される……相手は強い、強化や回復を渋って戦えば待つのは死だけ、魔法を使って大火力で確実に解除を狙わないといけない」
……まぁそりゃそうか……そんな舐めプみたいな温存策が通用するならラスボスなんてやってられない……ということは、長期戦は絶対に無理、短期決戦で終わらせるしかない。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
強化タルタロスの第二形態、白タルタロスが咆哮する。なんだ? もしかしてチャージ攻撃……? いや、違う……なんだこれは……?
これは……銀色の……鏡像? 戦場の何もなかったはずの場所、俺達の眼の前に、銀色の人影が現れた。それぞれ、目の前にいる者の姿を写している。
「ミラースピリット、プレイヤーの劣化コピー。複雑なスキルは真似してこないけど、連携はしっかりしてくる……ステータスは本物と殆ど変わらない、気をつけて!」
なっ、嘘だろ……? 俺、アルーインさんの近くにいるから、すぐ近くにアルーインさんのミラースピリットがいるんだけど!? 明らかに俺を狙ってる……当然か、倒せるヤツから、弱いやつから倒すよな……
アルーインさんのミラースピリットは、俺の予測通り、すぐさま俺に仕掛けてきた。それをアルーインさんが弾く、弾いた、弾いたけど……
──ギギン、ギギギギィ!
アルーインとそのコピーの剣戟は殆ど互角で、鍔迫り合いの状態、膠着状態となってしまっている。
「……そうか、ディスペル、魔法解除の魔法を魔法剣に……一種類の魔法なら、複雑じゃないってことなのか? なら俺は、俺の方と戦わないと……」
俺のミラースピリットが俺を狙って攻撃してくる。っく、早いな!! 反応はできるけど、面倒なヤツだな!! こっちが攻撃を狙うと、距離を取って状態をリセットしてくる……
「──ルオオオオオオオオオオオン!!」
白タルタロスが赤く光る。そして、光はヤツの胸に収束していく、これは見るからに……
「これ、チャージ攻撃か! 馬鹿なのか!? こんな状態でどうやって妨害すればいいって言うんだ!」
俺は軽くパニックを起してしまう。まるで手が足りない、しかもそれは俺とアルーインさんだけじゃない……他の守護連合のメンバーとダクマもだ。一体誰が、ミラースピリットの妨害をくぐり抜けてタルタロスのチャージ攻撃を中断させるんだよ!
混乱すれば、それは当然隙となる。その隙を、俺のコピーは見逃さなかった。俺のミラースピリットの攻撃が俺に直撃してしまった。
「──あれ? 全然ダメージがないぞ……」
──ペシペシペシペシ。
迫力のない音が響く、俺のコピーの攻撃は、まるで威力がなかった。
「そうか、俺の火力って……俺の固有スキル、疾風の迅脚Sに依存してたから、あれが再現できなかった場合、ただの低火力扇風機なんだ……劣化コピー、不完全な形だから、速度だけしかコピーできなかったんだ! だとするなら!」
「おらあああああ!!!! 余に憧れようとも無駄よ無駄ァ! 何人たりとも、余を再現することなど不可能としれぃ!」
ダクマが、自身のミラースピリットを砕き、倒した。当然だ、とても再現できなさそうなチートスキルばかりのダクマが、劣化コピーに負けるわけがない。再現できないものだらけということは、本物とコピーでは圧倒的な差があるってことだからな!
ダクマが、次々と他のミラースピリットを破壊していく。
「っく、流石ダクマ。わたしと違って、なんの苦労もないか!」
アルーインさんと俺は同時にそれぞれのミラースピリットを倒す。俺は疾風の迅脚Sによる斬撃エネルギー塊の罠で、アルーインさんは単純な戦闘の駆け引きで。
アルーインさんの固有スキルは条件つきの洗脳だから、ミラースピリットには有効じゃない。ミラースピリットには意志もなさそうだし……けど、そうか、ミラースピリットは器用さのステータスを写すから、技術的には互角だけど、ステータス換算されない、バトルセンス、駆け引きの部分で上回れば、そこで勝てるのか。
じゃあ、バトルセンスがミラースピリットよりもない人だったら、一対一で負けることもあるのかな?
