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インザダスト第2回■老人はここは下の世界だという。記憶は消され過去の栄光はない。上の世界の食べ物を生産する畑を管理する役割だという。そして絶望するなとも。

インザダスト第2回(1986年)SF同人誌・星群発表作品

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

●http://www.yamada-kikaku.com/ yamadakikaku2009ーyoutube




誰かかゆり起こそうとしている。

 老人が、一人私の顔を覗き込んでいた。


 「新入り、起きろ」


 男の顔に深く刻まれたしわの一つーつが、男の過去が尋常でなか

った事を物語っている。背が高く、やや猫背だった。


「やっと目覚めたかね」

 男はしたり顔で言った。低音で人の心を揺さぶる者の声だった。


「まあ、ここに慣れるまでは時間がかかるだろう。この世界での生

活もそうむつかしいものではない」

寂しい眼だった。

 「私はいったい,,,,。」


 私は思わず、叫んでいた。

演技が必要だった。

自分が立っている基盤というものが不確かだったからだ。


足を一歩踏み出す度に、地面に飲み込まれそうな感じの男の姿を

表す必要が。


「そう、お前は、下の世界へ落されてきたのさ。ここは老人の国産

のだよ。か前さん、覚えちゃいないだろうがな。下の世界は俺たち、

老人の国なのだ。上の世界、若人の国から追放された者遠の国だ。


お前さん、今までの事はもちろん憧えちゃいないだろう。


ここでは上の世界での身分や地位は通用しない。


もちろん、そんな個人的な事はすっかり上で消去されているはずだが。


地位、身分、それは意味のない言葉だ。

当然この俺も、上の世界で誰だったのか、覚えちゃいない。

まあ郷に人れば郷に従えだ。この下の世界も悪い所じゃな

いさ。まあ外を見てみろ」


 私の横たわっていた小さな部屋の窓からは一面の畑が見える。


畑は美しい黄金色に輝いていた。

私はそれに見とれていた。

その黄金の波は限りなく、地平線まで統いているのではないかと錯覚させる。

ただ、地平線が少し丸る身を帯びているのだ。

そこが気になった。


私のいる、この建物は農場の中心に立つ、高い塔のようだった。


 「ここはどこなんだ」


 「ここは収穫の塔さ。あたり一帯が、俺遠が管理しなきゃならん農

場さ。プランテーション36だ。この穀物は上の世界のやつらの食

糧だ。


早く言えば、上の世界の奴らを、下の世界の我々か食へさせ

てやっているのさ。

そうでも考えなけれぱ、我々は生きてはいけないからな」


「ここで、この私は一体伺をすればいいというのだ」


私の声は疲れ切った男のそれだった。


 機械的に男は答えた。

「ここの穀物の管理さ。といっても実作業はロボソトもいるし、こ

のタワーにある管理センターでチェックされているからな」


「それじゃ、伺を我々にやらせようというのかね」


私の声は心なしかまだかすれていた。


「この農場を管理している機械、機構のチェソタさ。機械が完璧に

作動しているかとうかを見ていればいいのさ。

簡単な事さ。いや簡単すきる」


 老入のつふやきのようにも聞こえた。もっていき所のない怒りで

あろう。老人としての疲れか、顔の裏側からのぞいているようである。

しかし、今度は鋭い眼ざしで私を見つめた。


 「が、これだけは言っておくぞ、新入り」


 男の表惰は厳しく、その顛を私に近づけた。


 「いいか、絶対に自殺しようなんて考えはおこすなよ。確かに俺達

は、昔は上の世界で活躍してきたかもしれん。


しかし、今我々はそ

の役割を終えてしまったのだ。


いわば、これからは余生というわけだ。気楽に考えろ。

いいな。ここでは思いつめて死ぬ奴が多いのだ。

あまりの落差に絶望して産。若人の国と老人の国との差だ。


個々人の生活史は消去されているはずなのだが、かっての栄光の思い出が

残っているやつもいるようだ」


続く


作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

(1986年)SF同人誌・星群発表作品

●http://www.yamada-kikaku.com/ yamadakikaku2009ーyoutube

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