第五話
「ゔっああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ‼︎」
薄桃色に輝く魔法陣から逃れることなどできず、身体に踏み潰されるような痛みがはしる。
「魔法陣をに気づいて汚されたてたらまた描き直さなくちゃと思っていたけど、シーツが大きかかったから知られずにすんでよかったよ」
ただただこの激痛がおさまるのを叫んでうずくまって待つしかない彼女には少年がどんな顔をしているのかわからない。
声が枯れるほど悲鳴を上げさせて、地獄のような時間は彼のこんなものかな?という言葉で終わりを告げた。
「紋、よし。肉体も……無事だね」
「オ゛ェ゛ッ゛……ェ゛ホッ…………………」
「しゃべる気力はなし……精神の方はどうかな……ちょっとダメになってるくらいがいいんだけど」
人の顔掴んだままおそろしいことを言う少年は、術がうまくいったみたいで鼻歌まじりにヘイルスの拘束を解いていった。
……チャンスだ。
拘束が完全に解かれた瞬間、王子を押し倒して持っていた糸ヤスリをとり返す。そしてそのま首に糸ヤスリを巻きつける。殺さず、されど逃さず。絶対に絞めすぎてはいけない。脂汗が首筋を伝っていった。
「ヘイルス、やめろ」
「…ここは一体どこですか。家に、返してください」
「はあ……何度やっても最初はやっぱりこうだな……。主人の命令は聞くものだというのに」
「……何を言っているのか理解できなッ……!」
糸ヤスリを持っている腕に刻まれたヘイルスの髪と同じくらい黒い幾何学模様。思わず持っていたものを手放して立ち上がって全身を確認する。
「な、なに、これ……」
腕だけじゃない。足にも胸にも。水たまりをのぞけば顔にはないものの首にさえも付いている体が映った。全身の感覚が誰かと一方的に共有されているような不快感に苛まれる。
「もう気付いたんだ。前のは薄かったけど青っぽいよりかはマシかな。でももう少し分かりづらい付け方にした方がよさそうだね。その色は明らかすぎてだめだ」
「わッ、私になにをしたんですか⁉︎」
立ち上がった少年に枯れた声で聞けば、あのきみの悪い笑みを浮かべた。
「傀儡魔術」
「……え?」
「きみに合わせて簡単に説明すると、人間を操るための魔術だよ。ついこの前完成させて二回しか人間は成功ことないしまだ身体に馴染んでないから簡単なことしか命令できないけどね」
手足の先が冷えるのを感じる。
「君は僕たちレジスタンスの人質であり一員であり、僕の下僕となったんだ」
ああ、そうだ。この少年、どこかで見たと思えば。
「自己紹介が遅れたね。僕は、タリフト・ヴォルクスレイン・クラーディナ四世。この国の第五王子だよ。知っているだろう?」
十二歳の若さで、最悪とも言える魔術ばかりを開発したと言う、国の恥さらしだ。