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101:ラスボス


「待って、俺そんなの知らな──」


 俺がそんなの知らないと言葉にしようとしたら、アルーインさんにキスで言葉を遮られた。な、なんてこった……こんなチュッチュしてる場合じゃないだろ!!


「怒らせちゃったし、死ぬかもしれない。だけど、それでも後悔はない。けど、負けられない……未来を見るって決めたから」


 死ぬかもしれない……そうか、アルーインさんがわざわざモラルスを挑発して、怒らせなければ、アルーインさんも俺達もモラルスに殺されない可能性があったのか。


 俺はともかく、他のみんなを巻き込むのはちょっとやめて欲しかったな。全くとんでもない人だ……


「まぁ、モラルスを倒すために命を掛けるって約束しましたから、ついでにアルーインさんの未来も守りますよ。一緒に戦いましょう!」


 爆発したモラルスから黄金と黒の精神エネルギーが噴出する。それは中身が全て出てしまいそうな程の量で、エネルギーの噴出が止まったと同時にモラルスの肉体は倒れた。あれは、きっともう抜け殻……


『ああああああ!! 死ね、死ね死ね死ね!! 許さない!! ただの女になった天使に価値はない! もう、意味はない! 全部だ! 全部、滅んでしまえばいい!』


「っ、頭がっ……変な声の響き方……」


「アルーインさんにもこの声が聞こえるの? もしかして、ミスリルドラゴンと融合して半神のような状態になってるから……強すぎる力の影響で普通の人でも分かるようになったのか?」


『創造するんだ! 世界を壊す、災厄を!』


 また渦を巻くモラルスの精神体、今度は何度も形を変えることはない。一度だけの変化、そして、その見た目は俺の知っている姿だった。


 知っているだけの姿、実際に見たわけじゃない。ロブレの攻略情報を見ていた時、知った姿、ロブレのエンドコンテンツ、通称ラスボス、リバース・ピラミッドの災厄の魔神。


「災厄の魔神、タルタロス!!」


「いや、似ているけど、そのものじゃない。あいつには顔がないし、手に棘が生えてる……タルタロスをベースに強化した存在?」


 強化タルタロスとでも言う存在になったモラルス。真っ黒な人型に黒い翼と青い炎を纏っている。そしてアルーインさんの指摘する通り、その顔には大穴が空いていて、向こう側が見え、手のひらから貫通するように棘が生えている。


「やっぱり……あいつの魂、人格が残っていた。人形を操作するみたいに、あれを操ろうとしていた……気持ち悪さを感じるわけね」


 アルーインさんがモラルスの魂が抜け、抜け殻となったアルーインのプレイヤーキャラそっくりの男の体を見る。


 そうか、モラルスの人格が残っていて、ラスボスに変身するほどの力を持っているのなら、いつ元のモラルスの影響が出てきてもおかしくなかったのか。罠だな……アルーインさんは長年の付き合いから、モラルスの気持ち悪さを知っていた。女の直感というヤツが、モラルスの罠を見抜いたんだろう。


「さて、流石に強化されたタルタロス相手じゃ、わたしとシャヒル君だけで倒すのは難しい。復活した皆の力を借りる。シャヒル君はみんなを起してきて! わたしは時間を稼ぐ」


 ──バギン!


 アルーインさんが俺の手足を拘束していた魔法の鎖を剣で断ち切った。それもっと早くやって欲しかったなぁ……


「了解です!」


 俺は返事をすると同時に走った。全速力で、みんなの元へ駆け寄って、魔法を使う【シトル・ウィンド】──精神系状態異常を緩和する風属性回復魔法。風属性、魔法、使用回数制限11/12。


 まず回復魔法が得意な守護連合の仲間と、エリアちゃんにシトル・ウィンドを使用した。この魔法は気付けのように使うこともできる。


 シトル・ウィンドで目覚めた仲間たちに指示を出す。敵がリバース・ピラミッドの最終ボスの強化版のようになったことを伝え、他の者達を目覚めさせ、各種バフ魔法を使用して態勢を整えるように指示する。


 ──バゴォン!!


