人気芸人の悩み事 ー名探偵藤崎誠 解決編
「えッ、自分の家でロケですか」
男は絶句した。
彼は少しビビりで繊細が持ち味の芸人、
絶賛売り出し中だ。
「いいろだろう。
この前、いい部屋に引っ越しただろう」
マネージャーは何が不満だと言いだけだ。
「自宅がバレるじゃないですか」
芸人が渋々答える。
「可能性はないことも・・・」
番組ディレクターは漏らす。
「それくらいしょうがないだろう」
マネージャーが睨む。
「でも・・・」
芸人は言葉を詰まらせる。
「でもなんだ」
マネージャーが詰め寄る。
「四月から生放送始まるでしょう」
芸人は答えた。
「だから?」
マネージャーは低い声で言った。
「そういうことか」
ディレクターは一つ頷く。
「番組放送中に泥棒に入られる・・・」
芸人は無言で頷いた。
「それだけじゃ・・・」
彼はつばを飲み込んでから言った。
「誰かが部屋に入って、大麻を置いて、
それを写真にとって、強請られる・・・」
「そんなことあり得るかッ」
マネージャーは失笑した。
マネージャーは腕を組んで考え込む。
芸人の心配症はひどかった。
予備のスマホが充電中かもしれないと言われ、
芸人の家に行ったこともあった。
電池が過熱し火事になるかもしれないと心配して。
ディレクターはポンと手をたたいた。
「お願いしましょう。
彼に。
名探偵藤崎誠に」
藤崎はテレビ局へいそいそと出かけた。
藤崎は探偵だけでなく、小説も執筆している。
その小説がドラマ化、映画化され、そして主演女優と・・・
そのためにはテレビ局との関係は大切だった。
話を聞いて藤崎はニコリとした。
そして、
「名探偵にお任せあれ」
と胸に手をあて、深く頭を下げた。
即答だった。
「いい部屋に住んでますね」
レポーターが芸人に言った。
「最近、引っ越したんです。
家賃は厳しいですけど、モチベーションになります」
芸人はすかさず言った。
高い家賃をいじられると、好感度が下がると心配して。
「この部屋は寝室ですか」
レポーターはドアを開けようとする。
「すみませ」
芸人はドアを抑える。
「後輩芸人が住んでます」
「誰ですか」
レポーターが質問する。
「まだテレビに出てないので・・・」
芸人は口を濁した。
レポーターの興味は巨大画面のテレビに移った。
そう。
ウソである。
後輩芸人が住んでいるというのは。
これは藤崎のアドバイスだった。
生放送中でも、売れない後輩なら、
常に部屋にいるだろうと思わせるために。
芸人は勝手にレポーターが部屋の中のモノを振れるのを
心配しながら自宅ロケを終えた。
それから半年後、
番組生放送中に芸人の家に泥棒が入ったという事件が発生した。
バレたのだ。
後輩芸人が住んでいるというウソが。
彼本人でなく、マネージャーが他に担当しているベテラン芸人に漏らしてしまった。
そのベテラン芸人が面白ろ、おかしくトーク番組で話したのだった。
でも、被害はなし。
なぜなら、泥棒は捕まったからだ。
警備会社の巡回員に。
藤崎は単にあのアドバイスをしただけでなく、
部屋への侵入を通報する警備会社のシステムも紹介していた。
この事件はワイドショーで取り上げられ、
彼の知名度が上がった。
それとともに警備会社も。
泥棒が侵入し、その泥棒を警備員が取り押さえた映像が、
テレビでもネットでも話題になった。
それを契機に警備会社は芸人をCMに起用したのだった。
そして芸人は売れっ子になった。
すべては名探偵藤崎誠の筋書き通りとなっていた。