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はじまりのうた  作者: 岡智みみか
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第19話

そらから数日が過ぎた頃だった。


突然、レオンがチームに戻ってきた。


俺は何と声をかけていいのかも分からず、何事もなかったかのように、いつものように自分のブースに戻った、彼の背中を見送った。


それはカズコも同じで、俺たちはこんな時に、人間に対してどう接していいのかが、全く分からなくなってしまう。


レオンにはレオン自身の気持ちもあるだろうし、触れて欲しくないかもしれないし、もしかしたら、自分で話すタイミングを計っているのかもしれない。


そんな彼の気持ちを、俺たちは決して知りようがないのだ。


彼の感情を推測するアプリケーションは、「やや緊張気味」とだけ表示されていて、そんな事はアプリに頼らなくても、俺にだって分かる。


カズコも同じような視線で、彼を見ていた。


遅れて部屋にやって来たルーシーが、レオンを見つけた。


彼女はレオンを見つけたとたん、迷わず彼に飛びつく。


「レオン! レオン!」


背中や肩をバシバシと叩き、大喜びではしゃぎまくるルーシーに、彼は照れたように笑った。


「うん、ただいまルーシー」


彼女は一言も「お帰り」だなんて言っていないのに、彼にはどうしてそれが通じたんだろう。


だけど、俺にも彼女がそう言っているような、そんな気がしたのは確かだ。


ルーシーが彼に飛びついてくれたおかげで、俺たちも彼に近づくきっかけを得られる。


「どうしてたの?」


カズコはレオンに尋ねた。


だけどそんな事は、本当はわざわざ聞かなくたって、カズコにも分かっている。


レオンはキャンプベースの保護施設に入って、更生プログラムを受けていただけだ。


「キャンプの、プログラムを受けてた」


彼は、照れくさそうにそう言った。


俺は彼のそばに立つ。


ちらりと見上げて、肩をすくめた彼は、なぜそれで満足げな顔をしているのだろう。


教室に、ジャンが飛び込んで来た。


「レオン、お前は帰ってこれたのか! ニールはどうなった?」


そう言われれば、ジャンだけがこうやって、他の人間に対する気遣いを持っているような気がする。


それがきっと、彼の持つリーダーシップとかカリスマ性とか言われるものなんだろう。


レオンは急にモジモジと小さくなって、言葉を濁した。


「もしかしたら、転校になるかもしれないって」


部屋の空気が、一気に凍りついた。


転校になるということは、今より格下のスクールに入れられるということだ。


より一層厳しい管理下におかれ、受ける課題もハードなものになる。


それは、この世界に生きる人間としての、資質を問われているということだ。


「なんでそうなるんだ、だったら俺も同罪だろ!」


ジャンが叫ぶ。


「ジャンに警告がつくレベルと、ニールについた今回の警告だと、ポイントに違いがあるんだよ」


「どう違うっていうんだ!」


それは、キャンプベース中央管理システムのAIが決めることであって、俺たちが決めることじゃない。


「また機械の自動判定か!」


「だけど、その基準を作ったのは、俺たち人間であって、大人たちだ。AIはそれに従っているだけなんだから、そこに文句を言うのは間違っている」


「その規準がおかしいと思ったことはないのか? どうして俺はその規準に反して許されて、あいつは許されないんだ」


ジャンが許された規準は、明確にされている。長年蓄積されてきたヒトの行動パターンから、将来の危険性を予測したデータに、彼が反していないからだ。


だけどニールは……。


「ジャン、今ここで君がどれだけ怒ったって、感情に出したって、何も変わらないのは分かってるじゃないか。大切なのは、ちゃんとしたルールの上で戦うことだ。俺たちは、それを今、学んでるんだ」


扉が開いた。現れたのはニールだった。


「ニール!」


みんなの視線が、一斉に彼に駆け寄る。


「よかったじゃないか、無事に帰ってこれたんだな!」


「あんまり、めでたくはないけどな」


彼の後ろには、俺やルーシーが使っているのと同じ、汎用型球状のキャンビーが付き添っていた。


「おまけつきだ」


新しいニールのキャンビーが、くるくるとカメラを回して俺たちを画像認証をしている。ジャンは、それでも収まらなかった。


「こんなものをつけられるくらいなら、転校した方がマシだ!」


ジャンは強制終了棒を取りだし、それを振り上げた。


「何やってんだ!」


俺はキャンビーをかばって、とっさにそれを受け止める。


腕に鈍い痛みが響く。


「ジャンがそれを壊したら、ジャンだけじゃなくて、ニールにまで迷惑がかかるんだぞ!」


「ニールは、コイツにつきまとわれてて、いいのかよ」


ジャンがふり向いたら、彼はにやりと笑った。


「ほしくないよね」


ジャンが再び、棒を振り上げる。


「やめろ!」


危険を察知したニールのキャンビーが、ふわりと回避行動をとった。


俺はその前に立ちふさがる。


「どけ!」


ジャンは俺を押しのけ、突き飛ばされた俺は、ニールにぶつかった。


とたんにキャンビーが警告音を発する。


「落ち着いて行動して下さい。この現場は、キャンプベース中央管理システムによって、監視されています」


警報を受けて、部屋にはすぐに保安警備ロボが駆けつけた。


ニールは、ジャンに突き飛ばされた俺の下敷きになっている。


「すぐにそこから離れて下さい」


俺を助け起こそうとした警備ロボから、補助アームが下りて来た。


「だめ!」


そのアームに、ルーシーが飛びつく。


「定点カメラによる、状況分析のかいしを……」


ロボットが、緊急停止した。


彼女はきっと、俺がロボットに捕まり、連れて行かれるとでも思ったのだろう。


だが、今回は違う。


このロボットは、俺を助けようとしていたんだ。


「ルーシー、大丈夫だよ、このロボットは敵じゃない」


俺は、そこから立ち上がった。


その瞬間、ジャンの強制終了棒が、警備ロボに振り下ろされる。


身動き一つせず棒に触れたロボットは、電圧を吸収されて動きを止めた。


「ジャン!」


おかしい。


このロボットたちは、いつもと様子が違う。


いつもこいつら相手におもちゃにしてふざけている、その時と何かが違う。


異常を察知したロボットたちが、部屋に押し寄せた。


両手を広げ、立ちふさがったルーシーに、彼らは動作を停止する。


ロボットたちの動きがおかしい。


そう俺が気づくのと同時に、ジャンの眉がピクリとあがった。


「ルーシー、こっちへ来てみろ」


彼は、彼女の腕をつかむと、強く引いた。


ニールの周りで飛んでいるキャンビーを捕まえると、それをルーシーに近づける。


キャンプベースから更正対象者用に付属された、特殊なキャンビーが、その機能を停止した。

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