第四話
……遠くから声がする。薄ぼんやりと覚醒しかけのヘイルスの体に冷たく硬い感触が走っている。
「…………………どこ?」
眠気を振り払うこともできずうっすら目を開ければ、シーツを引いただけの平たい地面が目に入る。暗くてじめじめしていて、床にはよくわからないシミがちらほらと見えている。まるで牢屋のようだった。なぜか痛む額をさすろうとした腕は、金属同士がぶつかる音と痛みがあっただけでだけで動かない。
起き上がろうとすればじゃらじゃらとまた鎖が音を立てた。彼女の頭から伸びるいくつもの三つ編みと絡まっているそれは、床と繋がってる分がかなり短くしてあり、歩きまわるどころか立つことも許していないようだった。鎖になんの術式もかけられていないことを確認すると、魔法の才能がない人間には破壊なんて不可能と考えたのだろう。
これならば破壊できる。ヘイルスはそう思うと靴底に隠してた糸ヤスリを不自由に拘束された腕で取り出そうとする。しかし。
「君が探してるのって、これかな?」
「……返して頂くことは?」
「できないねぇ」
糸ヤスリは階段から現れた少年の手の中にあった。ただ少年の美しい顔を睨みつけるしかないヘイルスは、本当に運が悪いと言う言葉が似合っている。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。君が大人しくしていればすぐ終わるからさ」
「……何を、する気ですか?私、ただの鍛冶屋ですよ」
コツコツと足音を立てて近づく少年の手には路地裏でも持っていた分厚い本。魔法に関係があることなんて知識のないヘイルスでもわかってしまった。これから屠殺される動物のようなヘイルスを見て、少年はまた微笑んだ。
「アラウ地区の鍛冶屋、または国王直属鍛冶師ヘファイの後継者、ヘイルス。ただの鍛冶屋って言うにはすごい肩書きだね。まあ、これから君はレジスタンスの人質になるんだ。これくらいの肩書きがなくちゃ意味ないんだから、君はすごく運が悪かったってことで」
茫然とするヘイルスを放って床のシーツをとっぱられる。ずるんとシーツから転がり落ちる彼女、その下には……魔法陣。シミに見えていたのは、その一部だったのだ!