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はじまりのうた  作者: 岡智みみか
21/36

第21話

どの経路からの緊急警報によって駆けつけたのか、間もなくスクールを管轄する成人のチームが現れた。


複数の機動隊ロボが、スクールの施設周辺を取り囲む。


内部のシステムは多くが破壊されていて、外部からの遠隔操作もできず、定点カメラの操作も出来なくなっていた。


ジャンの仲間たちだけが、残された一部のシステムを操作している。


「個人で警報を送って来たのは、お前か」


ディーノは、俺に向かってそう言った。


黙ってうなずく。


イヴァは誰かと連絡を取り合っていて、ヴォウェンの姿は見えなかった。


「そうか、ありがとな。後は俺たちで処理するから、お前はもう帰っていいぞ」


彼がそう言うと、付き従う2体のヒューマノイド型の機動ロボが、変形を始める。


蜘蛛のような形に変化したそれらは、もの凄いスピードで廊下を走り去って行った。


俺たちに、関わるなということだ。


「あたしも行くわよ」


イヴァが追いかけて来て、ディーノの横に並ぶ。


「私のルーシーに何かあったら、許さないんだからね」


スクールの中では、避難誘導が始まっていた。


中にいた人間たちは、次々と外に追いやられている。


「あなたも早く、避難しなさい」


彼女の声を合図に、恐ろしく高性能の機動ロボが、俺と彼らの間に立ちふさがった。


「すぐにここから、退避してください」


その機械の声に、俺は足を止める。


この先は、俺の関わっていい場面ではない。


それぞれのシチュエーションによって、それぞれの役割というものがあって、いま俺に出来ることは何もない。


ディーノとイヴァの背中はやがて小さくなり、廊下の角に消えた。


「すぐにここから、退避してください」


この機動ロボに、俺が何かを訴えても、このセリフ以上の返答はなく、そこを無理矢理突破することは不可能だった。


俺は、機械のように体を反転させた。


カズコたちの言う通りだった。


俺に出来ることは何もない。


俺よりもずっと優秀でずっと経験豊富な、専門の人間に任せておけばそれでいいんだ。


俺はジャンにはかなわないし、ジャンやニールにしたって、俺相手じゃ素直に話を聞いてくれるとも思えない。


たとえルーシーを彼らから助け出したとして、そのあとのことはどうすればいいんだろう。


ジャンに謝る? それもおかしな話だ。


スクールに居つづけるためには、彼らとの摩擦を避けなければいけない。


だとすれば、スクールを管轄する彼らに任せるのが、やっぱり最適なんだ。


ルーシーは、必ず助けられるだろう。


あの人たちは、そういう人たちだ。


スクールの外に出た。


相変わらず曇の多い空を見上げる。


立ち止まった俺を、同じ場所から出てきた奴らが、次々と追い越していく。


さぁ、俺も、大人しく自分の定位置に戻ろう。


歩き始めた俺の前に、カズコとレオンの姿が見えた。


「おかえり、ヘラルド」


カズコはそう言った。


「スクールの課題は、自宅のパソコンから接続が可能になるそうよ」


レオンも静かに微笑む。


「わざわざ集められる口実がなくなって、ある意味ラクになったな」


彼の手がポンと俺の肩に乗って、俺たちは歩き出した。


「どっか、飯でも一緒に食って帰ろうぜ」


爆音と共に、スクールの一部から黒煙が上がった。


その煙はすぐに白煙に変わり、やがて消えていく。


スクールの消火機能は、ちゃんと動いている。


あの中で、あの小さな警備ロボットたちは、一生懸命動いているのだろう。


それらを全部動かしているのは、キャンプベースから来たあの3人だ。


俺の足が、オートマチックにスクールへ向かった。


「ヘラルド! ダメよ!」


カズコが叫ぶ。


俺は入り口の重い扉を体でこじ開けると、中へ入った。


スクール内部の灯りは、全て消えていた。


電気系統が独立している非常灯だけが、辺りを照らしている。


「キャンビー、ライト!」


俺の走る廊下の先が照らされた。


ジャンたちは、最上階へ向かったはずだ。


そこへ行く抜け道は、必ずどこかにあるはず。


俺は記憶の片隅を探っていた。


俺がここに来た時は、まだ5歳程度の子どもだった。


保育ルームで一緒に育った俺たちは、ここの内部の状態なら、誰よりもよく知っている。


俺はスクールの幼児ルームに向かった。


やっぱり、だ。


小さな子供たちはすでに退避して無人だったが、施設の内部はどこも無傷な状態だった。


壁際のスイッチに手を当てる。


手動で灯りが点灯した。

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