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はじまりのうた  作者: 岡智みみか
17/36

第17話

ロボットから伸びた巨大なアームが、俺の腰を覆った。


別のロボたちは、ニールとレオンに向かう。


レオンはニールをかばって、その前に立ちふさがった。


「監視カメラによる情報解析の結果、ヘラルドは無関係と判断されました」


腰のベルトがほどかれた。


「レオン、一旦ニールのそばから離れるんだ!」


大人しく判定を受ければいい、そうすれば、レオンはすぐに釈放される。


ニールは、更正プログラムを受ければ、また元通りだ。


「誰が大人しく捕まるもんかよ、もうこんな、機械に判定される毎日はこりごりだ」


ニールは、隠し持っていた強制終了棒を取りだした。


レオンの背中を押しのける。


警棒がロボットに向かって振り下ろされた。


「大人しくしてろ、そうすれば、すぐに済む話じゃないか!」


警棒をサッとよけたロボットに、レオンは自ら体をぶつけていく。


危険を察知したロボットは、レオンとの衝突を回避するため、動作を緊急停止させた。


別のロボットが、レオンの体を背中から包み込む。


内側にクッションが施された安全拘束帯が、彼の動きを封じる。


そのロボットに向かって、ニールは警棒を振りかざした。ジャンが飛び込んで来る。


「やめろ!」


間に合わない。


レオンの体ごと打ち付けられた警棒は、強力な電流を発した。ジャンは、ニールの警棒をたたき落とす。


「落ち着け」


その一瞬の隙をついて、ロボットアームがニールに伸びた。


ニールが捕まる! 


そう思った瞬間、そこに、ルーシーが飛び込んだ。


両腕を大きく広げ、彼を守ろうとしたルーシーに、ニールを捕らえようとしていたロボットはガクンと体を震わせ、動きを止める。


「とにかく、一旦落ち着け!」


ジャンの恫喝に、その場にいた人間の全員が大人しくなる。


ジャンは部屋の様子を見渡した。


「ニール!」


「キャンプベースの中央管理システムが、俺たちのプログラムに干渉してきて……」


警備ロボがニールを取り押さえた。


応援に駆けつけた他のロボたちが、室内を埋め尽くす。


こうなると、もうジャンがいくら警棒を振りかざして暴れようとも、どうすることも出来ない。


ニールはそのまま捕らえられ、連行されていった。


怪我をしたレオンを確保したまま、機能を停止していたロボットは、別の保安警備ロボによって、アームを解除される。


レオンは救護ロボによって助け起こされると、そのまま半強制的に車いすに追いやられ、運ばれていった。


このロボットたちの動きは、中央のキャンプベースによってプログラムされた管理態勢であり、それに逆らうことは許されない。


こうやって画一的に治安を保つことが、人間の感情や腐敗、偏見などの偏りを排した、ここでの『原則』なんだ。


感情ではなく徹底したルールの適用を厳格かつ公平に。


それが、俺たちが隕石衝突後の世界で作り上げた、新しい世界のルールだ。


ジャンは、ニールを詰め込んだ搬送車を見送った。


「何が俺たちをこうさせたんだ、なにが悪い?」


自分の思い通りにならないことは、確かに『悪い』ことかもしれない。


だけど、その『思い通り』の向く矛先を、間違ってはいけない。


それがこのロボットたちの、新しい俺たちのこの世界の、人工知能にプログラミングされた行動原則だ。


「ジャン!」


彼は部屋を出て行った。


彼の怒りは、プログラミングされたロボットたちにとって、何らかの影響を与える判定材料とはなり得ない。


カズコは、震えているルーシーを抱きしめた。


彼女は、声を抑えて泣いていた。


そんな彼女を、カズコはじっとのぞき込む。


「どうしたのルーシー、何を泣いているの?」


カズコがそう優しく声をかけても、彼女は反応を返さない。


「ルーシー、こんなことに、君はわざわざ涙を流す必要はない。レオンの無罪は間違いなく判定されるだろうし、ニールには新たな行動選択のための、価値基準が必要なだけだ」


それを更正と呼び、ニールはこれを学ばなければならない。


「ニールに必要なのは、学習だ」


彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、激しく横に振った。


「正しさは証明され、不正は修正される。間違いは直さなくてはいけないし、直れば元通りだ」


俺たちがそう何度説明しても、それでもルーシーは泣き止むことはなかった。


俺はカズコと目を合わせ、ため息をこぼす。


彼女にはそれが理解出来ない。


これ以上に上手い説明の仕方が、俺には分からなかった。

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