焦燥
キーンコーンカーンコーン
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。同じ教室にいた人は一人を除いて手を止め、机の上を少し整理した。
俺と違うクラスの人たちは問題を解いている子に気を使ったのか無言で教室を出た。
「内山さん、給食の時間だよ。」
「西条君、お気遣いいただきありがとうございます。でも私には時間がないんです。彩桜志望の中では私が一番成績が悪いから誰よりも頑張らないと…。なので、給食当番の子に内山の給食はいらないと伝えといてください。」
「でも、ご飯食べないと健康に悪いし、頭を動かすにもエネルギーは必要だよ。」
「多少は空腹のほうが集中できますし、食後満腹で眠くなるのも嫌なので本当にいいです。」
全く手を止める様子のない内山さんを心配して声をかけてみたが、彼女は頑なだった。
俺は瑠璃、そしてもう一人の田辺さんを見て首を振り、そして黙って空き教室を出た。
教室に戻り給食を受け取ると今日の献立はご飯、生姜焼き、ひじきの煮物、そして牛乳であった。
紬と向かい合わせにした机に戻り手を合わせる。
「「いただきます。」」
「しかし、あれだな。優が中学を卒業して一番嬉しいのは、このご飯と牛乳っていう組み合わせを食わなくてよくなることだろ?」
「そうだよ。今日のひじきと牛乳って組み合わせはひどいよ。どっちも単品だとおいしいだけにすごい残念な感じになってる。」
「いつもご飯と牛乳の時顔しかめてたもんな。」
「え、自分じゃ全然気づかなかった。でも、しょうがないよ。終戦直後の栄養が不足しがちだった子供たちへの貢献は評価するけど、もうあんまり意味ないでしょ。」
紬が振ってきたのだからいいだろうと普段我慢していた愚痴をこぼすと、紬は意外なことを言い始めた。
「俺もそう思ってたけど、今日は牛乳を飲んでもいいかなって気分だわ。」
「え?なんで?」
「いや、俺高校に入ったらボルダリング始めてみようと思うんだよ。そのために今から少しでも体作っとこうかなーって。」
「えーすごい意外なんだけど。今までスポーツとか全然興味なかったのにどうしたの?」
「冬休みに動画見たらすげぇかっこよくて。で、調べてみたら俺が進学する星原台高校にもボルダリング部があって男子の部員もいるっぽいんだよ。優とも離れちまうし、なんか新しいことやろうと思ってたからちょうどいいなってな。体を絞るためにランニングマシン買ってもらって、最近は毎日走ってるんだぜ。」
「かなり本気なんだな。がんばれよ。」
紬の決意に驚いていると給食を食べ切った。
話に夢中であまり味への印象はない。
給食の食器を下げると、食べ終わった瑠璃と田辺さんが話していたので声をかけた。
「何話してるの?」
「あ、優か。内山さんがめっちゃ焦っとるなーってな。」
「まあ、受験一週間前は誰でも多かれ少なかれ焦るのは仕方ないんじゃない?でも、もうあれだけ焦ってたら受験当日に体調崩したりテンパったりしそうで心配だよね。」
「そうそうそういう話をしとってん。」
「なんとかできればいいけど余計なお世話になっちゃうかもしれないしね。そういえば、田辺さんは落ち着いているように見えるね。」
瑠璃とばかり話してしまい、会話に入れていなかった田辺さんにも話を振ってみる。
ちなみに瑠璃は冷静に見えて内心慌てまくるタイプなのだが、適度にガス抜きできれば問題ない。
「私はやれるだけのことはやってるから、これでもしダメだったとしても仕方ないって感じかな。」
「なるほどね。努力量の裏付けか、それは一朝一夕じゃあ身につかないね。」
「確か、あやめって小2のころから週4で塾に通って勉強しとったってゆうとったもんな。年季がちゃうな。」
「それはすごいね。」
「優だっておんなじ様な時期に自主的にいろいろ勉強しとったやん。」
「よくそんな昔のこと覚えてるね。」
転生したことがそのモチベーションなのだが、もちろんそんなこと言えるはずもなく少し誤魔化したところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




