第七話
監視の早く入れと言わんばかりの視線を無視して考えていると、いきなり後ろから声をかけられる。
「おや、ヘイルス。そんなところでなにを」
「ホヒーッ!」
「そんなに驚くな、私だ、カラクだ。ほら落ち着け」
「ァア゛ーッ!不審者ァーッ!」
「不審者はお前だ!城の前でうろちょろして!昔からの知り合いをちゃんと認識しなさい!」
「それもそうですね」
「いきなり冷静になるな」
声をかけてきたのはヘイルスの父の友人、カラク・ラージだった。街の巡回をしてきたのだろう。彼女と会うときにはあまり見ない隊服を着ている上、なによりいつも跳ねている短いオレンジの毛が小綺麗にセットされている。
「それで、なにをしているんだ?」
「えっと……ちょっと剣を見たくて」
「なるほど。お前はそんなに城には来ないからな。入り口がわからなかったのか?」
「はい……実は……」
「懐かしいな、入隊直後の私のようだ。私も武器庫には用があってな。よければ剣の保管場所辺りまで一緒に行かないか」
「いいんですか?お願いします。カラクさん」
親戚のおじさんのように振る舞うこの男は、ヘイルスが一人暮らしのようになってしまったときに母や父に代わり面倒を見に来てくれたり、今みたいに困っていると声をかけて関わってくれる数少ない客ではない大人の一人だった。
貴族であり、武人でありながらも平民であるヘイルスにあわせて食事や睡眠をとってくれたこの優しい大人を裏切ることになるとは。ヘイルスの背中に罪悪感がのしかかる。
「ほら、いくぞ」
手甲を外して差し出された手をヘイルスがとれば、エスコートをし始める。歩く速さも合わせるし、ドアも開けてくれる。いまだに迷子になるときがあるのが致命的だけど素敵な戦士だった。ただ、そうされるたびにずんずんとヘイルス背中にのしかかるものには気付くことはなかった。