 アルーインさんが攻撃を軽減する魔法【光鱗障壁】の魔法剣で自身の剣と槍をエンチャント、強化タルタロスの攻撃を軽減しながら防いだ。


 けれど、ダメージを殺しきれてない、アルーインさんは貫通ダメージを受ける。結構なダメージを受けている……しかも強化タルタロスの攻撃には、どうやらアンチ・ヒールと同等、回復効果低減の力があるみたいだ。


「【カース・ブレイク】! 【ウォーター・ヒール】!」


 しかし、すぐにエリアちゃんがアルーインさんのアンチ・ヒール状態を解呪、回復魔法でアルーインさんの体力を最大まで回復する。


 エリアちゃんがアルーインさんを支援したことで、強化タルタロスも、アルーインさんと俺以外の敵を認識、両腕を大げさに広げ始めた。明らかに今から範囲系の大技使いますって感じだ……!


 強化タルタロスの手と羽から青色のビームが発射される。とんでもなく太い、避けるのが不可能な空間全体を覆うようなビーム、ヤバすぎる……


「無駄無駄ァ!!」


 ──バギィイイ!!


 強化タルタロスのビームが弾かれ、大きな音が響く。その影はビームから俺たち全員を庇うように立っていた。


「魔神だぁ? 余は魔王だぞ!! 魔神すら従える程の力を持つから、魔王と呼ばれるのだ! ははははは! ひれ伏せぃ!!」


「ダクマ!! 助かった!」


 強化タルタロスの動きが止まる、表情はないが、ダクマのチートっぷりに困惑しているように見えた。どのみち、あいつはダクマの対策を考えなきゃいけない。


 ──フィイイイイイイン!


 強化タルタロスが振動し始めた。様々な色の魔力の波動が波紋となって、タルタロスから滲み出ている。


「強化魔法……? タルタロスに形態変化はあっても、強化魔法を使うことなんてなかった……けど、当然かもね、モラルスが中身なら、そういった選択肢が取れる」


「つまり、強化された物理攻撃、戦技スキルで俺達と戦うつもりか!」


 アルーインさんの言う通り、強化タルタロスが魔法で自己強化するなら、そのステータスはとんでもないことになるはずだ……


 基本的に強化魔法はステータスを割合上昇させる。ボスモンスターは元々ステータスが高い、さらに言えば、相手はラスボスのステータスを元にしている。馬鹿げてる……多分、本家タルタロスが強化魔法を使わなかったのは、そうすると強すぎてバランスが取れないからじゃないか?


 何にせよ、単純な物理攻撃じゃ、ダクマの魔法無効化は活かせないし、残念ながら、防御特化の仲間は今ここにいない……きっと相手は通常攻撃だけで余裕で俺達を殺せる……ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!


「く、来るか!!」


 強化タルタロスが俺たちに向かって突進してくる。このままだと俺たちは普通に全滅してしまう、ならまずは時間を稼ぐ、こいつを倒すことを考えるよりも、まずは策を考える時間が欲しい!


「──【ターニング・ポイント】!!」


 ──【ターニング・ポイント】:補足した対象にクイックターンを使用する。風属性、魔法、使用回数制限なし。


 強化タルタロスに俺のオリジナル魔法を使う。タルタロスが移動しようとする瞬間にクイックターンを発動するようにして、その場にとどまり続けるようにする。


 よし、とりあえず時間は稼げてる。でも、モラルスは賢いって話だ、すぐに俺のターニング・ポイントを攻略してくると考えた方がいい。


 それまでに俺達もあいつをどうにかする方法を考えないと……


「シャヒル殿……おそらく、私とシャヒル殿はヤツと同じことができる。死んだ後でも、魂が消滅していないなら、魔法が使える。私はそれを活かすつもり、だから信じる。あなたが勝つと」


「え、エリアちゃん!?」


 ──ブオン!