「──【終末穿孔】!」
『──【クリスタル・パレス】』
ミラースピリットを倒してすぐ、アルーインさんは槍の最強技である終末穿孔をチャージ状態の白タルタロスへと放つ。槍は螺旋を描きながら、空を切り裂いていく。
そしてもう一つの攻撃、クリスタル・パレス。それは氷の究極魔法──エリアちゃんの魔法だ! クリスタル・パレスは魔法でありながら、チャージ時間を必要とする特殊な魔法で、詠唱にも時間が必要。だけど、精神体でこの魔法を詠唱するエリアちゃんを妨害できる存在は、この戦場には存在しない。
エリアちゃんは自分のミラースピリットを生み出されることもなかったし、他のミラースピリットに妨害されることもなかったから、安全に、確実に、この魔法を使えたってわけか。
実践で使うことが難しい、使うならトドメのタイミング、そんな扱いづらい魔法が、なぜ究極魔法と呼ばれるのか? 俺はそれを目の当たりにする。
水色に美しく、透き通った氷は、氷であるはずなのに、まるで水のように、滑らかに、その形を変え、空間に魔法の力を伸ばしていく。植物の根のように、それは広がって、この戦場全てを覆う、籠となった。
籠の中で、空気が凍って、結晶化していく、結晶は地へ降り注ぎ、敵対する存在を凍らせる。
敵の体、魔力、精神を凍らせる。肉体以外をも凍らせ、凍らせた後、その結晶は自壊する。その存在に罅を入れ、割って、砕く。
「──グオオオオオオオ!?」
クリスタル・パレスで凍り、体内から破壊された白タルタロスに、終末の槍が追撃を加える。白タルタロスの肉体が粉々に砕け散り、槍に付与されたアンチ・ヒールが、敵の希望を断つ。
きっとこれは、ラスボスを設計した開発の想定を遥かに超えた威力の攻撃のはず。実際、もう白タルタロスは消滅寸前に見える。白タルタロスの体が粒子状に分解されていってるからだ。
「──あ、ああ、あああぁ……やっとだ。やっとこの力を完全に制御下に置けた。僕の魔法を使える【クロノ・ヴァース】」
「え……? あいつ、言葉を……──」
タルタロスになってから人語を話すことがなかったモラルスが、モラルスとして、言葉を発した……制御下に置けたって、魔法が使えるってどういうこと──
「──は……? 嘘……だろ?」
俺だけでなく、モラルス以外の全ての者が、目を疑った。モラルスが、白タルタロスが……”完全回復している”
しかも、赤い光を収束させている。チャージを、続行していた。
「そんな、回復魔法は効果が下がるはず……明らかにレジストされていなかった、なのに、なんで……」
そうだ、アルーインさんの言う通り、やつにはアンチヒールが掛かってるはず、なのにダメージを全回復させた? というか、デバフの影響も残ってない?
「アルカ、逃れられない運命というのもあるんだよ。諦めて、僕のモノになりなよ。僕の固有魔法、クロノ・ヴァースは、自分の時を戻せる。巻き戻してなかったことにできる……ま、記憶はあるけどね……タルタロスの力が完全に僕に馴染んだ今、僕はこの体の状態で、自分の時を戻せる……そして、時を戻せるということはね? 僕は、自分が使った魔法の使用回数すらも、復活させられるってことなんだよ。短期決戦だろうと、長期戦だろうと、全ては無意味だ」
なんてこった……時自体を戻すから、アンチ・ヒールの効果を受けないって? それに、魔法の使用回数まで……で、でも、そんな強力な魔法、クロノ・ヴァース自体の使用回数は復活できないんじゃ?
「おいおい、シャヒルだっけ? 君が希望を持っちゃ駄目だろ? 君はただ絶望することしか許可されていないんだ。それを理解しないと……つまりさ、何が言いたいかって言うと、クロノ・ヴァースは、それ自体の使用回数をも復活させるってことさ」
……そんな、どうやって勝てばいい……こんなの無敵じゃないか……チャージ攻撃を成功させずとも、あいつは無敵だ。チャージ攻撃を失敗させても、俺達の延命ができるだけ、結果は変わらないのかも。
「──黙れ!!」
「ヒッ……!」
アルーインさんが怒鳴る。び、びっくりした……とんでもない圧力のある声だった。どうやら、びっくりしたのは俺だけじゃなく、守護連合の男連中とモラルスもだった。なんなら、モラルスが一番ビビっているように見えた。
「絶望で退路を断つつもり? 馬鹿ね、どのみち抗う以外の選択肢なんて、最初から存在しない。それに……お前の目的が分かった今、わたしは負けられなくなった」
目的……? アルーインさん、モラルスの目的って、何が分かったんだ? モラルスが話したことと関係があるのか? モラルスの言葉を思い返してみる。
あいつ、まだアルーインさんに、自分のモノになりなよとか言ってた。さっき、タルタロスに変貌した時は、明らかにアルーインに対しても殺意を向けていたのに……いや、今だって、殺意はアルーインさんに向けられてる……
殺すのに、自分のモノにできるのか……? 殺した後自分のモノにする? どうやって……
「ま、まさか……お前、モラルス……アルーインさんと一体化して、時を戻すつもりなのか……アルーインさんが、自分のモノとなるよう納得するまで、繰り返すつもりか! だから……だからアルーインさんの体と親和性のある、プレイヤーキャラの体を再現した……アルーインさんと繋がるための、触媒とするために……」
「名探偵が二人もいて助かるよ。絶望が明確となり、未来は固定される。最善を尽くそうと藻掻けば藻掻くほど、最善手しか、一つの選択肢しか選べなくなる。このクロノ・ヴァースを打ち破る策を考えるしかなくなる。ならこちらもその対策をすればいいだけだって言うのにねぇ」
──ズガアアア!!
終末穿孔が白タルタロスを貫く。今度はダクマの魔王拳も合わさって、白タルタロスのチャージ攻撃は中断される。
しかし──
「──【クロノ・ヴァース】」
モラルスの固有魔法で時は戻る。モラルスはなんのダメージも受けておらず、チャージを再開する。アルーインさんは終末穿孔にディスペルを付与していた……だけど……モラルスのクロノ・ヴァースには意味をなさなかった。
魔法自体に、魔法を守る力でもあるっていうのか? ディスペルが適用される前に、時を戻した? ……確かにそれっぽいけど……でも、だとすると、ディスペルはどこに消えた? だって、時を戻すっていうのなら、結果が生じた後に戻すわけで……時を戻すにしてもディスペル自体には干渉できないはず……というか、実際槍は食らってたわけで……
本当に……時を戻すだけの魔法なのか?
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