 エリアちゃんは走り出した。強化タルタロスが腕と翼を振るうことで生み出した斬撃波から、俺たちを庇って、死亡した。


 それはつまり、今から一時間以内、蘇生制限時間内に、ヤツを倒さなければ、エリアちゃんは本当に死んでしまうということ。エリアちゃんは……躊躇しなかった……俺たちに託すことを……


『ほら、思った通り、自由に動けるし、魔法も使える! 【アイス・ウォール】!』


 アルーインさんもダクマも、守護連合の他のみんなも驚いている。みんなからすれば誰も詠唱していないのに、アイス・ウォールの魔法が展開されたからだ。


 エリアちゃんが魂の状態で発動したアイス・ウォールは氷のオブジェクトを生み出す魔法。これに各種防御魔法を組み合わせれば……いくらか強化タルタロスの攻撃を防げるはず。


 もし、エリアちゃんが生きていたままなら、連続詠唱しようとした瞬間に、強化タルタロスがエリアちゃんを攻撃して止めに来ただろう。


 けれど、エリアちゃんはすでに死んでいるうえに、敵は魂となったエリアちゃんに干渉する術を持っていないようだった。精確に言うと、魂となってエリアちゃんを捉えられないように見える。


 敵がエリアちゃんを捉えようとすると、その瞬間にエリアちゃんは敵の認識の外へと移動する。説明が難しいが、そんな感じに思える。


 ともかく、この状態のエリアちゃんの魔法を、強化タルタロスは止められない!


「──オラァ!! 【魔王拳】!!」


 ダクマがエリアちゃんの生み出したアイス・ウォールを活用して強化タルタロスに接近、魔王拳をタルタロスの膝関節を撃ち抜いた。ダクマはインパクトと同時に反動を利用して離脱、アイス・ウォールの影に隠れる。


「エリア! 聞こえているのだろう? 上にも壁を寄越せ!」


 ダクマの要求通り、エリアちゃんが空中にもアイス・ウォールを展開する。空中に展開されたアイス・ウォールは当然落下する。しかし、それこそがダクマの狙いだった。


 落下するアイス・ウォールを足場として使いタルタロスに接近、足場として使うと同時にアイス・ウォールを蹴り出して、攻撃に転換する。まるで氷のミサイルのようなそれは、タルタロスを穿ち、確実にダメージを与える。


 そして──


「──【クロス・ロール】!」


──【クロス・ロール】:二刀流専用、回転して多段ヒット物理攻撃を行う。低威力、状態異常蓄積強化、闇属性、風属性、戦技スキル。


 攻撃を仕掛けているのはダクマだけじゃない。アルーインさんがダクマの攻撃に合わせて追撃する。ダクマとエリアちゃんの氷のミサイルは、タルタロスにノックバック効果を与えていた。そのため、アルーインさんのクロス・ロールに合わせて、槍にエンチャントされた【ナスティ・カース】の威力が強化される。


 ナスティ・カースは状態異常や行動妨害を受けている敵に対して大ダメージを与える魔法、それがクロス・ロールの多段ヒット効果によって何度も何度も発動する。


 それだけじゃない、アルーインさんは二刀流、剣の方にはアンチ・ヒールをエンチャントしている。アンチ・ヒールの回復効果低減効果と、状態異常耐性低下効果は、クロス・ロールのもう一つの効果、状態異常蓄積強化によって、タルタロスを最大限弱体化させる。


 そこそこの威力の攻撃と、敵の大幅な弱体をアルーインさんは一つの技を使う間に行った。そして──


「【クロス・バーズ】!!」


 ──【クロス・バーズ】:二刀流状態の時使用可能。二つの武器で同時攻撃、低硬直、低ダメージ、ディレイあり。土属性、戦技スキル。


 アルーインさんの代名詞でもあるクロス・バーズの追撃が強化タルタロスに炸裂する。両の手に持つ武器に、ナスティ・カースを乗せたそれは確かな破壊力を持って、タルタロスの腹を穿ち切り裂く。


 最大限まで状態異常耐性を低下させられたタルタロスは、クロス・バーズのディレイ効果を延長し、守護連合の仲間たちに一斉攻撃の機会を与えた。


 火、土、水、闇、光、物理攻撃、様々な種類の攻撃がタルタロスに命中し、タルタロスを真っ二つにした。


「オオ、オオオオオオオオオオオ!!!」


 強化タルタロスが雄叫びをあげる。


「みんな気をつけて! 第二形態、強化形態が来る!!」


 真っ二つになったタルタロスの中から、白い悪魔のような化け物が現れた。さっきまでの真っ黒な状態よりもそれは巨大で、俺たちを見下ろした。見下ろす、と言っても、やはり顔はない、顔があるべき場所に大穴が空いているから。けれど、視線を感じる。俺たちを見ている、必ず殺してやるという殺意の目が、俺に突き刺さっているかのようだった。




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